第3話 旅のはじまり

「おにくー、おにくー、おにくをパクパクたべましょうー」


 妙な歌を口ずさみながら、カナが新鮮な死肉を集めていく。

 鬼にとっては人の肉もまた大切な食料である。


「今日の糧に感謝を込めて。――いただきます」

「いただきます」


 食事のあいさつをしたあと、ロロは霊魂を操ってすぐに”食事”を済ませた。


 クローゲンによれば、この霊魂を操って動かすための器官――“マカ”は個体差が大きいのだという。

 大きな魂を操るカナとは異なり、魂を複数同時に操るというのがロロの“マカ”の特徴だ。


「ロロもしっかりいただいた?」

「はい、カナ姉様。ロロは少量で十分ですから」


 “魂喰鬼パンニャ”の食事は、人だけには限らずにほとんどの生物もその対象である。

 喰らうのは、人だろうが、動物だろうが、植物だろうが、魔物だろうが、構わないのだ。


 ただ、種族的に肉を好む傾向はあるようで、カナたちもその例に漏れず普段の食事は焼いた肉料理であることが多い。

 といっても生肉でも問題はないのだが、しっかり味をつけて焼いた方が美味しいというだけの話だ。


 もっとも、“マカ”の方で食べる分には味など感じないので生であろうと気にはならないのだが。


「……生き残った馬はどうされますか」

「うーん、1頭は僕らが乗るとして。……残りはセタ兄様に届けた方がいいと思うんだけど」


 ロロに近づいた最初の4頭を別にすれば、カナは馬を殺さないように戦っていた。

 というのも空から滑空するように攻撃を繰り返していたので馬を斬る必要がなかったからだ。


 何頭かは逃げ出したようだが、それでも70頭ほどの馬が残されている。

 これから個人の身となるカナには多すぎる数であり、まだそこまでセタが治める街からは離れていない状況だ。

 軍馬は大事な財産でもあるし領主であるセタに有効利用してもらったほうがいいだろう。


 ――そんなことを考えていた時。

 カナが何者かの気配を察知した。


 人数はふたり。

 だが後方に多数の気配が控えている。

 その気配も、先程の近衛騎兵隊より多い。


 方向が近衛騎兵隊とは異なり、領内の村や別の国の側のようだ。

 アリエーナの地はガルフリート王国でも西側にあり、山を挟んでフルンベール王国やバスチェク王国と隣接している位置にある。

 つまり、近衛騎兵隊のようなガルフリート王国側の部隊ではなさそうだ。


 そのまま静かに待っていると、ガサガサと音を立て、森の奥から老婆と白髪混じりの壮年の男性が姿を現した。

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