14 「異世界転生」
「さて、進捗どうですか?」
姫様が言う。
なんだか、嫌な質問だぁ……。
彼女は布一枚の姿でダラダラと汗を流していた。
バルタサール王が見たらどう思うだろう。
「ここ〈サウナ〉でぇ?」
俺は思わずきき返した。
皆、半裸だった。
密閉された部屋の木のベンチに布を敷き、そこに座っている。
「フハッ、裸の付き合いはいいゾォ!」
ウルカヌスが笑った。
ウルカヌス曰く ”サウナ” とは蒸気の風呂だそうだ。
密閉した室内の温度を蒸気で調整して身体を温め、汗をかく。
その後、水で汗や汚れを落とし、冷気で身体を冷やす。
”温冷交代浴”という入り方らしい。
火の神殿の祭壇の奥には部屋があった。
そこは"サウナ部屋"だった。
部屋に蒸気を発生させているのはウルカヌス。
俺たちは"筋肉ダルマ"の発した蒸気を半裸で浴びている。
……これ、本当になんなん?
熱さで辛いんだけど。
「さあさあ、進捗を!」
姫様が欲しがる。
この人、慣れるのはえぇな……。
その柔軟さ、王の器なり。
「俺は4日間で火の魔力に慣れた。どこでも火を発生させることが出来る」
ハルジオンはそう言って両手から火を出した。
「おいぃっっ!部屋の温度上げんなっっ!」
俺はたまらず叫ぶ。
ハルジオンは「たしかに」と火を消した。
コイツ馬鹿かよ。
「でもこれで、すぐに焚き火が出来る。旅に役立つぞ」
ハルジオンが両手を握る。
「オマエ、旅したことあんの?」
俺はきいた。
「……いや。ない」
ハルジオンは恥ずかしそうに言った。
クスッと姫様が笑う。
「とにかく順調ってわけね。カジバは?」
姫様が俺を見る。
「ん……そうっすねぇ……」
俺は考える素振りをした。
あ゙〜〜〜あちぃいいいい〜〜〜!!!!!!
それどころじゃねぇ〜〜〜。
「聖宝器の構造は大体わかったっすねぇ。これからガンガン作っていきますよぉ……」
俺はそう言うと進捗の説明にうつった。
1日目はとにかく聖宝器を観察した。
どうやら剣の柄にある引き金を引くと、赤い剣身に魔力が集まり、爆炎が生じる仕組みらしい。
初めて引き金を引いた時、その火力に死ぬかと思った。
英雄が使ったら、もっとヤバいはずだ。
2日目は鍛冶ギルドの4人を呼んで一緒に考えた。
「1人じゃ、やってられねぇ〜〜〜」と初日で分かったからだ。
ウルカヌスは止めなかった。
4人は少し驚いていた。前の”聖剣の作り手”は仲間に頼らず作ったからだ。
だから、そもそも手伝って良い事を知らなかったらしい。
4人は図面を作ったり、鍛冶工程を予想して俺に教えてくれた。
3日目は火の魔力を武器に込める練習をした。
モーフィングでミスリルを剣に変える時、同時に火の魔力を練り込んでいく。
今日が4日目。
午前中はミスリルを聖宝器の形にモーフィングする練習をしていた。
形状は再現出来たが、魔力がまだ伴ってない。
そして今に至る。
昼過ぎに皆でサウナに入っている。
「なるほどね……」
姫様は頷き、頬の汗を拭った。
俺の報告、ちゃんと聞けてた?
「さて、一度出るゾォ!!!」
右隣のウルカヌスが立ち上がった。
彼は裏口を開けて外に出る。
なるほどぉ……神殿の近くにあった小川に出るのか。
ウルカヌスが小川に向かう。
俺たちもそれに続いた。
「さあ!川の水にゆっくり入れぇ!」
ウルカヌスはそう言うと小川に浸かった。
寒そぉ〜〜〜〜〜〜!
