23 「サンタの贈り物」

俺たちは土の試練を終え、サンタクロースの屋敷に戻った。


ここ数日はずっと土の神殿にいたが、食事と睡眠はこの屋敷でとっていた。

食事を共にする中で、俺たちは13人の孤児たちと仲良くなった。

俺、ミスリル、ハルジオオンの3人の中ではミスリルが一番気に入られた。


ドワーフの里に俺より年下はいなかったからなぁ……。

子供との接し方はわからん。



「明日ここを発ちます」

夕食後、ノーラがサンタクロースに言った。


サンタクロースは「そうか」とだけ呟いた。


ノーラはその後、俺たちが寝る大部屋の向かいの部屋に入っていった。


俺はノーラの様子が気になり、後をつけた。



ノーラは部屋の中で一着の服を手に取っていた。

彼女は俺に気づくと、ゆっくりとこちらを見た。


「覗きは良くないね」

ノーラが目を細めた。


「ああ、えっと……」

俺は目を泳がせる。


その様子を見て彼女はクスッと笑った。

「……ここには色々と思い出の品を置いていてね。この服は私の母のものだよ」


ノーラの母ちゃん……。

ノーラはハーフエルフだ。エルフの父と人間の母から産まれた。


ノーラの年齢は100を軽く超えている。

当たり前だけど、人間であるノーラの母ちゃんはずっと前に死んでいるはずだ。


あえて触れないようにしてたけど……。


「彼女がこれを着ていた頃、それは遠い昔の記憶だ」

ノーラが遠くを見た。

「優しい人だった。昔はハーフエルフの差別が強くてね。私はよくいじめられた。”混血”と呼ばれてね。母はいつも私を守ってくれた。自分も差別されていたのに」


「……ノーラも守られてきたんっすね」

俺は呟く。

ノーラはバルドール王国で守護者ガーディアンと呼ばれている。

これまで多くの人を守ってきたことは想像がつく。俺やハルジオンだって彼女がいなければとっくにくたばっていた。

ミスリルもサイレンスに奪われていただろう。


「母の年齢を追い越してからもう長い」

ノーラが形見の服を撫でた。

「私は彼女のようにできただろうか……」と彼女はポツンと呟いた。



「……そういえばここにくる時、妖精たちがノーラを”混血”って」

俺は聞くつもりのない質問をした。

少し話題を変えたかった。

自分でもよく分からないが、「彼女がいなくなってしまうのではないか?」と思ってしまった。


「……この森で今、私をそう呼ぶのは彼らくらいだよ」

ノーラが笑う。

「この森の入り口には、少しイジワルな妖精たちが意図的に配置されている。道を聞かずに入った敵や旅人を迷わせるのが彼らの仕事でね」


彼女は肩身の服をゆっくり机に置くと、俺の方に歩いた。


「昨日は駆けつけるのが遅れてすまなかったね」

彼女が言う。


「いいや……」

俺は首を横に振る。


「ミスリルとは大丈夫だった?」

彼女が聞いた。


「なんとか。……アイツ成長してますよ」

俺はそう呟いた。



―――――



翌日。

俺たちは支度を整え、花畑の広場に来た。


見送りには妖精王とサンタクロース、それに13人の孤児たちが来てくれた。


「沈黙の使者の確保、感謝します」

妖精王がゆっくりとお辞儀をした。

「幸い、結界が弱まった間にサイレンスの襲撃はありませんでした。しかし、サイレンスは襲撃よりも何かを優先しているのかもしれません。気をつけなさい」


俺たちは深く頷く。



次にサンタクロースが俺たちの前にやってきた。


「お前たちに贈り物を用意した。受け取ってくれ」

サンタクロースはそう言うと子供たちに目配せをした。


すると、子供たちが贈り物を持って俺たちの元に駆け寄ってきた。


「まずはカジバ」

サンタクロースが言う。


おぉ!早速呼ばれたぜぇ。


子供たちが厳重に包まれた何かを俺に手渡した。


俺はゆっくりと包みを剥がす。

全て剥がした時、強い魔力を感じた。これはミスリルと同じ魔鉱石の魔力だ。


入っていたのは丈の長い” 鎖帷子チェーンメイル”。

上半身から膝までを覆うことができ、腕の付け根まで袖がある。


「勇者ハルマが使っていた”魔鉱石の鎖帷子”だ。無理を言ってノーミードから買い取った。お前は戦士ではないが命を狙われる立場だ。この胴着は魔王軍の攻撃からお前を守ってくれる。”対魔力”があるお前なら着こなせるだろう」

