7.1話

「はじめまして、ワタシはマイリーズ。皆からはマイと呼ばれている。よろしくな」


「僕はカナと申します」

「……妹のロロです」


 カナがそう言って、マイから差し出された手を握ると、ロロもそれに習って握手をした。


「全員、止まれ! 客人が来た。あと少しで食事になるから、この辺りで切り上げようか」

「了解! やっと休憩かー。マイは凝り性だからな」

「客人さまさまですね。……よくみたら、あの客人さんすごく可愛い」


 マイの号令とともに、訓練をしていた子供が小さな声でそんなことを口にしながら散り散りに移動していく。


「その珍獣が案内人では大変だったろう。他の奴はそこまでおかしくないから安心してくれ」

「マイちゃん、珍獣とは酷いんだぜー」


 イブが不満の声をあげるが、当然のように誰も気にしなかった。、


「こいつのことは置くとして、訓練に興味がおありかな」

「ええ。よく練られた高度な動きをしていたものですから、つい見入ってしまいました」


「嬉しい言葉だ。このチームはワタシの考案した戦術で動いているからな」

「なんと。マイさんが考案されたのですか」


 その言葉に、カナも思わず表情を変える。

 マイの発言は驚愕に値するものであった。

 カナが少し見た範囲だけでも複雑な戦術をオリジナルで組み立てたのが子供のような少女とは。

 これほどの才であれば、リーダー格だというのも頷ける話だ。


「ロメディア半島南西のキィラウア王国で開発された戦術を私の好みで改良したんだ。宰相エーボンハンドが編み出したという元々の戦術はもっと防御重視のものだったのだが機動性に難があってな。そもそも預かっている兵数が軍よりもずっと少ないので……」


「おいおいマイちゃん、いきなり語り過ぎだぞぅ?」


「……む、確かにその通りだ。お客人に失礼したな。ああ、マイと呼び捨ててくれて構わない。この珍獣のこともな」


「了解しました。マイ、イブ」

「これでイブちゃんともマブダチだぜ、おういえーい!」


 イブが賑やかにグーを突き出して飛び跳ね出す。


「マイと珍獣ですね、ロロのことはロロでいいですよ。珍獣にはロロ様と呼ばせてみるのも面白いでしょうか?」


 丁寧な口調でロロがさらりと毒を混ざていく。

 ぶーぶーと抗議の声をあげながら、イブが口をとがらせた。


「珍獣じゃないですぅ! レアではあるけど! ねーぇ、イブって呼んでよーロロ様ロロ様ロロ様」

「すみません、やっぱりロロ様はやめてください、長さに統一感がないので。仕方ないのでイブって呼んであげましょう」


 ロロの方もなんだかよくわからない理由で様付けを自ら口にした拒絶する。

 そんな姿に、カナは苦笑しながらマイの方を向いて話題を戻した。


「僕も戦術には興味がありますから。そこまで考えていらっしゃる人がいらっしゃるとは驚きました。感服です」


 クローゲンの記憶を受け継いだカナは、記憶の中の戦争をいくつか見て、戦場というものを知っている。

 戦の天才と呼ばれたクローゲン本人からの教えもあって、カナもまた指揮官としての知識を習得しているのだった。

 とはいえ、聖女として過ごしていたカナ自身は、戦争とは無縁の生活であったのだが。


「ほう。カナも戦術を語れるクチか。私は部隊長ではあるが、本職は技師だ。シードワーフの本能というやつかな、そうした仕事が好きでね。鍛冶もやっているから武具の手入れは遠慮なく言ってくれ」


「ああ、シードワーフの方でしたか。どうり……、その時はよろしくお願いいたします」


 うっかり失礼な言葉を漏らしそうになったカナだが、なんとか押しとどめて修正する。

 シードワーフとは、主に北海諸島を縄張りとするドワーフ族の一種で、海に進出し適応した種族のことである。

 ドワーフならではの高い技術力を航海分野においても発揮して、何百年か昔には大帝国を築いたこともあるという。


「どうりで小さいと思ったろう? 単なる事実だから構わない」


 マイは気にしていない様子で、微笑みながら人指し指を立てた。




 そこで大きな金属音が響いた。

 その音を聞くと同時に、その辺りで休んでいた皆が一斉に同じ方向へと歩いていく。


「おおっと、食事のお知らせですぞー。マイちゃん、カナちゃん、そこらで切り上げていこっか!」

「ああ、そうだな。さっき街に寄ったとき、私が良い肉を仕入れてきたんだ。食いしん坊共に食いつくされないうちに急ごう」


「それは楽しみですね。……さ、ロロ」

「……はい、姉様」


 イブとマイが先導するうしろを、カナとロロが手をつないで歩いてゆく。

 言葉少なめだったが、人見知りをするロロにしては楽しそうにしていたようだ、とカナが微笑ましそうに目を細め、ロロはそれをいぶかしげな目付きで返すのだった。

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