2.3話

 いくつもの首が宙を舞う中――。


 斬られ、死んだ、と。

 そう思った近衛騎兵の隊長であったが、いまだ意識があることに気付く。


「一応、訂正をしておきますと――」


 ゆっくりと、ゆっくりと。

 空を浮きながら。

 カナの姿を見つめながら。


「大陸では魔族デボスティアと呼ばれるのでしょうが、悪魔というのは違います」


 動かない、動けない。

 まるで時が止まっているかのように。

 動かぬ世界の中で、ただひとり悠々と、カナの声だけが響く。


 これが死の間際の現象なのか、と。

 隊長は不思議な感覚に囚われていた。


「――僕は、鬼です」


 そんな考えを切り裂くように、カナが静かに口を開く。


「鬼の中のひとつ。――“魂喰鬼パンニャ”、でありますれば」


 死の間際の隊長が、自身の横側にきらりきらりとした何かが現れたことに気付いた。

 きらりきらりと。

 空間に穴のようなものが開いて、口だけがついた不定形の白い何かがうごめいて、射出されるように伸び――。


「感謝を込めて。――いただきます」


 手を合わせたカナのお辞儀とともに、隊長は食べられた。

 綺麗に、綺麗に、残さずに。

 むしゃりむしゃりと、くちゃりくちゃりと。

 血も、肉も、骨も、魂すらも。


 キラキラとした操りしものはカナが蓄えてきた霊魂、その具現化である。

 “魂喰鬼パンニャ”とは、血肉はおろか霊魂すらも食べて、自らの器官として操るものたち。


「これにて族滅完了、ですね」


 静寂を取り戻した辺りの森をみつめながら、カナはそう呟いた。

 戦いを終えたカナは“記憶”を外し、小さく息を吐く。

 一方で、頭の中でクローゲンが細かい指摘をいれてきた。


『ま、正しくは一族を滅ぼすのが族滅じゃがな』

『――そうらしいね、うん。でも、なんとなくこの言葉がいいかなって。クローゲンっぽいし』

『え? 儂、そんな物騒な印象なの? ……ま、いいんじゃないかの、ゆるゆるで。当世風というやつじゃ。メンドくさいしの』


 そんな、どうでもいい会話をしながら、いつもと変わらない静かな顔でゆっくり近づいてくるロロを自然な微笑みで出迎えた。


「おまたせ、ロロ。怪我はなかった?」

「カナ姉様、ありがとうございます。ふふ。幸先よく、食料と路銀が手に入りましたね?」


 そういって、ロロは少しだけ微笑んで頭を下げる。

 カナは返事の代わりに、優しく抱きしめて頭をなでた。




 大陸において魔族デボスティアと呼ばれる種族のひとつ。


 ――鬼。

 それはかつて、はじまりの島より来訪したという異国の怪物の末裔である。

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