カジバノチカラ -鉱石少女がエクスカリバーになるまで-

17 「エルフの森」

「"弾丸"を放つ、異世界の遠距離武器……。この"弾丸"を魔鉱石で使ったらぁ……。フヘッ、フヘヘ……」

旅の道中、俺はずっと"銃"について考えていた。

勇者ハルマが作れなかった異世界の武器。

正直、今は聖剣よりも興味がある。

俺の目標は最強の武器を作り、鍛冶師が殺されなくていい世界を作ること。

つまり”聖剣”を作って”職人殺し”を倒せばいい。

絶対に聖剣が最優先っっ！！！

……だけどなぁ。

どうしても気になっちゃう！鍛冶師だもんっっ！

……ということで。

俺の気が散らないよう、”銃”の設計図は鍛冶ギルドに置いてきた。

ギルドの皆は設計図に困惑していたが、すぐに興味津々で調べ始めた。

「混ざりてぇ〜〜〜！！！」

俺は馬に乗りながら大空に叫ぶ。

「びっっくりしたぁ……発作？」

ノーラが心配そうに俺を見た。

ミスリルも冷めた目で俺を見ていた。

―――――

旅は順調。

相棒の馬”グルファクシ”とは良い関係だ。……多分。

俺もトネリコやノーラみたいに動物と話せたらなぁ〜〜〜。

そういう魔術もあんのかなぁ？

「なぁ、俺も火の魔力を貰ったし、手から火ィ出せんのかなぁ」

俺は思っていることとは別の疑問をハルジオンに投げた。

ハルジオンは少し考えた。

「……できるかもしれないが、向いてないだろうな。俺のように”魔力放出”の訓練をしないと」

ちぇっ〜〜〜残念。

「お前は武器に魔力を込めることが向いている。放出とは違う才能だ」

ハルジオンが言う。

「人には適性がある。何でも出来るわけじゃない」

つまんね〜〜〜〜〜〜の！！！

今日からお前、つまんねぇ君な？

「やってみねーと分かんねぇじゃん！」

俺は言い放つ。

「そもそも魔術師なんて、ほとんどいないんだ。モーフィングが出来るだけで幸運だぞ」

ハルジオンがこちらを睨む。

「鍛冶ギルドにはあと4人いるぜ？」

「バルドール王国でたった4人だ」

……たった4人。そういう捉え方ね。

バルドール王国がどのくらいデケェかは知らん。

だけど、首都"ゴルドシュミット"だけでもかなりの人が住んでいた。

そうだなぁ、少ないかもしれん。

―――――

エルフの森には約1週間で着いた。

馬たちが頑張ってくれたおかげだっ！！！

幸い敵との遭遇はなかった。

「城壁の外で絶対にミスリルの擬態を解かないこと！」と姫様にはしつこく言われていた。

言いつけ、ちゃんと守ったぜぇ。

目の前には広大な森。

なんとなく神聖な雰囲気を感じる。

「エルフの森だ」

ノーラが言った。

近づくと森を貫く一本道があった。これが入り口だなぁ？

「早速入ろうぜ！」

俺は前のめりになる。

「まて。まずは妖精に道を聞くんだ」

ノーラは馬を歩かせて少し前に出た。

彼女は「ふう」と一息ついて口を開く。

音楽のような発声。

エルフ語だ。

どんな意味かは分からん。

ノーラが言い終わると俺たちに追い風が吹いた。

辺りの木の葉が勢いよく舞う。

森の木々がミシミシと音を立てて動き出した。

「え？」

思わず声が出た。

目の前の一本道。

その道が”動く樹木”によって閉じてしまった。

ノーラは全く動じない。

また木々が動き出す。

さっきまで道がなかった場所の木々が揺れ、整列し、新しい道を作った。

その道に風が吹き抜けていく。

風に乗った木の葉はそのまま地面に落ちることなく、ゆらゆらと動いて俺たちを招いた。

「行こうか」

ノーラが眉を上げた。

「さっ、さっきの道は？」

ミスリルがノーラに尋ねる。

