22 「設計図の行方」

「ああっ!あの光ィ!もう一度見たい!」

錯乱したデックが、ベッドから起きあがろうとする。

それを仲間のダークエルフが止めた。


事件から一晩明けた。

デックは今、エルフの修道院に収容されている。


彼の仲間は3人いた。

しかし彼らは”沈黙の使者”ではなく。ただの難民仲間だった。


「愛おしい白銀……あのつや……どこにいってしまったんだ、僕の宝物ぉ」

デックが叫ぶ。


「ひぃっ……」

デックと目が合うと、ミスリルが身体を縮めた。


昨夜の事件。

あの後、現場に駆けつけたノーラと警備隊によってデックは確保された。

翌日の朝〈つまり今〉俺とミスリル、ハルジオンの3人で彼の様子を見にきたのだ。


デックは昨日の記憶が欠落していた。

覚えていたのは”美しい光”だけ。彼はその光に魅了されている。


光の正体がミスリルであることは伝えていない。

幸い、人間に擬態している状態のミスリルには魅了効果はない。

彼も気づかないだろう。


錯乱するデック。

これでも、エルフの光の魔力によって魅了効果はかなり押さえられているそうだ。

この森で安静にしていれば彼の魅了は次第に消えるらしい。


「この度はすみませんでした。……元々はこんな奴じゃなかったんです」

仲間の1人が頭を下げた。

デックの仲間も皆、子供だった。

「デックの奴、こんなになってたなんて……気づかなくて」


「アイツは俺たちのリーダーです。アイツは親とはぐれた子供たちを集めて、この森まで連れてきたんです。故郷の”闇の森”が侵略されて、敵からずっと逃げて……旅の間ずっと気を張っていて。俺たちのことばかり気にかけてくれて……。俺らアイツに頼りきりだったから……」

デックの仲間たちが俯いた。


「旅の疲労とストレス……心の隙を狙われたわけか。奴の様子が変だとは思わなかったのか?」

ハルジオンが腕を組み、質問する。


「いえ……感情の起伏が激しかったり、突然発作がでるのは、俺たち難民にとって普通のことだったので……」

仲間の1人は少し考えるような素振りをした。


「でも、そうか……。ある日突然デックの様子が明るくなって……その宝物を貰ったからかもしれません。それに、この森にくる直前のデックは余裕がない印象でした。……きっとその時に指輪を奪われたんですね」


「心の弱さにつけ込んで……操る。許せないな」

ハルジオンは眉をひそめた。


「デックさん、仲間思いだったんだ……。こんな風になっちゃうなんて……やっぱりおかしいよ」

ミスリルが呟く。


「お前も、やっと覚悟が決まったか」

ハルジオンがミスリルを見る。


「……別に、ハルジオンの”聖剣”になるとはまだ言ってないしぃ」

ミスリルが頬を膨らませた。


「はぁ?……『擬態が危険だ』って言ったこと、根に持ってるのか?」

ハルジオンがめんどくさそうに頭を掻いた。

「あれは可能性の話だ。俺は別にお前が逃げるとは思っていない」

彼が言う。


「えっ?そっ、そうなの?」

ミスリルの表情が明るくなった。


「お前にそんな度胸はないからな」

ハルジオンがバッサリ言った。


ミスリルは白けた目をした。



―――――



俺たちは土の試練を再開した。


俺は結局、エルフの鍛冶師を数人集めて再現を手伝ってもらった。


エルフたちは最初乗り気ではなかったが、土の聖宝器の実物を見た瞬間、夢中で製図作業を開始した。


制作意欲は止められないよなぁ。

鍛冶師、チョロいぜ。


「それでも数日かかりそうだなぁ……」

俺がそう呟いた時、後ろから声をかけられた。


ノーミードだ。

俺は反射でケツの穴を押さえる。


無意識だった。昨日の彼女の攻撃がトラウマになってやがるぜっっ。


「アナタ、”火の魔力”と”土の魔力”使ってる?」

ノーミードが俺に聞いた。


「?モーフィングの時は武器に魔力を込めますよ?」

俺は答える。


「いいえ、その前によ」

彼女が首を傾げた。

「アナタ、聖宝器を目だけで観察してるわね。これからは属性の魔力を意識して聖宝器に触れてみなさい。火の魔力を意識すれば『その武器がどのくらいの温度で作られたか』が理解できるわ。土の魔力を使えば『どんな素材が使われて、どのような状態なのか』が一気に分かるはずよ」

ノーミードがアドバイスする。


まじかよ。

もっと早く言ってくれや〜〜〜〜〜〜い!!!!!!


