カジバノチカラ -鉱石少女がエクスカリバーになるまで-

16 「相棒」

オリハルコンの話を聞いた後、俺たちは大広間を出た。

王宮の中庭にはケンタウロス一行がいた。

その中にケンタウレの少女、トネリコの姿がある。

彼女たちケンタウロス一行は手紙や物を各地に運ぶ仕事をしている。

俺も彼女に頼んでドワーフの里に手紙を出していた。

どうやら俺たちが火の試練している間に戻ってきたらしい。

「ああ、カジバさんだ！お探ししました」

トネリコが俺に気づき、太陽のような笑顔を見せる。

こっちまで元気が出るぜっっ！

彼女はパカラパカラと四本足でこちらに駆けた。

「私たち……各地に届け物をしてきた所です。ドワーフの里も経由できたのでお手紙届けられました」

トネリコが微笑んだ。

「スズーリさん宛でしたね。スズーリさんから伝言を預かっています」

伝言？

まあ、手紙を書くような奴じゃないかぁ。

「ありがとなっ。伝言は……言ってくれる感じぃ？」

俺は小さく首を傾げる。

「えっと……はい。私が言いますね」

トネリコはそう言うと一つ咳をした。

そして口を開く。

スズーリの伝言　声:トネリコ

「こらぁああああああ〜〜〜〜〜〜！！！！！！

ぶっっっとばすぞぉおおおおおおお！！！！！！

『夜に出歩くな』と何度も言っただろうがぁマヌケェ！

部品の製造も残っている。

食器洗いもお前以外の奴はゴミみたいに下手くそだ！

さっさと聖剣作って戻ってこいっっバカタレェ！

5ヶ月待ってやる！

追伸：帰ってくるときは王国の飯と酒を持ってくるように」

伝言を言い終わるとトネリコはフンと鼻息を立てた。

なぜか気持ち良さげだ。

……ついでに何か発散させたな？

それにしてもびっくりした。

まぁ、らしいといえば、らしい伝言だけど。

〈追伸って、口頭で言ったのかよ……〉

トネリコの可愛い声のおかげで、まぁまぁ聞けた。

毎回こうしてもらうか。

彼女にはスズーリの専属声優になってもらおう。

「現場の覇気を伝えられるように、がんばりましたぁ……」

トネリコが言った。

彼女は本物を聞かされたのかぁ……。

なんかぁ、ごめんなっっ！！！

「えっと。伝言にあった”聖剣を作る”って……もしかして、あの”聖剣エクスカリバー”ですか？」

トネリコが言った。

俺は素直に頷く。

「カジバさんは凄いんですね。あっ、カジバ様って呼んだ方がいいですか？」

トネリコがアワアワと手を動かす。

「カジバでいいよぉ」

俺は言う。

「あっ、お前……方向音痴のケンタウレか」

隣のハルジオンが思い出したように口を開いた。

「えっと、はい。そうです……」

トネリコはハルジオンを見ると、少し恥ずかしそうに俯く。

「なにぃ、知り合い？」

俺はハルジオンにきく。

「前に一度道案内をしただけだ」

ハルジオンはぶっきらぼうに答えた。

「私は結構見てましたよ……。ハルジオンさんはお姫様の護衛で凄い人です」

トネリコが遠慮がちに言った。

ハルジオンは姫様の護衛として皆に認識されている。

”勇者の末裔”であることは、ほんの一握りしか知らない。

「ハルジオンさんは強くて優しい人です。……勇者様みたいで尊敬します」

トネリコが言う。

勇者という言葉に一瞬ハルジオンが痙攣する。

「……俺が優しい？」

ハルジオンがトネリコにきく。

「はい。ここの小鳥さんたちがいつも言っています」

トネリコが中庭を見回した。

「鳥……話せるのか？」

ハルジオンは驚いていた。

トネリコは嬉しそうにうんうんと頷く。

「すげえ、ケンタウロス語に大陸語……それに、鳥とも話せんのかぁ」

俺は感心した。

トネリコは少し照れると、その後真面目な顔になった。

「ケンタウロスは……魔族です。100年前は魔王軍にいました。ケンタウロスはミノタウロスの奴隷で、人間との交渉のために多言語を喋れるよう教育されてきました。その名残が私の家系にはあって」