「あれは罠の道。妖精に道を聞かないと、散々迷った挙句、入口に戻ってきてしまう」

ノーラが説明した。

俺たちは木の葉に導かれ、森の道を進んだ。

しばらく馬を歩かせると複数の視線を感じた。

俺は辺りを見渡す。

木陰に一瞬、妖精の羽が見えた。

なるほどぉ、妖精ねぇ。

「”混血”だ……”混血”が帰ってきた！」

妖精たちの囁きが聞こえる。

混血？ノーラのことか。

ノーラは”ハーフエルフ”だからなぁ。

木々を抜けると美しい花畑に出た。

様々な種類の花が遠くまで咲き誇っている。

赤青黄白橙紫……色々っっ！！！

花畑の中央には大きな広場。

その中心には円卓があり、５つの椅子が並んでいた。

そしてそれらを囲むように巨大な石の柱が6つ配置されている。

柱の外側にはエルフが集まっている。

美男美女ばかりだ。

……まぁ、うちのミスリルも全く劣ってないっすけどぉ。

エルフは皆金髪。金色が濃いか薄いかくらいの違いしかない。

ノーラのような黒髪は1人もいなかった。

柱の内側。

円卓の椅子の一つには花の王冠を被った美しい女性が待っていた。

息を呑む美しさだ。

彼女は緑色のドレスをまとっている。

淡い金色の髪は温かな光のように発光して見えた。

俺たちは馬を降りた。

エルフの従者がやってきて俺たちの馬を別の場所へ案内した。

また後でなぁ、相棒！！！

『お待ちしていました。こちらへ』

花の王冠を被った女性が言った。

彼女の話す言語は不明。

だけど、脳内では意味が分かった。

不思議な感覚だ。

彼女は声は張っていない。

だけど、耳の奥までしっかり響いた。

つい背筋が伸びてしまう声色だ。

俺はノーラを横目で見る。

彼女も少し緊張していた。

「失礼のないように」

ノーラは俺たちにそれだけ言った。

「わっ、私……べつに喋ったりしなくていいよね？」

ミスリルが小声で俺にきく。

「挨拶くらいはしようなぁ」

俺は優しく呟いた。

俺たちは柱の内側に案内された。

円卓の前に来ると、花の王冠を被った女性が立ち上がった。

『エルフの森の妖精王、”イグドラシル”です』

彼女が微笑む。

『久しいですね、エレオノーラ』

「イグドラシル様もお変わりなく……」

ノーラが深く頭を下げた。

『こちらへ。旅の疲れもあるでしょう、手短に進めます』

妖精王は俺たちに椅子を勧めた。

俺たちは素直に従う。

右回りに妖精王、俺、ミスリル、ノーラ、ハルジオンの順で円卓を囲んだ。

女王様と同じ目線で座る。

玉座を見上げるのとは違って……なんだか不思議な感じだ。

俺たちの自己紹介がすむと、ノーラがここにきた目的を妖精王に伝えた。

・聖剣制作のため土の神殿で試練を受けたい。

・数日間滞在する予定である。

概ねそのような内容だ。

妖精王はその内容に驚かず、拒否もしなかった。

彼女は少し考えると口を開いた。

「エレオノーラ。以前から”動く石像”が気がかりでしたね。最近はより力が強まっています。いくつもの森が静かに病みました。ゴブリンやトロルも活発化しています」

ノーラはそれを聞くと深刻な表情になった。

俺とミスリルは顔を見合わせる。

「戦（いくさ）が近い」

ハルジオンが呟いた。

妖精王はハルジオンを見てゆっくり頷いた。

「その通りですハルジオン。今、この森は多くの難民を受け入れています。困難な状況です」

ノーラは静かに頷く。

「あなた方は聖剣作りを続けなさい。何があってもです。そのために土の試練が必要であれば私は止めません。ですが、試練では魔鉱石の擬態を解き、岩石王の魔力をこの森に放つことになります。それは危険な事。お分かりですね？」

