8.1話
クロと話していたことで、わずかな間が空いた。
そこでオーリエールは、いったん口を閉じたカナが何かを言いたそうにしていることに気付く。
「……他にもありそうだね。言ってみな?」
「これは推測ですが……。あなた方は元々アリエーナ伯爵から、セタ兄様から依頼を受けてあの場に居たのではないでしょうか?」
「ほう、こいつは驚いたね。まだ何も教えていなかったはずだが。……どうしてそう思ったんだい?」
オーリエールは紅茶を口に運び、一息ついた。
カナの手元にあるティーカップからも伯爵邸でも良く飲んでいた飛竜諸島産の茶葉の香りが漂ってくる。
このような高級茶葉を傭兵が飲んでいるあたり、紅茶が趣味なのだろう。
カナも紅茶を飲み、考えを整理しながら、少しして口を開いた。
「まず伯爵邸を去るときに何故か狼煙があげられていたことです。狼煙ということは誰かへの合図。そして、あのときに現れたのは王の刺客である近衛騎兵隊と、その直後にやってきたあなた方の傭兵団だけです」
「そうだね」
「王の刺客の方は行軍してきた様子も伺えましたし偶然でしょうが、……その後すぐに傭兵団が2人だけで現れて、残りは近くに潜んで様子を伺っていたというではありませんか。これは偶然にしてはタイミングが良すぎます。戦いがはじまるもう少し前から、離れた位置で待っていたのではないでしょうか?」
カナの指摘に対し、オーリエールは静かに笑みを浮かべて聞き続ける。
「……それに先ほどリルデに向かう早馬をみつけました。すでに通った場所に早馬ということは、連絡したい相手がいるということ。このタイミングで連絡する相手と、その用件は何だろうと考えたのです」
「それはなんだい?」
「このわずかな間にあった変化は僕とロロの存在だけ。恐らく、軍馬を届けたときにも連絡をとっていたのでしょうけれど、さらに連絡を行うのだから以前から何かしらの計画が進んでいたのだと推測しました。……セタ兄様は僕などよりずっと色々なことをお考えでしょうから。僕たちを追放した上で、こうして僕たちを保護させたのも計画のうちなのかなと」
「よくわかったねえ。正解、と言っても構わないだろう。口止めはされてないからね。元々、ワタシらはアンタの兄から頼まれてこの国へ来たのさ。丁度、キィラウア王国の方での仕事が終わったところで手が空いていたからね」
出来の良い生徒を褒めるように、オーリエールが機嫌の良さそうな声色で答えた。
『うむうむ。大体そんなところじゃな。よくできたのー。どれ、頭なでてやろう』
『頭の中で頭を撫でられるのも不思議な気分』
クロの答えとも合っていたようで、カナはなすがままに頭を撫でられた。
キィラウア王国とはロメディア半島南西の端にある国家で、マイも参考にしたほどの戦術家がいた国らしい。
カナは他国の情勢に詳しくはないのだが、ここまでの情報からキィラウア王国が戦争をし、そして勝利したことは推察できる。
「もっとも、アンタたちが断るならそれで良いとも考えていたようだよ? さっき、馬を届けたフレンツのやつが本人からそう聞かされたってさ。好きなように生きればいいとね」
「そうでしたか。やはり、セタ兄様はお優しいですね」
感慨深そうにカナが頷く。
そしてロロの方へと手を伸ばし、横から絡むように抱きついた。
ロロは少し驚いたのか、一瞬ぴくりと動いたが、変わらずに無表情のままにも見える。
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