15 「勇者ハルマ」

「勇者ハルマは"運命の女神ノルン"によってこの世界に転生した"異世界人"です」

オリハルコンが告げた。



火の試練を終えた翌日、俺たちは大広間に呼び出された。


玉座に姫様。その隣にオリハルコン。

俺とミスリル、ハルジオン、それにノーラが姫様と対面している。


『勇者ハルマは異世界人』

この事実をオリハルコンが認めた。


ノーラも知っていたらしい。

言うタイミングがなかったそうだ。


暗殺者アサシンの騒動もあったしなぁ……。



「まずは火の試練の達成を褒めましょう。あなた方は見事に期待にこたえてくれました」

姫様が威厳と落ち着きのある声で言う。


玉座に座る仕事モードの姫様は貫禄がある。


「勇者ハルマは異世界から来た。この事実を隠していたわけではないのですが、色々と説明不足がありましたね……私も焦っていたのかもしれません」

姫様が頭を下げた。


異世界……異世界ねぇ。


だけど、これで”勇者ハルマ”に対する違和感の正体がわかった。


俺はずっと不思議だった。


”勇者ハルマ”という人物の功績が、現実離れし過ぎていたからだ。


「正直、盛ってんじゃないのぉ〜〜〜?」とか思ってたぜ。


・聖剣エクスカリバーを作った。

・聖宝器を5つ作った。

・岩石王を滅ぼした。

・魔鉱石の性質に気づいた。

・モーフィングを最初に使った。

・ウルカヌスにサウナを教えた。

・そして『銃』の設計図……etc


この世界の知識だけでできたとは思えない。


納得だぜぇ!!!



「これは『銃(ジュウ)』と読みます」

オリハルコンが設計図の文字をなぞる。

「まさか、設計図を残していたなんて……ウケますね」


おやおや、ウケましたか。


「『銃』というのは勇者ハルマがいた”異世界の武器”です。本当はこの『銃』を”火の聖宝器”として作りたかったのでしょう。ですが彼も万能ではありません。存在を知っていても、構造を完全に理解していなかった。泣く泣く断念したようです」

オリハルコンがこめかみを抑えながら言う。


「勇者から話を聞いていたのか?」

ハルジオンが首を傾げる。


「いえ、私は聞いていません。私の記憶にあるんです」

オリハルコンが静かに答える。


「記憶ぅ?」

俺は目を細めた。


「私は勇者ハルマの記憶を引き継いでいます。ですから、この『銃』という文字を読むことが出来ました。記憶は所々破損していますが……」

オリハルコンが言う。


あぁっ!


「ウケる」って、もしかして”異世界語”かぁ〜〜〜???



「なぁ、勇者ハルマのこと教えてくれよ」

俺はオリハルコンに言った。

「”元聖剣"が、人型に戻ってる理由も教えてくれるよなぁ?」


俺はききそびれていた疑問を彼女に投げかけた。



オリハルコンはゆっくりと頷いた。

彼女は目を閉じ、一つ息を吐く。


「私は元聖剣。そして歴史を伝える語り手でもあります。お話ししましょう、100年前よりも前の話を……」

オリハルコンが口を開いた。


「まずは勇者ハルマが現れる前の話。岩石王の登場で光と闇の平衡が大きく崩れました。闇の勢力は軍門に下り、光の勢力は大幅に衰退。光と闇。5:5が1:9の配分になるほどの出来事です。


岩石王は半巨人の姿で、全身があらゆる鉱石で出来ていました。

彼の武器や軍隊は全て、自身で生み出した魔鉱石で出来ています。


魔鉱石の性質はご存知ですね?

