第8話 そうだ、傭兵になろう

 賑やかな食事のあと、カナとロロはテントの中でオーリエールと向き合っていた。

 ここへ来たのはカナの意思であり、あまり引き延ばさずに今後の身の振り方を決めるためだ。


 団長用のテントの中には組み立て式のテーブルと簡易な椅子が設置されており、この場にいる3名が椅子に座っていた。

 先ほどまでは、他にセミナリアという女性がいたのだが、紅茶を淹れたあとはこの場から去っている。

 差し出された紅茶に口をつけ、落ち着いたところでカナが切り出した。


「さっそくですが、傭兵になろうと思います」

「おや、ずいぶん決断が早かったねえ。よく考えたのかい? 向かう先の街についてからでもいいんだよ?」


 オーリエールはその言葉に少し意外そうな反応をみせる。

 それに対し、迷いのない表情でカナが答えた。


「はい、少しの時間ですが、よく観察した上で考えさせていただきました」

「理由を聞かせてくれるかい? もちろんワタシが誘ったんだからどんな理由でも構いやしないけど、興味があるからさ」


「まず僕たちは、生活費を稼ぐ必要があります。そして、世俗的な常識を知らないという難点もあります。さらに追われている事情から、身の安全を確保しなくてはならず、一定の武力集団に所属したほうが無難です。また、国に追われていると知りながら、力を見込んでスカウトしてくれたということは、多少のデメリットは容認していただけるでしょうから」


 カナは現状を分析し、厳しい現実が待っているだろうと考えた。

 なにより、自身だけならばともかく、ロロの安全の確保は最重要である。

 そうした中で、生活費を稼ぐための手段とロロの安全が両立できる職場というのは今の状況に適したものと言えるだろう。


「よしよし、状況は把握しているようだね。世間を知らないお貴族さまの子供が後ろ盾なしで生活していくのは難しい。まして国に追われているなんてデメリットは、それだけでお断りだろうさ。冒険者ギルドなら仕事はくれるかもしれないが、身の安全は守ってくれない」


 カナの答えの採点をするように、オーリエールはひとつひとつ解説を付け加えていった。


「そして、ワタシがそうしたことを織り込み済みだというのもその通りだよ。アンタがただの子供じゃないと、この目でみたワタシがいる仕事先さね。何かやりたいことがあるにしろ、当面の間はウチで稼いでいくのが利口ってものさ。国外に出るにせよ、金がないんじゃ話にならないからね」


 そこまで言って、オーリエールはニヤリと笑って満足げに口元を歪める。


 一方で、カナは別のことを考えていた。


『……もうひとつ、気にかかっていることがあるんだ』

『こふふー。儂はもう気付いておるが、カナはどうかのう?』


 にまにました顔で、クロが頭の中でつぶやいている。


『どうかなあ。抜けてるところがあったら教えてね』

『くふふ。答え合わせが楽しみじゃな』

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