前日譚3.3話
次こそ完璧な悪い子を演じてみせよう、とカナが心の中で計画を練っていたのだが……。
「陛下。あちらにお好みの金髪の美少女がおります」
ルグドゥ公爵が指さした先にいたのは、ロロだった。
とっさにロロの方を向くと、王がのっしのっしとロロに近寄っているではないか。
慌ててセタを探すが、ロロの付近にはいないようだ。
『ロロが危ない……っ』
このままではまずい。
とっさにカナが早足で詰め寄るが、先ほど人の少ない位置に離れたことで、接触までに間に合いそうにはない。
視線の先では、ハフハフと荒い息を吐く王に、ロロが冷ややかな視線をおくる。
「ブッフフ。まさに金髪の美少女。良いのう、余のために生まれてきたのではないかな。ブフゥ。こうして掘り出し物が見つかるのだからパーティーに来たのも正解じゃったわい。ブフフ……、余がかわいがってやるぞ。もちろん厩舎でな」
ニチャ、と気持ち悪く口元が歪められる。
そんな王に対し、心底うんざりした表情でロロがつぶやいた。
「……はぁ、めんどいです。なんですかこの豚野郎は」
「ぶ、豚野郎、だと……? それが王に対する態度かえぁ! 儂、いや余は王だぞぉ? んんん? 無知な娘よのう。……しかぁし、余は寛大である。ほれ、余の靴か、雄々しくそびえる余の聖剣をチロチロと舐めるなら許してつかわすぞ? ほれ、ほぉれ」
「待ちなさい!」
背後からの突然の制止の声に、王は驚いて振り返る。
「あん? お前は先程の……」
何事かと周囲の注目を集める中心で、銀髪の聖女――カナが、王を睨みつけていた。
「権力をもてあそび、いたいけな少女を欲望のままに好き放題しようなど、それが王の所業ですか! 恥を知りなさい!」
聖女として知られる者からの、いきなりの弾劾行為に貴族たちがどよめきだす。
『もう直接、王を侮辱して悪役を演じるしかない。ロロを守ることが第一だよ……っ!』
ロロに向けて酷い発言をしたことに怒ってはいたが、まだカナの中では悪役の演技のつもりであった。
しかし周囲の反応は、王にたてついた命知らず、というもの。
これだけでも驚愕に値する事件なのだが、そこへさらなる命知らずが追加されることになろうとは、思ってもみなかったことだろう。
「……はぁー、こんな家畜が王とはこの国もお先真っ暗ですね。豚丸出しの見た目は仕方ないにしても、せめて豚なりに品性を身につけてほしいものです」
まったく遠慮も忖度もなしに、ロロが凄まじい暴言をぶっぱなしたのである。
強烈な侮蔑のまなざしとともに。
あまりの侮辱に、王はプルプルと怒りに震えて怒鳴り声をあげる。
「お、お、王に、豚だと……っ!? 余を、愚弄するかぁ!余は! 神に選ばれた王であるぞ! 裁きを下すぞこのメスガキぃ!」
怒りに任せて、王は近くの皿を投げつけた。
ロロに向かって投げたのだろうが大きく外れて、皿は関係ない貴族に当たってしまう。
王はそれをまったく意に介さず、周囲の物に当たり散らし、豪勢な料理と美しい食器は混ざり合わさってゴミの山と変わり果てた。
「神に、選ばれた? ……で、あるならば、秩序と裁きの神ゼナーを信仰する立場でありながら、その無秩序ぶりはなんですか。裁かれなくてはならないのはあなたのご乱行ではないのですか? それとも秩序とは、王に逆らわないように臣下や民に押し付けるための、神の名を借りた支配の道具なのですか」
よく通るカナの声に一瞬あたりが静まり返った。
やがて、どよめきが強まり、王の顔色が強張る。
現王ルイシャルル8世は即位1年未満で経験が浅く、政務のほとんどは宰相が行っているため政治の難しい話はわかっていないのだが、そんな王なりにこの話はなんとなくマズいということだけは察した。
本来ならば、ボダン司祭が詭弁を弄して立ち向かうべき場面であったが、先ほどの件で不興をかって離れたところにセタが間に入って壁になったことで、物理的に封鎖されたのだ。
邪魔だからと言って、立ちふさがるだけの伯爵にいきなり乱暴狼藉を働くことなどできない。
キウリ男爵はあわてるだけで、ルグドゥ公爵は動じずにニヤニヤと楽しそうに見つめているだけ。
この場には王の助けになれるものなどいなかった。
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