9.2話
「でも、せっかくだから宿にも泊まりたいねぇ~。ワインの聖地なボルディガレの街にきたんだしゆっくりくつろぎたいのが人情ってものじゃない。いや、飲むためのワインは別にいらないけども。……ババアがもうちょっと気前よければねぇ」
と、イブがぼやいていると、通りすがった男性が声をかけてきた。
「まあ、そういうな。稼いだ金で遊ぶのは自由なんだからな」
「おや、噂をしてないけれど、ギリアンさん。そうはいっても稼いだ額の大部分はババア預かりじゃないですかーやだー」
がっくりと、イブがうなだれる。
ギリアンと呼ばれた男性は子供だらけのこの傭兵団にしては大きな体格であった。
道中に何度か見かけたかもしれないが、話すのははじめてだ。
「子供に大金を持たせるのは教育に良くないというのが婆さんの方針だから仕方あるまい。実際、こいつらが貰っても無駄に浪費してしまうだろうしな。貯蓄管理をしてもらい、必要なときには渡してくれるのだから大切にされてるということだろう。俺も色々買いたいものはあるのだが……」
「イブちゃんも素材買いたいよー」
マイが小さな身体で大人びたことを言って頷いた。
そんな姿をみて、しっかりした人だなぁ、とカナが心のなかで感心する。
「あれでグランマは寛容だぞ。申請すれば大抵は認めてくれるだろ」
「いや、ちょっと人には言えないやべえブツなのでして……。うぇっへっへ……」
何とも言えない表情になってイブが苦笑いをみせた。
「やばいって言っちゃってますよ、カナ姉様」
「やっぱり面白い人だね。冗談なのか本気なのかわからないよ」
「……お前には金を出さなくて正解だと思うな、俺」
呆れた視線を送ってから、ギリアンがカナの方を向く。
「ところでグランマとは、団長さんのことですか?」
「ああ。この団ではグランマで通ってる」
ギリアンが頷いてから短く答えた。
「そんなことより、カナとロロだったな。俺はギリアンだ。部隊長をしている」
「はい、カナです。子供というには大きいですが、古参の方ですか?」
「はは。見ての通り子供ではないな。ここで過ごしていたらいつの間にか指導する立場になっちまったよ」
小さく笑って、ギリアンは頭をかく。
なるほど、育った子供の一例というわけだ。
子供たちを指揮して長い間生き残らせるのだから、オーリエールの手腕は確かなものなのだろう。
「みんなの兄貴分みたいな人ですよー、ギリアンさんは」
イブがそうまとめたところで、手をあげて答えつつ、少し恥ずかしそうにしてギリアンは去っていった。
……褒められるのが苦手なのかもしれない。
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