27 「シグルド防衛決戦 中編」
「そもそも、勇者ハルマが岩石王を倒し切っていれば!」
アルフォンス王が吐き捨てる。
「……それをこの国の王が言うんですかっっ!」
ハルジオンが王を睨んだ。
「勇者ハルマを死に追いやったのは、この国の”はぐれ騎士”のはず!」
「そうとも。だが、それは勇者ハルマが魔族を守ったからだ!魔族は皆殺しにすべきだった!」
王が言い放つ。
勇者ハルマは光と闇の平衡を目指した。
『光と闇、どちらもなくなってはいけない』
彼はその考えで動いた。
だから勇者ハルマは戦いの後、魔族を殺戮する一部の勢力と対立した。
オリハルコンが言っていたことだ。
『ミスガル王は魔族嫌い』
トネリコから聞いていたけど。
まさか、ここまでとはなぁ……。
「私は魔族に呪われているのだ。妻は魔族を密かにかくまった。そして、魔族持っていた病で死んだ!」
王が眉をひそめる。
「100年前、勇者ハルマが失敗したせいだ!」
ハルジオンが目つきを変え、王に向かう。
俺はそれを止めた。
「失敗のない人間はいないですぜ、王様ァ」
俺は王に言う。
「アンタ様の失敗もまだ取り返せる!こんなとこでグズグズしてても、しょうがないっすよぉ!」
うーん、なんか変だなぁ?
……多分、敬語が変だ。
「その通りだ」
ノーラが俺に同調する。
「王よ、確かにハルジオンは勇者ハルマの末裔。そして、こちらの子供は強力な”対魔力”を持つ錬成術師。二人とも強力な戦力です。我々は……」
「対魔力だと!」
王がノーラの言葉を遮る。
王はなぜか俺に駆け寄ってきた。
「今、対魔力と言ったな!ならば、その力で呪いを解いてくれ!」
王が俺の足にすがりついた。
……はぁ?
なんだ、なんだ?
「な、なんすかぁ……?」
俺は呟いた。
「魔族にかけられた呪いだ!頼む……」
王が頭を下げる。
さっき『私は呪われている』みたいなこと言ってたなぁ……。
「父上!いい加減にしてください!」
エドガーが声を張った。
ノーラが王を俺から引き離す。
「王よ。残念ですが、”対魔力”はあくまで魔法に対する力。呪いの解除は不可能です」
ノーラが冷静に説明した。
……へぇ、俺も初めて知ったぜ。
「……まさか。そんな……」
王が表情を歪めた。
「嘘だ、あり得ん」
彼はそのまま頭を抱え、床に座りこんでしまった。
「このままでは話にならない。……諦めよう」
ノーラが俺たちに小さく言った。
エドガーも目を閉じ、頷いた。
「我々は”気の神殿”に向かいます。この国を守るためにも」
ノーラが王に言った。
王はもう何も耳に入っていない。
「神殿の案内はできる?」
ノーラがエドガーに問いかける。
エドガーは無言で頷いた。
「ノーラは場所、知らないの?」
俺はきいた。
「”4英雄”は自分の聖宝器がある首都に入ることを禁じられていた。神殿の場所も知らない。私が”気の聖宝器”を再び手にすることが許されるのは、大陸の危機が迫った時だけ……」
ノーラが説明する。
「……今がその時だ」
―――――
俺たちは馬に乗って城を出た。
再び、残酷な現実が襲い掛かる。
戦況は変わらず。……超不利だ。
投石器から放たれた砲弾が各地に落ちた。
「”気の神殿”の場所は第一層の端にある小さな森です。敵は神殿に侵入できません。しかし、周りには敵兵がいるはず。急ぎましょう!」
俺の後ろに乗るエドガーが説明する。
「警戒を怠るな!進め!」
ノーラの合図で俺たちは馬を駆けた。
―――――
俺たちは第三層の城門をぬけて、第二層の町に入る。
「上空注意!」
ノーラが声をかける。
俺は上を見上げた。
投石器から放たれた”何か”が降ってくる。
うぇえ!!! あれ、砲弾じゃねぇっっ!!!
飛んできたのは、お互いに絡みついた複数の石像兵。〈キメェ〉
奴ら、石像兵を飛ばしてる。
石像兵の塊が前方に落下した。
町道にめり込んだ数十体の石像兵が、むくりと起きあがる。
石像兵の顔は、叫んでいるように見えた。
不気味で歪んだ造形。
ホッドミーミルの森にいた奴らと同じ。
目鼻口が空洞で、中は真っ暗だ。
動く石像は魔鉱石の擬態。
同じ魔鉱石じゃないと破壊できない。
投石器で投げ飛ばしても、砕けないわけか……。
ズルだぞっっ!!!!!!
