第3話 解放の条件

 学の言った通り、彼を自由の身にするにはある条件をみたさなければいけない。

 できなければ学はあの暗い部屋で戦犯としての判決をまつことになる。

 それはすなわち、死を意味する。

 彼の身に宿るオーガの能力を使えば連合国の兵士を多く殺すことができるが、結果は同じだ。

 それに学は無駄な戦いは望まないだろう。


 私が渡辺学中尉を自由の身にするために連合国本部と交わした司法取引はある事件を解決することだった。

 それは虫の王ベルゼバブの呪い事件と呼ばれるものであった。

 今から一週間前、三名のアメリカ陸軍の将校がこの世を去った。

 皆、健康な成人男性であった。

 三名の将校の死体が異常であった。

 彼らの死体には見たこともない無数の寄生虫によって体を内側から食い破られていたのだ。

 無惨な死体となった彼らを見た連合国の兵士たちにある噂がひろまった。

 彼ら三名は素行が悪く、この国の人々にひどくきらわれていた。

 彼らにしても言葉も通じない、異郷でうさばらしをしたかったのだろう。

 この将校たちから不幸な目にあわされた人も多くいたため、彼らはちかく本国に帰還する予定だった。

 だが、彼らは二度と故郷の地を踏むことはできなくなった。

 体中に気味の悪い虫がわき、死んでしまった。

 兵士たちは噂しだした。

 この極東に住む魔術師が彼らを呪いころしたのだと。

 このままでは士気が下がり、この国の統治にも支障をきたしかねないと判断した連合国側はこの事件を解決する人材を探した。

 そこに自ら手をあげたのが、私アン・モンゴメリーだ。

 私一人ではこの事件の真相にたどりつけないだろうが、渡辺学がいればそれは問題ないと思われる。

 何故なら、渡辺学はこのような悪魔や妖魔が関わる事件を主に解決してきた機関のエキスパートであったからだ。

 その特務機関の名を黒桜といった。

 彼らの特徴はその軍服の色であった。

 闇夜を切りとったような漆黒であった。


 そして漆黒の軍服を来た渡辺学を私はこの暗い部屋から連れ出した。

 私は彼の愛用の刀を手渡した。

 これは連合国によって没収されたものを私が取り戻したものだ。

「ありがとう、アン。この鬼切丸をとりもどしてくれて」

 そう言い、刃渡り一メートルはあろうかという赤い鞘の刀を腰のベルトに差し込んだ。


「さあ、アン。まずはその三名の遺体を見に行こうか。何かわかるかもしれない」

 学は言った。


 私たちはその三名の将校の遺体があるという病院に向かった。

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