1.2話

「――そうですか」


 そう言って、カナは後ろに立つロロを見つめ頭をなでた。

 ロロも無言でカナに視線を向けて、うなずく。


 そして、カナはゆっくりと目を閉じた。

 思考を止めて、現実への対処をはじめるべく。


「ええ、そうですか。我が妹に――」


 宿る力が呼び覚まされる。

 眠る記憶が呼び覚まされる。


 混ざる。

 混ざる。

 カナの中で、記憶が混ざる。


 古い古い、戦いの記憶。

 遥か遠い地の記憶。

 自身カナではない者の記憶。


 その身カナが宿すは記憶の力。

 遥かいにしえの時代より継承されしみなもとの力。


 この力を知るものならば、こう呼ぶだろう。


 “鍵”、と。

 “鍵言術”、と。


 顕現するは神々の遺産、神なき世に残されたありえざる現象のことわり

 ――その名を、“世界の鍵クエ・リ・ツフォルザード”という。


「――ロロに手を出そうと。そう申されましたか」


 赤く、――カナの目が光を放つ。

 見開かれた瞳が、人ならざるモノの輝きを放つ。


「左様ですか。左様ですか」


 近衛騎兵たちは誰ひとり動けずに、ただ立ち尽くす。

 目の前の少女の殺意に触れて、屈強なる男たちの身体が震え出す。


「――我が誓いに触れようと、そう申されましたか」


 まるで、別人のような口調でそう言った。

 聖女の杖を地面に突き立て、カナが溢れんばかりの魔気を解き放つ。

 殺意、殺気、死の香り。

 対峙する者らの生存本能がここに居てはならないと絶叫しだす。


「――されば、族滅にて」


 死を告げる。

 事も無げに、さらさらとした綺麗な声で死の決定を突きつける。


『クローゲン、はじまりより来たりし者よ。偉大なりし我が始祖よ。いざ、参りましょうや』

『ああ、遠慮はいらぬ。存分にやれい、我が現身よ。――久方ぶりの戦場いくさばじゃ』

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