俺たちは敵兵をかわしながら進む。
石像兵の横を通り過ぎる瞬間、後方のエドガーが戦鎚で奴らを砕いた。
―――――
俺たちは第一層についた。
激しい戦闘が繰り広げられている。
大門は持ち堪えている。
しかし、城壁に大きなハシゴがかけられ、そこから無数のゴブリン兵が町に侵入してきた。
1匹のゴブリンが俺に飛びかかってきた。
俺は反応できなかった。
そのゴブリンは俺の後ろから現れた戦鎚に頭を砕かれた。
エドガーだ。
俺の頬にゴブリンの血液が飛び散る。
……唇が震えた。
なんだか、我に返ってしまった。
俺は石像しか壊したことがない。
人間や、言葉を話す生き物を殺したことがない。
……これが戦争か。
「ためらうな鍛冶師!死ぬぞ!」
ハルジオンが俺に声をかけた。
俺は彼に向かって頷いた。
「ここを越えれば、”気の神殿”に向かう分かれ道に着きます!」
エドガーが言う。
しかし、前方の道は敵兵で溢れていた。
石像兵とゴブリン兵。
ゴブリン兵は狡猾にも、石像兵を盾にして戦っていた。
だから、ズルだろ、それ。
いや、戦争にズルとかねぇのか……。
「塞がれてるぞ!」
ハルジオンが言う。
先頭のノーラが馬から降りた。
「エドガー、この馬に乗って彼らを”気の神殿”まで案内するんだ」
ノーラが指示を出した。
エドガーは頷くと、俺の馬から降りた。
「私が道を切り開く。そして、ここに残って騎士たちの指揮を取る」
ノーラが言った。
「……必ず”気の聖宝器”を届けてくれ」
ノーラが俺に向かって微笑んだ。
「……道を切り開くって」
俺は呟く。
ノーラは斧槍を軽く振り回した。
「姿が見える敵は怖くないよ」
彼女が言う。
「……壁内の敵は私が一掃する!」
彼女が前髪をあげた。
青色の瞳は敵兵を見据えている。
構えた斧槍に魔力が集まった。
「私を信じろ。何がっても進み続けるんだ!」
ノーラが敵兵に向かって飛び出した。
彼女は左右の壁や石像兵の頭を踏み台にして自在に動く。
魔鉱石製の斧槍を素早く回転させ、次々に石像兵を破壊していく。
「行くぞ!」
隣でハルジオンが言った。
俺、ハルジオン、エドガーは馬を走らせ、ノーラの作った道を突き進む。
ノーラの振る斧槍は、残像が見えるほど速く動く。
……全く目で追えねぇ。
前方の兵隊が次々と粉砕していく。
その背後から動揺するゴブリン兵が現れた。
そのゴブリンも次の瞬間には切り刻まれていた。
断頭されたゴブリンがバタバタと倒れていく。
「……あれが『黒の流星』……英雄」
俺は尊敬と共に、恐怖を抱いた。
「こっちだ!」
エドガーが道を示す。
無事に分かれ道まで辿り着いたらしい。
彼の指差す道は、石畳の通路。
通路の先は森。木々が茂っていた。
「走れ!」
ノーラは敵兵を切り倒し、軽やかに着地した。
突然、遠くから鷲の鳴き声が響いた。
ノーラが動きを止め、遠くを見据える。
俺たちも目を見開き、そちらを凝視した。
巨大な鷲が城壁に向かってくる。
「サイレンスだ!」
俺は声を張り上げた。
全身に悪寒がはしる。
大鷲は城壁までたどり着くと、翼をひるがえし、白の騎士たちを壁の上から突き落とした。
次に奴は部隊長らしき人物に目をつけた。
大鷲は大きな鉤爪で部隊長を捉えると、そのまま物見櫓に投げつけた。
残った騎士たちが恐れをなす。
隊列が一気に崩れた。
大鷲は向きを変え、シグルド陣営の投石器を破壊する。
その後、奴は上空で姿を変えた。
擬態だ。
黒色でボロボロの衣類を身につけた人型が上空に現れる。
奴はローブをなびかせて城壁の上に降り立った。
サイレンス一体によって、シグルドの戦力が一気に削られた。
奴がこちらを向く。
仮面の色は怪しい緑色。
「……エメラルド」
ノーラが目つきを鋭くした。
どうやらノーラにも奴の姿が見えているようだ。
エメラルドが片手を広げた。
その手から緑色の液体が伸び、固まって長い杖になる。
先端が捻れた緑の宝石のような杖が出現した。
それを武器のように軽く振ると、奴はノーラを見た。
「……サイゴノ”エイユウ”ヨ。ココガ、オマエノ、ハカバト、ナルノダ」
エメラルドが言葉を発した。
不気味な声だ。
喉、ぶっ壊れてんじゃねぇの?
