第9話 楽しい傭兵スローライフ

 開けた平原にて、傭兵たちが掛け声とともに武器をふるって戦っていた。

 鋭く打ち込まれる木製の武器がぶつかり合い、辺りに高い音を響かせる。

 これはオーリエール傭兵団の訓練のひとつであり、試合形式の一対一の勝負が同時に複数組で行われていた。

 戦いあう少年少女の様々な声が混ざりあうその周囲を、大小様々なサイズの子供たちが、輪のようになって眺める中――。


 周囲の注目が、ひとりの新人へと集まっていた。

 わずかな動作だけで的確に棒を操り、相対する童顔の少年、ミルカの攻撃をいともたやすくあしらう、銀髪の美少女へと。


「凄いな、新人ちゃん。カナだっけ?」

「ああ。ミルカが子供扱いだ。……まあ子供なんだが」

「はは、そりゃあ俺もお前もだな」


 そんな周囲の声を聞きながら。


 ミルカが悪い動きをすればその隙を突き、良い動きならばそれを防ぐ。

 淡々と、淡々と。

 カナはただそれだけをやっていた。


「あの子、落ち着きぶりが半端じゃないな。……動きが静かすぎる」

「ギリアンさん。あいつ凄い余裕なのに、全然倒そうとしないっすね」

「ああやって、ミルカに教えているんだろう。悪いところを修正させ、良いところを伸ばしている。試合というか、指導だな」


 周囲の声を他所に、ミルカは集中して攻めを続ける。

 いくつかの反撃を食らい荒い息を吐くが、その目はカナをとらえたまま闘志は消えていない。

 だが、疲労によって動きが雑になったミルカの剣が振り上げられ、そこへ合わせるようにカナの棒が放たれる。

 ピタリ、とミルカの喉の前で棒は止まり、そこで試合は終了した。


「あ、ありがとう、ございました……!」

「はい、こちらこそ」


 肩で息をしながら、ミルカが礼をして、カナは涼やかに頭を下げた。

 馬の背で寝ている妹のもとに行こうと歩き出したところで、観戦していた少女ふたりから声がかかる。


「カナちゃん、かっこよかったぞー」

「棒使いって珍しいね」


 そんな言葉に、カナは首をかしげながら答えた。


「ありがとうございます。名前を知らない少女さん」

「って、カナちゃん名前覚えてよ!?」

「いやいや、そもそも自己紹介してないよー、私たち?」


 というように、カナが薄情にも忘れているというわけではない。

 入団の際にカナのことは紹介しているのだが、団員の多さもあって、この傭兵団のひとりひとりからは自己紹介されていないのだ。


「この子はアンナ、私がエレーヌ。他は有象無象でいいからね」

「いや良くないよ!」


 有象無象と呼ばれた近くの少年からクレームが入った。

 そんな様子をながめ、カナはにこりと微笑んだ。

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