8.3話

「それじゃついでに、これから向かう先でのお仕事の話をしておくかねえ。ワタシらを雇うのは反乱軍、と呼ばれている貴族だ。もう契約はしてある。アンタの兄からも頼まれているから稼ぎの二重取りってとこだね! 美味しい話だよまったく」


「反乱軍……ですか?」


「アンタ、政治とかには疎い口だったか? いいさ、説明してやろう」


 オーリエールが飲み終えたティーカップをどけてから、ごそごそとバッグを漁り出す。

 薄汚れた地図を取り出して、テーブルに広げていった。

 真面目な話がはじまる雰囲気を感じて、カナはロロから離れて再び横に並んで姿勢を正した。


「簡単に言えば、宰相率いる王党派と、その抵抗勢力――反乱軍だとか協調派だとか呼ばれているやつらによる内部抗争だね。アンタの兄は協調派を影ながら支援しているのさ。本当は宰相とアンタの兄がぶつかれば早いんだろうけどね。宰相からしてもアンタの兄と直接やりあえない事情がある」


 カナもその話を聞いて、アリエーナ伯爵家の歴史や影響力の大きさを思い出す。

 王国自体よりも古い歴史をもつアリエーナ伯爵家の格式はとても高く、他の宗教に寛容な領主はアリエーナ伯爵を中心として宰相側の強引な宗教政策に反対しているのだ。


「なんせ直接やり合うと国が二分される事態になるからねえ。そんなことしたら国外に向けて『内乱勃発中です。干渉して食い物にしてください』ってアピールしているようなものさ」

「なるほどー、そういうものですか」


「そういうものさ。だから王党派も極力、直接対決は避けて内々に収めたいわけだ。宰相の方が有利かにみえるが、国外への対処もしないといけないし、隣国と接しているアンタの兄も当然それは同じでね。ここ最近は周辺諸国に大きな変化があったからさ。弱みをみせたくないのさね」


 そこまで説明したところでオーリエールが金貨の袋を取り出して手で遊び始めた。


「そこでお互いがバックについての代理戦争さ。王党派は反乱軍という名目で宰相に反対する勢力を潰そうとし、アンタの兄は反乱軍とやらを支援するって構図になったわけだね。わかったかい?」


「……小規模な反乱、という形を装って体面を保っている、ということですか」


 ふむ、とカナは考え込む。

 それならば何故、動ける時期を見計らって行動にでなかったのだろうか。


 と、ひとり考え込んでいると、頭の中にクロの心象風景が広がっていく。

 ぽんぽん、と座椅子を叩くので、カナはそれに従って座った。

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