「これで効率アップね」

彼女が微笑んだ。



―――――



それから2日後。

つまり、俺がこの森に来て6日目。

俺は土の聖宝器、”インパクトクラッシャー”の再現に成功した。


今回でかなりコツを掴んだ気がするぜぇ。


「できたか」とハルジオンが近寄った。

彼も試練を合格したようだ。


「ああ、お前も合格したんだな」

俺は頷く。

「そういえば、土の鎧ってどんなんだ?習得したんだろ?」

俺は聞いた。


「……みるか?」

ハルジオンが眉を上げた。


なんか嬉しそうだな、コイツ……。


「鍛冶師、俺を殴ってみろ」

ハルジオンが自分の頬をペチペチと叩いた。

「加減はいらないぞ」


「えぇ、まじぃっ!?おっしゃぁ!!!」

俺は躊躇なく奴の頬を殴った。


ん?

……感触が変だなぁ。


「お前……嬉々として殴るな」

ハルジオンが殴られたまま、俺をじろりと睨む。


俺が拳を離すと、ハルジオンの頬が土色に変わった。

土色の肌がポロポロと地面に落ちる。

剥がれた部分から無傷の肌があらわれた。


「おぉ……?」

俺は彼の頬を凝視した。


「これが土の鎧だ。打撃や弓矢による攻撃は俺には効かない」

ハルジオンが得意げに言った。



―――――



俺とハルジオンはノーミードの指示に従い、神殿を出て人気のない場所に来た。


「再現した聖宝器のチェックをするわ」

オリジナルの聖宝器を持ったノーミードが俺に言う。


俺はハルジオンにミスリルで作った土の聖宝器の再現を渡した。


彼はそれを受け取り、天に掲げる。


彼が魔力を込めると、インパクトクラッシャーの槌頭が勢いよく回転し、ドドドドと振動を始めた。


辺りの空気が一気に振動する。

森の木々が衝撃波で軋んだ。


「いいわ。合格よ。これなら山を砕けるわね」

ノーミードが微笑んだ。


山を砕くって……。

軽く言うけど、ヤバすぎだよなぁ。



「オリジナルも渡してくれ。前みたいに仕掛けがあるかもしれない」

ハルジオンがノーミードに手を向ける。


ノーミードは「仕掛け?」と首を傾げた。


「火の聖宝器をハルジオンが持ったら、光る文字が出たんっすよ。その文字の謎を解いたら”未完成の設計図”が出てきて……」

俺は彼女に説明した。


俺も再現する時に仕掛けがないか調べてみたけど、それっぽいものはなかったんだよなぁ……。


俺の説明に「ああっ」とノーミードが納得した。


何か知ってんのか?


「……えっと。そうね。とりあえず持ってみたら?」

ノーミードは唇に手を当てると、オリジナルの聖宝器をハルジオンに渡した。



ハルジオンがそれを受け取った瞬間、聖宝器から光が放たれ、地面に何か投影された。


「これは……地図か?」

ハルジオンが目を細める。


「多分、土の神殿の地図よ」

ノーミードがすました顔で言う。


「……この地図、神殿の地下が赤く光ってるんだが?」

ハルジオンはもの言いたげな目でノーミードを見る。

「この場所、今はどうなってる?」


「……土の神殿を埋めた時に無くなったわ。元々は小さな部屋があって」

ノーミードが頬を掻きながら答えた。


えぇ……。


「おっ、おい!その時に何か見つけたんだろうな?」

ハルジオンがノーミードに詰め寄った。


「大丈夫、大丈夫。見つけはしたのよ」

ノーミードが苦笑いをした。

「”設計図”があった。”エクストラウェポン”って……」


「おぁ!あったのかぁ」

俺は安堵する。


「でも売っちゃった」

ノーミードが俺たちから目を逸らす。


おぃいいいいいいっっ!!!!!!


「何してんだ!おそらく異世界の武器だぞ!勇者の遺物売んな!」

ハルジオンが吠えた。


「ごめんなさい。こればっかりは言い訳の余地もない」

ノーミードが言う。


「で、誰に売ったんすか?」

俺は腕を組む。


「ドワーフよ。ドワーフの里の”族長”に売ったわ」

彼女が答える。


ドワーフ?ドワーフかぁ!


「本当なんだな?」

ハルジオンがノーミードを睨んだ。


「ええ。ドワーフなら作れるかな?って」

ノーミードが首を傾げた。


「ドワーフの里の、”水の神殿”にはどうせ行くからなぁ……まあいいんじゃね?」

俺はハルジオンに言う。


「まあ、そうだな。設計図は絶対必要でもないしな」

ハルジオンがため息をついた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


またみてね!

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