3.2話
オーリエールからの誘いに、カナは少し考えてからロロの方を向いた。
「カナ姉様、ロロはすべてお任せ致します。よろしいように」
目を伏せてから、ロロはカナの手を握って答える。
選択を縛らないように配慮してのことだろう。
「そうですね。それでは少しご一緒させていただきましょうか。僕としても妹の安全と快適な旅は大切なことですから。……ただ、ひとつお願いがあるのですが、よろしいでしょうか」
「ん? どんなことだい?」
「この馬たちを、リルデの街の領主に届けていただけますか? 僕たちはちょっと訳ありですし。……こんなにたくさんいると、連れていくのも大変ですからね」
「変わった頼みだねえ。アンタがそういうなら構わないけどね。……それじゃあ、そこらに落ちてる武具をもらってもいいかい? 近衛騎兵隊の武具なんぞは領主に渡すのはちとマズいだろう?」
オーリエールの言葉を受けて、カナは少し考える。
ただでさえ領内で近衛騎兵隊が行方不明になったのだ。
領主であるセタが調べを受ける可能性もあるわけで、疑われるような証拠を残さない方が良いのかもしれない。
「そうかもしれませんね。元より武具に関しては特に考えもなかったので、ご自由にお持ちください」
「よろしい、交渉成立だよ。さ、フレンツ、アンタの出番さ。お若い伯爵閣下のところへ馬を運んどいてくれ」
「なんだよ、俺がやるのか。人づかいの荒いバアさんだねぇ」
フレンツと呼ばれた壮年の男性が軽口を叩きながら頭をかいた。
「アンタひとりでやってどうするのさ。子供たちの騎乗練習がてらにやらせるんだよ」
「あいつら騎乗経験ほとんどないよな? それ、俺が教えるの?」
「アンタが一番馬に乗ってきただろうが、元騎士さん」
「騎士だった期間は少しだけだっつうの。まったくしゃあねえな、ってかバアさんはサボりか。……ああ、腰にひびくもんな」
「まだそんなに老いぼれちゃいないよ! 誰がこの子たちを安全なところまで連れていくのさ。若いのにもうボケたのかい」
「俺はもう年寄りだからねぇ。オジサンになると物忘れがな。……じゃ、バアさんの相手してもはじまらんから行ってくるか。……そういや、あいさつ忘れてたな」
とフレンツはオーリエールとの軽口の飛ばしあいを切り上げ、ふと、思い出したようにカナの方を向いた。
「俺は、フレンツ・ゲルベルグ。オジサンとでもなんでも好きなように呼んでくれ。だが、間違っても騎士なんて呼ぶんじゃあないぞ」
「フレンツさん、ですね。僕はカナ・レギナ・クラブと申します」
カナは丁寧に挨拶をしてから、ロロの方に視線を向ける。
ロロは溜息をついてから、静かに口を開いた。
「……ロロサナート・レギナ・クラブと申します。ロロとお呼びください」
「……なるほどね。ま、よろしくな」
カナたちの名乗りに、フレンツは一瞬考える表情を見せたが、すぐに切り替えて優し気に笑う。
隠す必要もなかったのだが、クラブ一族の領地でクラブの名を出したのだから当然かもしれない。
「ついでにそこの武具も運んどいておくれ」
「はいはい、帰りにな」
オーリエールに後ろを向いたまま手を振りながら、フレンツは来た道を戻り、山の中へと歩いて行く。
「さ、カナとロロだったね。ついておいで。先行部隊が野営地の準備をしてるはずさ」
オーリエールはそう言って、フレンツとは逆の方向へと歩き出した。
カナは一頭の馬にまたがり、ロロを乗せてそのあとをゆっくりとついていく。
これからはじまる生活に期待し、カナは空を見上げて目を輝かせる。
ロロもまた、そんなカナを後ろから眺め、小さく微笑んだ。
ふたりともに、いままでの生活や追放のことよりも、楽しみの方が勝っていたのだ。
これは、カナがこがれていた自由な旅のはじまりであるのだから。
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