『どんな物質も破壊し、どんな物質にも傷つけられない』


こんなの"無理ゲー"です。

その上、魔鉱石は光の魔力耐性がありました。


光の勢力は"翼の民"や妖精〈エルフ〉です。

ここに人間やドワーフも加わっていきます。


光の勢力の武器では魔鉱石に傷一つ、つけられませんでした。

勝てっこないですね。


出来ることは守りに徹することだけ。



ですが、その守りも崩されてしまいます。


岩石王は世界最強生物 ”ドラゴン” を味方につけました。


岩石王はあらゆる石を生み出す。

魔鉱石だけでなく、宝石も。もちろん、金銀財宝も。


ドラゴンは財宝に目がない生物です。

岩石王は自身の生み出した宝石で取引しました。


取引に応じたのは”暴竜ニーズヘッグ”


ニーズヘッグと岩石王の配下 ”7体のサイレンス” によって、翼の民が住む”天空城”が崩落しました。

光の勢力の敗北です。


この戦いで翼の民がほとんど滅亡しました。

同盟を組んでいたエルフも衰退。


天空城の崩落。

世界征服目前の魔王軍。



そこに”勇者ハルマ”が現れました。



この世界には多くの神々がいます。

神々は"光の神"と"闇の神"に分かれます。


しかし”運命の女神ノルン”だけは中立な神でした。


女神ノルンはこの状況を危惧し、対策をたてました。


天空城が崩落した時、すでに神々も岩石王を止めることが出来なくなっていました。


女神ノルンは”この世界の法則に縛られない者”が必要だと考え、異世界人である"勇者ハルマ"をこの世界に転生させたのです。


女神ノルンは彼に助言をしながら、世界の平衡を取り戻すために動きました。


勇者ハルマは強大な”対魔力”を持っていました。

そして、錬成魔術モーフィングを女神ノルンから与えられました。

現在、カジバ様が使っている魔術です。


『あらゆる物質を分解し、武器として再構築する魔術』


モーフィングは魔鉱石に有効でした。


勇者ハルマはモーフィングを正しく使いこなすために、鍛冶師になりました。

そして、石像兵を次々と魔鉱石武器に変えていったのです。


勇者ハルマによって光の勢力は対抗する武器を手に入れました。


ただ、魔鉱石武器には魅了効果というリスクがありました。

また、闇の魔力を持つ魔鉱石武器は、光の種族であるエルフたちには扱えませんでした。


ここで活躍したのが人間です。

人間はこの大陸で唯一、光と闇の両方の性質を持っています。

なので魔鉱石武器を扱えました。


もちろん、魅了されてしまう者も多く出ました。

しかし、強い意思を持った騎士たちが光の勢力を救いました。



そして100年前。

勇者の仲間である”4英雄”が”暴竜ニーズヘッグ”を倒し、崩落した天空城を取り戻しました。


岩石王との最後の戦いが始まります。


勇者ハルマは”4英雄”と光の勢力の連合軍を連れて、闇の王国”ヨトゥンヘイム”に向かいました。


連合軍には、エルフ、ドワーフ、人間、翼の民の生き残りが参加。


ですが、この時点では”聖剣エクスカリバー”は出来ていません」



「えっ!なかったの?」

俺は驚いた。


聖剣を持って最後の戦いに向かったと思ってたぜぇ……。



「ええ。その時点では”5つの聖宝器”しかありませんでした」

オリハルコンが右手の指を広げた。


「最後の戦いは熾烈を極めました。光の連合軍が善戦し、ついに岩石王を戦場に引きずり出しました。


しかし岩石王は強かった。

4英雄が倒れ、最後に勇者ハルマが立ち向かいました。


彼はボロボロになりながら最後の力でモーフィングをしました。


岩石王の右腕を無理矢理”剣”に変え、その剣で魔王の身体を粉砕したのです。


その剣が"聖剣エクスカリバー”