……っていうか、喋ったぞ!!!
「……そこまで力を取り戻したか」
ノーラが低い声で言った。
ノーラは辺りを見回すと、声を張り上げた。
「白の騎士たちよ!隊列を組みなおせ!!恐れるな!持ち場を死守せよ!」
その後、彼女は俺の方に向いた。
「カジバ。君は物の動きを捉えてることに長けている。状況に合わせて必要な武器を与え、ハルジオンを守ってあげるんだ」
俺は突然のことに驚きながら、数回頷いた。
「……何があっても進み続けろ」
ノーラが微笑んだ。
「ノーラ!!!」
俺は声をかける。
「いけ!」
彼女が言った。
「こっちだ!」
エドガーが俺を呼ぶ。
俺は馬を走らせ、そちらに向かった。
背後で大きな衝突音が聞こえる。
ノーラとエメラルドだろう。
俺は振り返らず、進み続けた。
―――――
先頭にエドガー。
次に俺。
ハルジオンは俺の後ろ。
「この道を抜けた先だ!」
エドガーが俺たちに言う。
前方にゴブリン兵が見えた。
エドガーが戦鎚を構える。
ハルジオンは火の聖宝器を点火させた。
俺は馬に乗ったまま、隅に倒れている死体の山から斧を引き抜いた。
それをモーフィングさせ、槍に変える。
俺は前方のゴブリンに槍を投擲した。
胸に命中。
ゴブリンが倒れ、俺はその横を走り抜ける。
エドガーやハルジオンも、敵を倒した。
初めての”殺し”は一瞬だった。
槍を投げ、鉄の感触が俺の手を離れた。
あった感覚はそれだけ……。
それだけで、俺は簡単に一つの命を奪った。
ゴブリンに槍が刺さる光景が、頭の中で何度も繰り返される。
俺の乗る馬、グルファクシが突然止まった。
俺の意識が現実に引き戻される。
グルファクシに続き、エドガーとハルジオンも止まった。
次の瞬間、前方の石畳が吹き飛んだ。
投石じゃない。
前方の砂煙の中から巨大な棍棒が見える。
「
エドガーが叫んだ。
……道の横から、巨人が棍棒を降り下ろしたんだ。
「きたぁ、やっぱりきたよぉ!アウル」
「あの方の言った通りだ、スルーズ!」
二種類の声が聞こえる。
エドガーとハルジオンは武器を構えた。
俺は目を細める。
「みてよぉ!あの剣、キラキラだぁ!」
「上等な魔鉱石だ。奪うぞ!」
巨人が2体?
……いや違う。
煙が消える。
そこに現れたのは2つの頭を持つ、1体の巨人だった。
双頭の巨人はハルジオンの持つ、火の聖宝器〈ミスリル〉に興味を示している。
二つの顔が俺たちを順番に見た。
右の顔はハルジオン、俺、エドガーの順に。
左の顔はエドガー、俺、ハルジオンの順に見た。
左右の顔はそれぞれ見る順番が逆だ。
最後は二人で顔を見合わせる形になった。
「ものを見る順番は、右から左だといつも言っているだろう、スルーズ!」
右側の顔が声を張り上げる。
「ごめんよぉ、アウル。……ついクセでぇ」
左側の顔が言った。
右がアウル。
左がスルーズらしい。
って、そんなことはどうでもいい!!!