「し、死ぬって……」
身体に巻いた布を握り、ミスリルが震える。
「これが ”温冷交代浴” ね……いくわよ!」
姫様が先陣をきった。
「くうぅ〜〜〜」
姫様が川に浸かる。
「……よし行くか」
ハルジオンが動いた。
「俺も行くぜぇ?」
俺とハルジオンが同時に川に入る。
「つめてぇえええ!」
「おぉ……くぅ……」
「ど、どう?死なない?」
ミスリルが恐る恐るきく。
「生きてる、生きてる。オマエもこいよぉ!」
俺はミスリルを手招いた。
そもそもコイツ、冷たさとか感じるのか?
汗は全然かいてないけど……。
「ううううぅううえぇぇえ〜〜〜」
川に入ったミスリルがうめいた。
どうやら冷たさが分かるらしい。
鉱石少女とはいえ、食事もするし寝るようにもなった。
触覚も成長してるんだなぁっっ!
「よし出ろぉ!子供ォ!」
ウルカヌスが立ち上がる。
彼は川辺のベンチに向かうと、俺たちにローブを配った。
なんか準備いいなぁ……。
俺たちはローブをまとい、ベンチに腰掛ける。
自身の体温が戻ろうとするのを感じた。
遠くで鳥が鳴いている。
……ああ。
なんか。
いいぞ。
「気持ちいい……」
俺は呟いた。
あぶねぇ。
一瞬、意識が飛んでた。
ウルカヌスめぇ、俺になんてもん教えやがったっっ!!!!!!
「ここが神の国ね……」
隣の姫様が目を瞑ったまま言った。
幸せそうですねぇ。
「ふにゃぁ……」
ミスリルの硬度も下がっていた。
「生きてんなぁ〜〜俺ら」
俺はミスリルを見た。
「うん、生きてる」
ミスリルがふにゃふにゃの笑顔を見せた。
「ととのうぅぅ〜〜〜!!!サウナは勇者ハルマに教わったのだ。奴とも一緒に入ったゾォ」
ウルカヌスが言う。
「勇者ハルマと仲良かったの?」
俺は尋ねる。
「奴は誰とでも仲が良かったゾォ。問題児の俺様をこの神殿の守護霊にしてくれたのだ」
ウルカヌスが腕を組んだ。
「ハルジオンって勇者ハルマに似てる?」
俺の質問にハルジオンは口を出してこなかった。
「ウム。髪色は違うな。奴は誰よりも深い黒髪だった。似ているのは……目元が似ているゾォ」
ウルカヌスがハルジオンを見る。
「そうですか」
ハルジオンはそれだけ言った。
それからしばらくは、皆無言だった。
ウルカヌスすら無言だった。
奴を黙らせるサウナ……見事だぜ。
その後は再びサウナ室に戻り、小川に入る。これをあと2セット繰り返した。
「サウナ・水風呂・外気浴。これを3セット。これがサウナの極意だゾォ!」
ウルカヌスはそう言った。
―――――
それから3日後――
神殿に来て1週間が経った日。俺は火の聖宝器の再現に成功した。
「完成した」という感触があった。
ミスリルで出来た剣身が赤く染まっている。
火の魔力がしっかり入っている。
ただ、一つだけ謎が残った。
火の聖宝器”イグニッション”には柄の部分に何か細工があった。
これは2日目にフーゴが気づいたものだ。
だけど、真相は最後まで分からなかった。
「なんだったんだぁ……」
俺は呟く。
「再現した聖宝器の魔力はオリジナルに達しておる。成功だゾォ」
ウルカヌスが俺の肩を叩く。
「よし、まずは一つだな」
ハルジオンが頷いた。
彼は1日前にウルカヌスから試練の合格を言い渡されていた。
ったく、要領がいいぜぇ。
「カジバよ、ハルジオンに再現した聖宝器を渡すのだ。武器の火力を確かめる」
ウルカヌスが言った。
俺はそれに従う。
ハルジオンは聖宝器を持つと目を瞑った。
「……力を感じる」
ハルジオンは聖宝器の引き金を引き、力強く剣を掲げた。