彼女は言った。

……そうだったのか。

「勇者様はケンタウロスを奴隷から解放してくれた優しい人です。ハルジオンさんには、そんな勇者様のような優しさを感じていました」

トネリコは顔を赤くして呟いた。

変なところで鋭いなぁ。この子。

「って。こんな話、どうでも良いですよねっ！なんでこんなこと喋っちゃったんだろう……」

トネリコは顔を背けると、俺の背後にくっついているミスリルに目を向けた。

「あれ、その子は？」

「ああ、ミスリルだ。コイツ人見知りで……」

俺はミスリルを剥がそうとする。

ミスリルは頬を膨らませ、無言で抵抗した。

「ミスリルさん？有名な鉱石と同じ名前ですね」

トネリコが言う。

「ああ、それは……」

「その鉱石が名前の由来なんだ」

俺の言葉を遮ってハルジオンが説明した。

魔鉱石だってこと、隠す気だな。

まぁ……あえて言う必要もないかぁ。

極力外部には言わないことになってるし。

「……そうなんですね！私の名前は植物が由来なんですよぉ」

トネリコがミスリルに微笑んだ。

「えっ、えへっっ」

ミスリルが彼女に愛想笑いする。

下手すぎる……。

俺と2人の時は普通に喋るんだけどなぁ。

「すっっっっっっごく、可愛いですねっっっ！！！」

トネリコがミスリルに笑顔を向ける。

「すっ、すっごく。まっ、眩しいです！」

ミスリルがトネリコの笑顔にやられた。

「そうだぁ！トネリコ。俺たちの馬を選んでくれないか？」

俺は彼女に提案した。

思いつきだった。

「俺たちエルフの森に行くんだよ。乗っていく馬をこれから選ぶんだけど……」

この後、近くの馬小屋に行く予定だ。

先に行ったノーラが俺たちを待っているはず。

「ちょ、お前」

ハルジオンが俺を咎めた。

俺の提案にトネリコは少し驚いていた。

「……なっ、なんか失礼だった？今の」

俺はハルジオンに小さく尋ねる。

「いや、俺もわからんが……」

ハルジオンがトネリコの顔色を伺った。

「いえ、嬉しいですよ！私が適任だと思ってくださったんですね！」

トネリコが笑顔で両手を合わせた。

「……ふう」

俺たちは安堵の息を漏らす。

―――――

馬小屋の前でノーラが待っていた。

「きたね。おや、ケンタウレも一緒か？」

ノーラは少し驚いた。

「彼女に相棒を紹介してもらおうと思って」

俺は言う。

「なるほどね。こっちだ」

ノーラが顎で馬小屋の入り口を示す。

馬小屋には飼育馬の世話人が何人かいた。

彼らはケンタウレが入ってきたので少し驚いていた。

「私が連れてきた馬もここでお世話になっている」

ノーラは一番手前の馬を見た。

赤茶色の馬。

見覚えがある。

王国に来るときにノーラが乗っていた馬だ。

「この子はバヤール。私の相棒。エルフの森で生まれた子だよ」

ノーラが紹介した。

「この飼育馬の中から3人がそれぞれ乗る馬を選ぶんだけど、ケンタウレならきっといい相棒を見つけてくれるだろうね。私からもお願いできるかな？」

ノーラがトネリコに言う。

「任せてください！」

トネリコが元気に答えた。

「俺とハルジオンとミスリルの馬よろしくな」

俺は言う。

トネリコは頷くと俺たちの前に立った。

「まずはこんな子がいいという要望を教えてください」

「俺はぶってぇ心の、でっけぇ馬だな！」

俺は元気よく言う。

相棒はそれくらいじゃないとなっ。

「は、はい！」

トネリコは一応返事をしたが、ちょっと分かってなさそう。

「コイツの言う”でっけぇ”ってのは”強い”って意味だから」

ハルジオンが補足した。

わかってんじゃん。

トネリコは「なるほど」と頷く。

「ハルジオンさんは馬に乗ったことは？」

トネリコが尋ねた。

「ないな。この町には馬車で来たから」

ハルジオンが素直に答える。

「なるほど。こんな子がいいという要望はありますか？」

「そうだな、賢くて速い馬がいい」

ふんふん、とトネリコが頷く。その後ミスリルにも質問した。

「ミスリルさんは？どんな子がいいですか？」

「えっえっと……私は、私を好きな馬が好きです」

ミスリルが答えた。

すげえ要望だな……。

―――――

トネリコは馬小屋を一通り回った。

馬に挨拶をしてコミュニケーションを取ったようだ。

その後、俺たちの前に戻ってきた。

「まずハルジオンさん。こちらの方が適馬だと思います。聡明で速さに自信がありました。名前はアルスヴィズ。「快速」「あらゆる力に応えるもの」という意味があるそうです」

トネリコが言う。

すらっとした白の牡馬だ。

「そうか」

ハルジオンがアルスヴィスに近寄る。

アルスヴィスは彼にゆっくりと頭を下げた。

「ハルジオンだ。よろしく頼む」

彼はアルスヴィスに言った。

その様子を見てトネリコは微笑んだ。

「次はミスリルさんです」

「はっはいぃ」

ミスリルの背筋が伸びた。

「こちらの方です」

トネリコが紹介する。

灰色の毛並みの立派な馬だ。

「この方はグラニテイオーと言います。女性です」

「テイオーか、昔流行った名だな」

ハルジオンが言った。

「はい。勇者ハルマの愛馬”ハルカゼテイオー”の影響で、名前にテイオーをつけることが一時期流行しました」

トネリコが微笑む。

「グラニテイオーは大人で優しい方です。きっとミスリルさんも安心して乗れますよ」

最後に俺の馬だ。

トネリコが推薦したのは、がっしりとした体格で茶色い毛を持つ牡馬だった。

その馬は俺が王国に来るときに乗った、ノーラが連れていたもう一匹の馬だった。

「お前ぇ、やっぱり相性良かったんだなぁ！」

俺は馬に近寄る。

「彼はグルファクシと言います。えっと……『俺が一番でっけぇから』と言っていたので推薦しました」

トネリコが言った。

ふうん自信だね。

お前そういう性格だったのか。

「俺は鍛冶師のカジバ。またよろしくなぁ、グルファクシ！」

俺はグルファクシの首を撫でた。

「その子もエルフの森で生まれた子だ。主人と認めた者に危険が迫った時、たてがみが金に光ると言われている」

ノーラが説明する。

「そうなのか……すげえな！サイレンスに襲われた時は光んなかったけどぉ」

俺は首を傾げる。

「あの時はまだ主人ではなかったからな」

ノーラが言った。

「これからは主人、いや”相棒”だな！」

―――――

「正直、馬小屋に入るのは怖かったです。私の種族は奴隷でしたから。でもこの国は馬を大切にしていますね。ここにいる子たちも皆そう言っています。よかった」

トネリコが胸を撫で下ろした。

ああ、やっぱりそうだったのか……。

思いつきで無理させちまった。

「気づかなくて悪りぃ」

俺は頭を掻く。

「いえいえ、嬉しいんですよ。冷やかしではなく私の性質を認めた上でのお願いだったんですから！」

トネリコが強く言った。

「良い旅を。気をつけてくださいね」

―――――

翌日。

俺たちはゴルドシュミットを出て、エルフの森へと向かった。

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本作に登場する武器と種族をかんたん解説！

■ミノタウロス

ギリシア神話に登場する半人半獣。頭が牛で身体が人間の種族だよ。

本作ではケンタウロスを奴隷にしていた闇の魔族として登場。

■グルファクシ

北欧神話に登場する馬。〈金のたてがみ〉を意味する名だよ。

本作では主人の危険が迫った時、たてがみが金色に光る馬としているよ。

■グラニ

北欧神話に登場する馬。灰色の毛並みの牡馬。

オーディンの持つ馬『スレイプニル』の血を引いているよ。

本作では『グラニテイオー』という名の雌馬として登場。

■アルスヴィズ

北欧神話に登場する馬。「快速」または「あらゆる力の要求にこたえる者」を意味する名だよ。

■バヤール

フランスの伝承に登場する馬。魔法の馬で赤毛に黄金の心臓、キツネの知恵を持つとされているよ。

またみてね！