妖精王が言った。

確かにそうだなぁ。

火の神殿のあるゴルドシュミットはサイレンスの行動範囲外だった。

だけど、エルフの森はゴルドシュミットよりも闇の王国に近い。

サイレンスの行動範囲内なんじゃねぇか？

聖宝器の再現をしたら、奴（サイレンス）らに感知される。

「この森には強力な結界があります。私がいる限りサイレンスの侵入は許しません。ですが今のままでは結界が強すぎて、そちらがお持ちの魔鉱石の魔力を引き出せないでしょう。ですから、これから数日は結界の力を緩めます」

妖精王が上空を見た。

それはかなり危険じゃね？

「この森が今、そういった状態にあることを理解してください」

妖精王が言った。

―――――

話が終わると俺たちは集落に案内された。

「空いている宿がなくてね。私の家に泊まってもらうよ」

先頭を歩くノーラが言った。

俺たちは樹木を基礎とした建築物の上を歩いている。

町一つが丸ごと木の上に浮いている感じだ。

大きな屋敷の前に着くと、中からエルフの男が出てきた。

「ノーラァ」

男はそう言ってノーラにハグをする。

彼女は抵抗しない。

ノーラはこちらを気にした後、遠慮気味にハグを返した。

雪のような白い短髪と髭。

ガタイの良いエルフだ。

2人はエルフ語で何か会話をしている。

「ええと。私の父、サンタクロースだ」

ノーラが彼を紹介した。

ノーラの父ちゃん！

ってことは母ちゃんが人間か。

サンタクロースは俺たちの顔を順番に眺めた。

「なるほど……小さな友よ。歓迎する」

彼は大陸語で言った。

母ちゃんが人間だから、大陸語も喋れるんだな？

サンタクロースが俺たちを屋敷に招く。

「旅は何度か経験がある。そろそろ王国の飯が恋しい頃だろう？」

彼が言った。

「そりゃもう」と俺は深く頷く。

「お前たち、飯の準備だ」

サンタクロースが手を叩き、部屋の奥に呼びかける。

すると、お揃いの服を着たエルフの子供が次々と顔を出した。

エルフの森は衣服が発達しているなぁ。

皆、出来の良い服を着ている。

種類も多い。

子供たちは俺たちを確認すると、すぐに部屋の奥へ消えた。

「あれってノーラの兄弟？」

俺は質問する。

ノーラは首を横に振った。

「あの子たちは孤児だ。私が家を出てからこの家は”孤児院”になった」

サンタクロースは俺たちに大きな部屋を1つ用意してくれた。

「悪いが1部屋しかない。難民が多くてな。これまでにないことだ。どこも部屋が余っておらん」

サンタクロースは分厚い赤カーテンを開き、窓の外を眺めた。

「突然来てすみません」

ノーラがサンタクロースに言う。

「いつものことだ」と彼は微笑んだ。

ハグはするけど父親に敬語。

そういう距離感の家族らしい。

―――――

さぁ、やってまいりました〜〜〜！！！！！！

飯！！！飯！！！飯！！！

久しぶりに賑やかな食事だぜ！！！

大きなテーブルを大勢で囲んでいる。

孤児は13人。

皆、耳がとんがっている。

彼らは来客に喜んでいた。

ワイワイと俺たちに近づいたり、子供同士で楽しそうにはしゃいでいる。

テーブルには料理が並んだ。

ほとんど野菜だった。肉は1品しかない。

温野菜にピーナッツソースのディップ。

酸っぱい赤カブ。

キノコのスープ〈味薄しぃ〜〜〜〜〜〜〉

きゅうりを若鶏の肉で巻いたもの……etc

飲み物は水だ。小さな子供がいるからかもしれない。

ほほう……。

……そういえばエルフは菜食主義(ベジタリアン)が多いんだっけ。

残念がるのはよそう。

飯があるなんて、それだけで幸せだぜ？

それに子供達の手作りだ。

