第7話 シードワーフの戦術家

「いやー、しっかしロロカナちゃんたち、凄い美少女ちゃんだねぃ。ここで最高の美少女である余の次くらいには傾国の才があると認めてやろう、フハハー」


 案内を務めるイブリスが棒読みのような笑い方でカナたちに絡んでいる。

 コロコロと変化するイブリスの喋り方は、どれだけのパターンがあるのだろうか。

 ある意味では感心するのだが……。


「もしや、イブリスさんは一人称が不安定な人なのでしょうか?」

「残念でしたね。今日からはカナ姉様が最高の美少女の座につくことになります」

「ってロロは何故、僕を使って対抗を? そんな座いらないし」


 変な方向にそれた話にカナがつっこんだ。

 大体、元は兄様だったその姉様より、ロロという妹様の方がその座に相応しいのではなかろうか。


「呼び方はご自由に~。イブでもイブでもイブでもいいですぞ。やったね三択だね! さんとか、ちゃんとか、様とか、グレートサタンとかつけなくていいからねん」


「実質一択では。というかグレートサタンって何……」

「姉様、この人グレートうざいです。グレートうざたんでは」


 ついにロロがストレートなことを言い出した。

 だが、その表情はいつもと変わらないもので、怒っている様子はみられない。


「ちなみにこれから会いに行く子も、アテクシよりは劣るけど美少女ちゃんさぁ。背も胸もミニマムでバーサーカーだけど」


「その人がリーダー格なんですか?」

「そそー。マイちゃんはクソチビだけど意外とデキル子なのですぞ」

「……もしかして仲悪いんです?」


「そこはご想像とご妄想にお任せなのだよ、諸君。イブ的にはラブでライフなラブラバーですけども?」

「ああ、うざがられてると」

「ロロも納得です」


 カナたちが雑に受け流していると、少し歩いたところで、イブの足が止まった。

 その前方では十数人の子供たちが武具を装備した状態で、訓練を行っている。

 子供ながらにきびきびとした綺麗な隊列を組み、かわるがわるに部隊ごとが目的をもって動いているではないか。

 その部隊行動を指揮しているのが、ひとり外れた所に立つ小さな少女であった。


「いくぞー。歩兵隊は左翼に転進。槍隊がそこで前に出て抑えるんだ。そこで弓隊が、……って止まれ! ディック、お前、少しズレてるな。ミルカの隊もだ。姿勢を直せ。こっちを向け。良ーし、進みながらやってみろ!」


 子供の部隊とは思えない高度な戦術の訓練だ。

 彼らは少女の言葉で微修正を行い、すぐに隊列を維持したまま行動を再開した。

 次々に隊形が変化していく見事な流れを見れば、その練度の高さを十分にうかがい知ることができる。


「精密で本格的ですね。兄様の調練を思い出します。……詳しくはないのですが、傭兵もこうした隊形訓練をするのですか?」

「そこは傭兵団によって変わるかなー。雇われて暴れるだけの団もあれば、うちらみたいにきっちり戦術詰め込んで備えとくって団もあるし」


 と、カナに答えつつ、イブはすたすたと指揮している少女に近づいていく。


「やあやあ、マイちゃん。ちょいとお邪魔するよん」

「む、イブか。そちらのおふたりはお客人かな」


 声を掛けられたマイと呼ばれた少女は、イブを見てすぐに後ろにいた見知らぬ者――カナたちへと目を向ける。

 短めの髪で小さな背丈ではあるが、こちらもイブリスに負けず劣らず端正な顔立ちの少女だ。

 意思の強さを感じさせる瞳に、金属鎧を身に纏うその姿は可愛らしさと凛々しさが同居しているようであった。

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