奴らが道を塞いでいるせいで、”気の神殿”にいけねぇ……。
「人間に……。うげぇっ、そこのピンク髪、鳥族の匂いがするぅ!”翼持ち”は嫌いだぁ」
スルーズがハルジオンを見て、嫌そうな表情をする。
「"翼の民"は俺たち巨人の天敵。……いや、でもコイツ、翼がないぞ?」
アウルがそう言ってニヤリと笑った。
「こりゃ、楽勝だなぁ。全員殺して魔鉱石を奪うぞ!スルーズ!」
アウルが声を張り上げた。
双頭の巨人が俺たちに棍棒を振り下ろす。
俺たちは馬を走らせて左右に散った。
「先に行け!」
エドガーが俺たちに言う。
彼は馬に乗り、戦鎚を構えて双頭の巨人の前に出た。
俺とハルジオンはお互いに目配せする。
その後、左右に分かれると”気の神殿”に向かって馬を走らせた。
それに合わせ、エドガーが巨人に立ち向かう。
巨人は両手でエドガーの攻撃を受けた。
しかし、左右に分かれた俺とハルジオンにも拳が飛んできた。
「なぁっっ!?」
俺は巨人の背中に目を向ける。
奴らの背中には2つの腕が生えていた。
コイツの腕、合計で4本あるぞっっ!!!
拳が俺を捉える。
拳が当たる寸前で、グルファクシが後ろ足を蹴り上げた。
その反動で、俺は前方に振り落とされる。
空中に浮いた俺。
その視界には巨人に吹き飛ばされるグルファクシの姿が映った。
「グルファクシ!!!」
俺は叫ぶ。
拳を喰らったグルファクシが、ぐったりと倒れた。
金に輝くたてがみの光が消える。
光が消えたのは……危険が去ったからじゃない!!!
「グルファクシ、そんな……」
俺は地面に転がる。
なんとか受け身を取った。
受け身は慣れている。
ドワーフが酒に酔いだすと始まる、『転がし大会』のおかげだ。
俺は顔を上げ、ぐったりと倒れるグルファクシを見つめた。
アイツ、寸前で俺を守って……。
「誰も通さないよぉ」
スルーズが言う。
「……テメェ」
俺は巨人を睨んだ。
怒りが湧いてくる。
反対側を走ったハルジオンも、拳を受けていた。
馬から落ちた彼はフラフラと立ち上がり、火の聖宝器を点火させる。
ハルジオンが巨人に向かって飛び出した。
サンタクロースから貰った靴〈スニーカー〉のおかげで一段と動きが軽やかだ。
ハルジオンの一撃は巨人の左手を焼き切った。
棍棒を持った大きな腕が石畳に落ちる。
「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
左右の顔が同時に絶叫する。
巨人は残りの3本腕を動かし、ハルジオンを殴ろうとした。
ハルジオンはそれをかわし、エドガーの元に着地する。
「……コイツら、意外と動けるな」
ハルジオンが巨人を睨み、舌打ちをする。
「エドガー王子、コイツは協力して倒しましょう。強敵です」
ハルジオンが提案する。
「ああ」
エドガーは馬に乗ったまま、戦鎚を構えた。
俺はなんとか立ち上がるが、足元がふらつく。
受け身をとったけど、ダメージはある。
ハルジオンとエドガーが巨人に向かって飛び出した。
エドガーは馬を走らせ、巨人の両足に戦鎚を叩きつける。
ハルジオンは巨人の拳をかわすと、右腕に飛び乗った。
聖宝器で右腕を焼きながら、顔面に向かう。
右側の顔、アウルが口から火を吐いた。
その不意打ちをギリギリでかわすハルジオン。
しかし、体制を崩した彼を背中に生えた片腕が襲う。
拳が当たり、ハルジオンが吹き飛ばされた。
足元のエドガーは両足に打撃を入れた後、股をくぐって巨人の背後に出た。
しかし、背中に生えた腕によって馬からはたき落とされた。
「……走れ!」
エドガーはノーラの馬を神殿の方へ逃す。
「……おろお。まぁいいかぁ、馬は」
スルーズがゆっくり言った。
俺はグルファクシに駆け寄った。
ゆっくりと彼の体に触れる。
心臓が動いている。
……よかった。死んでない。
俺はその後、吹き飛ばされたハルジオンに駆け寄った。
ハルジオンは立ち上がると腰の短剣〈グラム〉を抜いた。
「石像じゃないなら、普通の武器でも倒せるよな」
ハルジオンはそう言うと、火の聖宝器を俺に渡した。
「お前も武器を持っておけ」
俺は火の聖宝器を受け取ると、引き金を引いて剣身に爆炎をまとわせた。
巨人の背後にいるエドガーも立ち上がる。
……協力して、この”双頭の巨人”を倒さないと。
ノーラに”気の聖宝器”を渡すんだっっ!!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本作に登場する武器と種族をかんたん解説!
■巨人(ジャイアント)
様々な神話に登場する伝説の生物。巨体が特徴。
人間に似ており、知能が低い乱暴者として描かれることもあれば、賢い神として描かれることもあるよ。
またみてね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます