2.2話
皆が思わずその声の場所を振り向いたとき、首のなくなった騎兵が馬から転げ落ちた。
ふと彼らが、空気が動いたその先を見上げると――。
高速に、不規則に――、空を跳ねるカナの姿が視界に入る。
「……空を、飛んで? ……いや、跳躍?」
足場もない空中で、何かを踏み次々に跳躍を繰り返す。
その不可思議な光景は、熟練した騎兵たちから見ても人ならざるモノの技としか思えないものであった。
「地も空も、自由気ままに、舞うが如くに――」
跳ねる。
空を跳ねる。
優雅に。
舞い踊るように。
きらりきらりとした何かを足場に、線のような何かを踏み――。
軽やかに、ジグザグに、円を描くように。
変幻自在の軌道をもって、カナが襲い掛かる。
「近寄ってきたときに切ればいいだけだ。馬鹿めがぁ!」
高速で飛来するカナを迎撃しようと、騎兵たちも剣を振るうが――。
「なに……ッ! クソッ! はや……、目が追えな……っ!」
そう言葉を漏らした騎兵の首が飛び、転げ落ちる。
剣の軌道を避けるように宙を跳ねて縦に回転したカナは、その一撃を回避すると同時に、逆さになった状態から刃を振るったのだ。
そのまま首が無くなった騎兵を踏み台にし――。
「――いざ、刈り参ろう」
短く呟いたカナは、別の騎兵へと飛び掛かる。
次々に、次々に。
横薙ぎに。縦斬りに。
くるりくるりと、優雅に、自由自在に、動きを変える。
そのたびに首が舞う。
カナが舞う、首も舞う。
ただただ、舞う。
――受けられない。
受ければ物ごと斬り飛ばされるから。
容易く容易く、いと容易くに。
――避けられない。
避けたところに刃があるから。
振るえば当たる、当たるように振るうという極みの技。
騎兵たちの必死の抵抗もむなしく、何ひとつできず――。
「ホーゲン流兵法が秘技、――テングラマ」
そう、カナが口にした。
――混ざる。
これこそはクローゲンの記憶。
とある深山にて、かの者が凄惨なる修行の果てに体得した秘技――。
天魔の技法、鬼の術理。
――混ざる。
これこそが受け継いだ者の経験を自身のものとして引き出す力。
魔術でも、神の奇跡でも、決して成しえることのない世界の理。
――『
それがカナが継承した“鍵”の力であった。
『これよこれ。これぞ懐かしき、――族滅の宴なり!』
頭の中でクローゲンが歓声をあげるが、カナはそれを聞き流す。
およそ考えられないその動き、その軌道に、騎兵たちは為す術がない。
次々と、次々と――。
何ひとつ為す術がない。
あらがうことも、時を稼ぐことも、生きることすらも――。
「おお、ぉぉぉぉぉ……、悪魔、悪魔め……、秩序が敗れるなど……」
異端審問官の男はその光景に絶望する。
神はいないのかと絶望する。
そしてまもなく、聖印ごと真っ二つに首を割かれて、自らの命をもって騎兵らを弔うこととなった。
「くそぉぉぉ! やらせるかぁぉぉ!? ……ぉ、ぁ?」
そして、近衛騎兵の隊長もまた、周囲にいた他の者たちごと、まるで刃のついた竜巻に飲まれたかのように切り刻まれた。
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