サンタクロースが言った。


「ありがとう……ございます」

俺は言い慣れない敬語でお礼を言う。


「次にハルジオン。君にはこれだ」

サンタクロースが言う。


子供たちが何やら箱をハルジオンに手渡した。


ハルジオンが箱を開け、中身を取り出す。

入っていたのは白色の靴だった。

見たことのない素材の靴だ。


「勇者ハルマが使っていた異世界の靴だ。”スニーカー”というらしい。

これを履くと俊敏性が増すそうだ」

サンタクロースが言う。


「これもノーミードから?」

ハルジオンが聞いた。


「ああ。修復するために預かっていたが、そのまま勇者に返し損ねていたものだそうだ」

サンタクロースが頷く。


「ありがとうございます」

ハルジオンが軽く瞼を閉じ、会釈する。



「次にミスリル」

サンタクロースが呼んだ。


「あっ、私の分もあった!」

ミスリルが俺の隣で小さくジャンプする。


子供たちが彼女に贈り物を手渡した。


美しい青色のリボンだ。


「このリボンは”伸縮自在”の魔法の布で出来ている。どんな姿に擬態しても気づいてもらえる目印になるはずだ」

サンタクロースが説明した。


「あっ、ありがとう……」

ミスリルは嬉しそうにそれを受け取った。


「それと、これはノーミードからだ」

サンタクロースはそう言って水色のドレスを手渡した。


「えっ、これ……」

ミスリルが驚く。


そういえば、ノーミードは見送りに来ていないな。

俺は辺りを見渡した。

彼女の姿はどこにもない。きっと店にいるんだろう。

最後までマイペースな守護霊だぜ。


ドレスは薄い水色で、細かな刺繍が入っている。

腕まわりは少し肌が透けて見える素材になっていた。


「アナタが一番気に入っていた服だから、特別にプレゼント。……だそうだ。燃えにくく、破れにくい素材らしい」

サンタクロースが微笑む。


ミスリルは深くお辞儀をした。



「最後にエレアノーラ」

サンタクロースが言った。


「……ん?わっ、私?」

ノーラが目を丸くした。

自分が呼ばれるとは思っていなかったようだ。


サンタクロースは頷くと、自分で贈り物を手渡した。


緑色のブローチだ。


「……次に会うのは、全て終わった後になりそうだな」

サンタクロースが眉を上げる。


「はい、必ず戻ります」

ノーラが頷いた。


「私から、お守りだ。手放すなよ」

サンタクロースはノーラの肩を優しく叩いた。


ノーラは両親2人に守られているんだな、と思った。

昨日感じた「彼女がいなくなってしまうのではないか?」と言う不安が晴れた気がした。



エルフの従者たちが俺たちの馬〈相棒〉を連れてきた。


おお!グルファクシ!

元気だったかぁ!!!!!!


「エレオノーラ、次の目的地は?」

妖精王が尋ねる。


「ミズガル王国の”風の神殿”を目指します」

ノーラが丁寧に答えた。


「それでは……」

妖精王が言いかけた時、広場にエルフの警備隊がやってきた。

彼らは息を切らせている。


警備隊の1人が妖精王に何かを報告した。エルフ語だから意味わかんねぇ。


「かまいません、続けなさい」

妖精王が言う。


警備隊が報告を続けた。


「どんな方ですか?」

妖精王が聞く。


……なんの話だぁ?


警備隊が再び口を開く。


報告を全て聞き終わると、妖精王は俺たちの方を向いた。

「トネリコと名乗るケンタウレがこの森にきています。あなた方に用があるそうです」


「トネリコ!?」

俺は驚く。


「それは俺たちの仲間です」

ハルジオンが妖精王に言った。


「連れてきなさい」

妖精王は頷くと、警備隊にそう命令した。



しばらくすると警備隊に連れられ、トネリコが姿を表した。


彼女は尻尾を垂らし、しゅんとした表情をしている。

罪人が連行されているみたいだぜ……。


俺たちを見つけるとトネリコの尻尾が上がった。


「どうしたんだよ、トネリコ!」

俺が聞く。


「それが……大変なんです。ミズガル王国が」

トネリコがワタワタと話す。


ミズガル王国?

俺たちの次の目的地じゃねぇか!


「魔王の……岩石王の石像の軍隊とゴブリンの軍隊がミズガル王国に向かっているんです」

トネリコが言う。


「石像だと?奴らは日中動けないだろう」

ハルジオンが言った。


「……日の光がなければ動ける」

ノーラは難しい表情をすると、遠くの空に目を向けた。


少し先の空が、濁った灰色の雲に覆われている。


「……闇が来る」

ハルジオンが呟いた。


「戦争が始まります」

トネリコが言った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


本作に登場する武器と種族をかんたん解説!


鎖帷子チェーンメイル

古代からある着用型防具。

細く伸ばした鋼線の輪を連結して服の形にしているよ。


番外編!


■スニーカー

現代の運動靴。柔らかい皮革や人工素材を使って足を覆う。

〈忍び寄る〉を意味する、スニークが語源。

動きやすさはもちろん、音を立てずに静かに動けるよ!


またみてね!

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