5.2話

「カナ兄様、お疲れ様でした。無事、継承を終えられたようで、ロロもほっとしました」

「うん。ありがとう、ロロ」

「では、兄上がお待ちです。執務室へ参りましょう」


 ロロはいつも通り感情の薄い表情のまま、くるりと反対を向いて戻り出す。

 暇をしていたから兄に出迎えの役目を命じられたのだろうか、などとカナが考えていると、ふと自身が妙な感覚であることに気付いた。


「……? あ、あれ?」

「どうしました、カナ兄様?」


 ロロが半身を向け、カナを覗き込む。

 下半身に手を置いたカナは、思いもよらぬ不可思議さに混乱した。


「……ない。え、まさか?」

「……どうか落ち着いてください」


 ロロはカナを抱きしめて、その違和感に気付いた。

 男性にしては妙に柔らかい身体の感触に――。


「……カナ兄様は、カナ姉様になってしまわれたのですか?」


 ロロは抱きしめたまま、カナの顔を間近にして率直な言葉を述べた。


「……え、なってしまったの?」


 言われたカナは、ついそのままに聞き返してしまう。

 混乱と、羞恥と、兄になんと言おうということで、カナの頭はいっぱいであった。


『ありゃ。儂と同じく女になってしもうたか。セイオウの鬼道式の影響じゃろか?』


「え? えええええ!?」

「と、突然どうしたのですか?」


「クロが、……ああ、えーと。僕の中のご先祖様が、継承の影響かもしれないって……?」


 カナがうろたえながらもロロに説明していく。

 原因らしきものを伝えられ、よりはっきりと現実を突きつけられたような感覚に陥り、つい大きな声を出してしまった。

 しかし、ロロはいつもと変わらぬ落ち着いた表情でカナの手を握りしめ――。


「……ご安心を。特に見た目に違いはございません。いつも通りの完璧美少女です」

「それならまあよかったかな……ってよくないよ。美少女がいつも通りってどういうこと!?」

「カナ姉様、珍しく感情豊かですね。ロロも感激です」


 まったくフォローになっていないロロからの言葉に涙目になる。

 ……いつも少女扱いされていたのか。

 地味にショックを受けるカナであった。


 色々なことがおきて困惑しながらも、セタの執務室へ入り、継承のことや女性になったことを説明をしたところ――。


「……しばらく、近寄るな。少し頭の整理が必要だ」


 と、セタは自室へと籠ってしまった。

 弟が妹になりました、と言われたのだから当然の反応かもしれないが。


 その数日後。

 久々にセタに呼び出されたカナは、唐突な命令をうけることになった。


「我がおと……、いや。我が妹カナよ。今日からお前は聖女となれ。聖女を名乗り、俺の仕事であった清浄の儀式を担当せよ。いいな?」

「……え、ええと。僕に、勤まるでしょうか?」


「当然だ。中興殿の力を継承したのだから、俺などよりよほどうまくやれる。聖女とは、クラブ一族の始母セイオウの称号だ。継ぐ者は長い間いなかったが、お前にこそ相応しかろう。――外で活動する際は名を名乗るな。聖女と自称しろ。それが、お前が俺のために役立てる最重要の任務だ」


 その目的はよくわからないが、とにかく敬愛する兄の役に立つのならばと、カナは決意した。


「――はい。お任せください、セタ兄様」




 ――そこで、カナの意識が戻された。

 どうやら、昔の夢を見ていたようだ。

 

 寝た姿勢のまま周囲を目線で確認し、記憶を現在へと引き戻す。


 ここはテント――。

 そうだ。

 ロロと共に、傭兵団の野営地で休んでいたところだ。

 すでに隣にロロはいない。


「そっか。休憩してていいって言われて。……あいさつ、してこようかな」


 意識を戻し、起き上がったカナはテントの外へと出た。

 夕焼けの眩しさに目を細めながら――。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


この続きは1章6話の部分です。

普通にこのページから続きを読もうとすると、

前日譚、旅立ちに至るまでの話になります。

すぐに先を読みたい、という方は1章6話に行かれるのも良いかと思います。

じっくり詳しい話も見たい、という方はこのまま前日譚へ!

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