それにより石像の軍隊が消滅し、サイレンスが力を失いました。


光の勢力の勝利です。


『生死の狭間、自身でも思いもよらない力が出ることがある』

と勇者ハルマは言っていました」


オリハルコンが言う。



「戦場の土壇場で生まれた武器。それが”聖剣エクスカリバー”。この”エクスカリバー”という言葉は勇者ハルマの故郷の有名な剣の名だそうです」

オリハルコンが微笑んだ。


……100年前の話だ。

正直、実感が湧かない。

それでも勇者ハルマが凄いのは分かった。


辿り着けるのか……俺はそんな奴に。



「それで、なんで”聖剣”が今は人間なんだぁ?聖剣が残ってれば、ずっと楽だったんじゃ……」

俺は率直にきく。


「そうですね。私がまだ聖剣だったら……」

オリハルコンは一瞬目を伏せた。


「岩石王が滅びた後、勇者ハルマは天空城の跡地に”城塞都市ノルンの眼”を作り、闇の勢力の監視をしました」

彼女が説明する。


「……敵をそのまま倒しきらなかったんすか?」

俺は首を傾げる。


オリハルコンは「ええ」と頷いた。


「勇者ハルマの使命は”光と闇の平衡を保つこと”でした。光と闇、どちらがいなくなってもいけない。魔王軍残党を滅ぼすことで光の勢力が強くなりすぎることも勇者ハルマは阻止しなければなりませんでした」


「バランス……難しいんだなぁ」

俺は呟く。


「終戦から数年。勇者ハルマは魔鉱石の破片を探し、聖剣で破壊し続けました。岩石王の身体を粉砕した時に各地に散らばったからです。その時に彼は”岩石王の核”を壊しきれていないことに気づきました。


勇者ハルマは聖剣も破壊するつもりでした。

しかし、岩石王の核を破壊するまでは必要だと考えました。


”聖宝器”は神殿に封印しましたが、聖剣だけは残さざるおえなかった。

魔王が完全消滅するまでは……。


そんな中、一部の人間たちが魔王軍残党を殺戮し始めました。


……恐れからの殺戮です。


すると、勇者ハルマは魔族たちを守るようになりました。

岩石王の力によって強制的に戦わされていた種族や、奴隷にされていた種族を助けました。


しかし、これによって一部の人間と勇者ハルマの間に溝が出来てしまいました。



そしてある時。

勇者ハルマが刺客に襲われ、致命傷を負いました。


勇者ハルマはそこで、聖剣を鉱石の姿に戻しました。

刺客に聖剣を渡さないためです。


そこで私は初めて人に擬態しました。



勇者ハルマは自分の記憶を私に刻み込んで、私を逃しました。

その後、彼は命を落としました。


『今後必ず聖剣が必要になる……君が導いてあげるんだ。この世界の俺の意思を継ぐ皆が……必ずやり遂げてくれる』


それが勇者ハルマの最期の言葉です」


オリハルコンはゆっくりと目を閉じた。



そうだったのか……。

『刺客に聖剣を渡さないため』

だからオリハルコンは人間の姿になった。


「刺客はミズガル王国の”はぐれ騎士”だと言われている。正義を語り、異種族を排除しようとした連中だ」

隣でハルジオンが言った。


「俺たちは再び”聖剣”を手に入れる。だが、使い方を間違えてはいけない。俺は聖剣を岩石王の核を壊すために使う。闇の種族を滅ぼすことには使わない。そして役目を終えた聖剣の破壊を見届ける。岩石王の意思だけはこの世に残さない」

ハルジオンは拳を握った。



―――――



俺たちが次に向かうのはエルフの森にある”土の神殿”。


そこはノーラの故郷だ。  



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



本作に登場する武器と種族をかんたん解説!


■ドラゴン

ヨーロッパの伝承に登場する伝説の生物。

鱗に覆われた爬虫類〈トカゲ〉のような姿で有翼。

炎や毒を吐くと言われているよ。

本作ではそのイメージを引き継ぎ『財宝に目がない世界最強生物』として登場。


■ニーズヘッグ

北欧神話に登場するドラゴン。

古ノルド語で〈怒りに燃えてうずくまる者〉を意味する名だよ。本作では翼の民をほとんど滅ぼした『暴竜』として登場。


■ノルン

北欧神話に登場する運命の女神。

神々と人間の運命を定め、人間の寿命や,幸不幸を決める。

3人姉妹だと言われているよ。


またみてね!

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