第4話 運命の御子
物心ついた時から、武の修行に明け暮れていた。
父からの指南を受け、ただひたすらに、ひたすらに。
その修行は辛くもなく、厳しくもなく、淡泊に。
ただただ、カナは剣を振るうだけであった。
「ただ武のみ、ただ極めよ」
そう言い聞かされ、無感情に、ただただ。
父の教えは、自身の考えを許さず
カナは空っぽだった。
家族の愛情もなく、同世代との友情もなく、恨みや憎しみすらもなく。
淡泊に、ただただ、武を追求する日々。
学び、覚え、修め――。
究め、窮め、極め――。
そは器なりとして――、“人”を教えず武のみを詰め込みし器なりとして――。
“それ”だけのモノとして育てられた。
しかし、ある日。
裕福ではないカナの一家で珍しく豪華な食事が振る舞われた日のこと。
カナがはじめてみた父の感情は、涙であり――。
――その日より、父と母は姿を消した。
カナの予定を記した手紙だけを残して。
父の手紙に最初に書かれていた言葉は、『もはや教えることもなし』、であった。
一族最高の剣士と称された父に鍛え上げられ、生活のすべてを鍛錬へと注いだカナの武は、幼くして達人の域にあった。
あらゆることを叩き込み、すべてをたやすく身につけたカナには言葉通り、教えることなどなかったのだ。
それでも教えに従い、目的もないまま、純粋に“それ”と向き合い続ける。
ただ、ただ――。
やがて、カナの日常に変化が訪れた。
小さな身体ながら凛とした静かな佇まいの少女が、扉を開けてカナの前に現れたのだ。
お姫様のような、金髪の少女。
綺麗な音と色の子だな、とカナは思った。
白黒のようだった世界に、はじめて色を見た日。
「……兄様、はじめまして。……ロロは妹です」
オドオドとしながら、唐突な説明をするロロという名の少女。
カナは無言でみつめている。
空っぽの瞳でみつめている。
その時、同時に入ってきた男性が、口を開く。
「はじめまして、カナ。お父さんの手紙にあったろう? 今日から君は、この子たちの家族だ」
新たな父となった先代伯爵はカナを養子として迎え入れた。
カナの一族はクラブ家の分家であり、武の探求を務めとする家であった。
しかし、カナの父が失踪したことにより、カナは本家へと引き取られることとなったのである。
父が残した手紙にそうした指示が書いてあった。
ならばカナに異存はない。
あろうはずもない。
武の極みだけを詰め込まれた、空っぽの器なのだから。
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