それだけでサイコーだよなっっ！

「これでも肉がある方だから……美味しく食べてあげて」

ノーラが俺に囁いた。

え？

肉料理1品だぜ？

普段全く肉ないってことじゃん。

ハルジオンは子供の面倒見が良かった。

子供のこぼしたものを拭き、子供のために遠くの料理をとってあげている。

ミスリルは周りの忙しなさに目を回していた。

小さな子供たちが彼女に寄り、「おいしい？おいしい？」と聞き続けている。

ノーラは穏やかな顔をしていた。

ここが一番安心できる場なんだなぁ。

俺はとにかく飯を食っていた。

飯、飯、飯だ。

途中から隣の子供が率先して料理をよそってくれた。

「わりぃなぁ」と俺が言う。

「これだけ食べてくれるのは嬉しいので」と子供が言った。

なんて、できた子なの！？

ノーラの父ちゃん、サンタクロースは贈り物好きのエルフだった。

いつでも子供に配れるよう、デカい飴玉を常に携帯しているそうだ。

「大事にな」と俺たちにも飴玉をくれた。

「あれが、家族……」

夜。

ミスリルはそう呟きながら、窓際でデカい飴玉を眺めていた。

宝石でも見ているようだった。

夜空に光る赤い月も飴玉のように丸かった――

―――――

翌日。

俺たちはノーラの案内で、土の神殿のある場所にきた。

しかし、そこに神殿はなかった。

代わりに、ガラス張りの奇妙な建物が立っている。

ガラス？

ガラスだよなぁ……アレ。

建物の中には何かある。

もう少し近づかないと分かんねぇな。

ノーラは言葉を失っていた。

「綺麗、あれ何？」

ミスリルが俺に尋ねた。

「あれはガラスだ。あんな加工見たことねぇけど」

俺は答える。

ハルジオンは困惑していた。

「……しっ、神殿がない？」

ノーラがようやく言葉を発した。

「ここだよ。これが神殿。……いや聖域というべきかな」

後ろから女声がする。

俺たちはそちらに振り返った。

そこには派手な女が立っていた。

指輪や耳飾りといった装身具を沢山つけている。

ノーラと同じくらいの身長。

すらっとした体型。

髪は艶のある茶色。いや……髪の内側が金色だ。

〈どうなってんだ？〉

衣服は……。

あれ？

あれって孤児たちが着てた服と同じ。

白の服。尻が隠れるくらいの丈の長さ。〈チュニック〉胸辺りには何か文字が入っている。

その下には皮のズボンを履いていた。

「わかっているよ、エレオノーラ。試練でしょう？」

女が頷く。

ノーラは彼女を見て溜息を吐いた。

「みんな、紹介しよう……彼女が土の守護霊”ノーミード”だ」

ノーラが俺たちに言った。

「なるほど……それで」

ハルジオンが勝手に納得する。

「何が？」

俺はハルジオンにきく。

「あの服の文字……大陸語で〈ノーミード〉ってかいてある」

ハルジオンが指をさす。

「プレシャス！待っていたよ」

土の守護霊ノーミードが指を鳴らした。

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本作に登場する武器と種族をかんたん解説！

■ユグドラシル

北欧神話に登場する架空の木。

世界を支える大樹で〈世界樹〉と呼ばれているよ！

本作ではエルフの森の妖精王の名前『イグドラシル』として登場。

■サンタクロース

各地に伝承がある伝説の人物。

12月24日の夜に子供にプレゼントを渡して回ると言われているよ！

本作では贈り物好きのエルフとして登場。

■ノーミード

ヨーロッパの伝承に登場する地の精。

ノームの女性形が『ノーミード』だよ！

本作では土の守護霊として登場。

またみてね！