4.1話

 武と向き合うだけの日々が終わり、カナの日常は大きく変わった。

 

 新たにできた兄に厳しく仕込まれ、新たにできた妹と共に過ごす日々。

 生まれてより父も母も“人”ならざるモノたちであった中で、はじめて“人”に触れた日々。


「分家の生まれであろうが、女みたいな顔をしていようが、どのように育てられていようが、――お前は俺の弟だ。つまらんことで悩むぐらいなら、弟として恥ずかしくないよう努力しろ」


 兄となったセタは言う。


 突然できた血の繋がらぬ弟などぞんざいな扱いをしても不思議はないところだが、セタは自らの弟として相応しい教育をカナに施した。

 カナを弟として扱い、“人”として育つよう根気よく丁寧に教え込んだ。

 “人”ならざる空っぽの器であったカナは数多の問題を引き起こしたが、セタは決して見放さずにすべてを対処した。


「……カナ兄様、ロロは妹です。ロロにだけは敬語はおやめください。……あの、御本を読んでいただけますか?」


 妹となったロロは言う。


 幼いロロは、カナに“人”の愛情を注ぎ込んだ。


 血の繋がらぬカナこそが兄であるとして、共に行動し、共に遊び、共に物語を読んだ。

 年の近かったロロは特にカナに懐き、カナはロロの頼みを何でも聞いた。


 はじめての日、運命の日。

 ――空っぽの器であったカナが、“人”ならざる行いによって血にまみれた日。

 怯えながらも、震えながらも――。

 心から兄妹であることを願ったロロの声を聞いて――。

 自らを顧みずカナを優しく包み込んだロロの姿をみて――、カナは誓いを立てた。


 “人”を知らぬカナなれど、まことならぬ兄妹なれど――。

 ただロロのためにあろうと、――はじめてめいなくして考えた。


 例え本当の兄妹のように振る舞えずとも、せめて本当の兄妹であるかのように。

 ――いいや、それ以上の間柄であるように。

 願いをもたぬ空っぽの少年がはじめて抱いた、願いにして誓い。


 “人”ならざるカナに心をもたらした少女、それがロロであった。

 カナにとってロロこそが存在意義であり、ロロにとってカナこそが唯一の家族であった。


 新たな父となった先代伯爵は忙しく、あまり話す機会はなかった。

 セタとロロだけが、カナの“家族”であった。


 それからのカナは“人”に近づいて行った。

 しばらくして出会った叔父は、カナの頭をなでて様々な話を語ってくれた。

 執事も、メイドも、カナに優しく色々なことを教えてくれた。


 たまに会う親族の中にはきつく当たる者もいたが、“家族”に“迷惑”をかけないようにと無難にやり過ごしていた。


 様々なことを考え行動しなければならない日々。

 人としての教育、様々な常識をカナはいまさらにして学んでいく。

 ロロやセタ、そしてカナ自身の努力によって、カナは“人”としてそれなりの体裁を身につけていた。

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