5.1話
「……もう、長き苦しみから解放しておくれ。優しきカナよ」
その言葉にカナはハッとする。
長きに渡る、想像を絶するであろう苦しみを思えば、ここで楽にすることこそが――。
一拍を置いて、カナはまっすぐにクローゲンを見据えた。
決意を固めた表情で。
「我が『
優し気に笑ってから、表情を切り替えて、クローゲンは口上を述べる。
「カナよ。お主こそが一族の悲願、――記憶の継承者である!」
きらりきらり、と。
空間に門が出でる。
“
操りし霊魂が常人には見えない光を放ち、クローゲンへと放たれる。
全力で、一飲みに。
それがせめてもの――。
「愛する我が聖女、セイオウよ。汝の望み通り、儂は死して生きようぞ!」
クローゲンは高らかに宣言をして、その周囲の術式ごと、カナによって食べられた。
床や壁が大きくえぐれている。
カナの力が生物のみならず、建材をも食い取ってしまったからだ。
カナは寂しげな顔でその痕跡をみつめる。
誰もいない地下の部屋。
感傷に浸っていたカナが、後ろを振り返って帰還しようとしたとき――。
『おー、こうなるのか。こふふー。これははじめての体験じゃのうー』
頭の中、とでも言うべきところから、先程まで聞いていた声がひびいていた。
導かれるように、無意識にカナが目をつむると、そこにはクローゲンが元気そうな姿で立っている。
先程までの封印も消えて、痛々しく切り離されていたはずの腕も繋がっているではないか。
そこに広がるは心象風景、文化の異なる古き造りの部屋だ。
扉のない開け放たれた部屋の周りは静かな庭へと繋がっていて、その先には何もない。
『えっ? クロ? ……まさか、僕の中にクロが?』
『驚いたであろう。これが『
ふふん、とクローゲンが自慢気な表情を見せる。
カナが“
つまり別の力によるものと考えた方が良さそうだ。
クローゲンの言っていた力、『
記憶の継承――クローゲンの記憶を継承したということなのだろう。
詳しくは当人に聞くしかなさそうだが。
『この、『
『汝に渡した『
クローゲンはそういって、手のひらを上にして表情を曇らせる。
『記憶を継ぐということは、他者の全ての記憶を受け継ぐということじゃ。楽しきことも悲しきことも辛きことも。どこで何をしてどんなことを思ったか。自身の記憶と混ぜこぜになってしまう。それは自我の崩壊に繋がり、心の死に繋がるというわけじゃ』
『頭の中がごちゃごちゃになってよくわからなくなっちゃうってこと?』
『左様、――そこで儂が必要になる。儂の役目は記憶の管理者。お主が必要とする記憶だけを引き出すための番人となり、お主を守るのが役目よ』
『例えば、クローゲンの得意だったことだけを僕が操る、とか?』
『うむ、飲み込みが早いのう。といっても身体はあくまでお主のものじゃ。儂の技に耐えられるだけの身体が必要じゃがの。……お主が幼きころより鍛えられてきたのも、最初から継承を見込んでのことじゃろうな。不憫なことを……』
『あっ、僕の記憶を見てるの?』
『くふふ。管理者の特権じゃ。それより、ほれ。妹が近くに来ておるぞ』
クローゲンに言われ、意識を戻したカナはすぐにロロの気配を探知した。
角を曲がったところまで歩いてきている。
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