すると巨大な炎の柱が発生し、神殿の天井を突き抜けた。炎の柱はそのまま雲を突き抜けていく。
「マジかぁ……」
俺は呆気にとられた。
これが聖宝器……これが勇者……。
辺りに火の粉が舞う。
天井には巨大な穴が空き、室内に日の光が注いた。
天井って、石でできてた気がするけどぉ……。
ハルジオンもその威力に目を丸くしている。
この神殿に穴開けまくってるなぁ、俺たち……。
「合格だぁ!!!!!!!」
ウルカヌスが叫んだ。
「なんとか出来たのか……」
俺は呟く。
「待ってくれ。オリジナルの方も触っておきたい」
ハルジオンがミスリルで作った聖宝器を俺に返した。
「結局、俺は本物を触ってなかったからな」
ハルジオンは祭壇に立つと、勇者ハルマが作ったオリジナルの火の聖宝器を引き抜いた。
その時、火の聖宝器が突然輝いた。
赤い剣身に文字が浮かびあがる。
「これは……大陸語だ」
ハルジオンが驚く。
「なんて言ってる?」
俺は思わず尋ねた。
こんな仕掛けがあったのかぁ……。
『温冷交代の果てに全ての謎が解ける。イグニッションは更なる火力への道を照らすだろう』
すげぇ、なんかワクワクしてきたぁっっ!!!
「俺が持った時は何も起きなかった……。ギルドの皆は直接触れなかったし……」
俺は首を傾げる。
「ハルジオンが勇者の末裔だからか?」
その言葉を聞くとハルジオンは一瞬嬉しそうな顔をした。
ほんの一瞬だった。
「それよりも、どういう意味だ?更なる火力?」
ハルジオンが首を傾げる。
「俺様もこんな細工は知らんゾォ!」
ウルカヌスが言った。
「温冷交代の果てに……謎が解ける」
俺はさっきの言葉を復唱する。
謎……。
謎か。
確かに謎はあった。
柄の細工だ。
アレだけまだ解決してない。
「温冷交代は”サウナ”の事だろ」
ハルジオンが言った。
サウナ?
サウナが謎を解く鍵になるのかぁ?
何考えてんだぁ、勇者ハルマァ……。
俺はそこであることを思い付いた。
「ちょっと試すかぁ……?」
俺はハルジオンからオリジナルの聖宝器を受け取ると小川に向かった。
ミスリルは一旦お留守番。
ごめんなぁっっ!
俺は小川の前で聖宝器の引き金を引き、点火する。
ボンッと爆炎が起こった。
……やっぱ、素人が使うだけでも威力があるなぁ。
俺は引き金から手を離し、炎を消す。
その後、俺は聖宝器を川の水に浸した。
ジュワッと音がする。
鍛冶工程の『焼き入れ』みたいだな。
その様子を見たハルジオンは納得したように頷いた。
「……なるほどな」
俺は川から聖宝器を出す。
「これでどうだぁ?」
聖宝器に変化はない。
「あれぇ?」
俺は頭を掻く。
「ウルカヌス、サウナの極意は?」
ハルジオンがウルカヌスにきいた。
「ウム。サウナ・水風呂・外気浴。これを3セットだゾォ!」
ウルカヌスが腕を組む。
「鍛冶師、分かったな?3セットだ」
ハルジオンが俺に言った。
なるほどぉ!
俺は再び聖宝器を点火する。
そして火を消し、小川へGo!!!
川から出し、再び点火。
そして火を消し、小川へGo!!!
3セットを終えて、聖宝器を川から出した瞬間、柄の先がガシャンと伸びた。
「うぉおおお、伸びたぁ!」
俺は声をあげる。
「何が入ってる?」
ハルジオンが走って寄ってきた。
紙だ。
古い用紙が巻かれて柄の中に入っていた。
俺はそれを広げる。
「これは……」
俺たちは顔を見合わせた。
そこにあったのは手書きの設計図だ。
あまり正確ではない。未完成に見える。
おそらくは武器。だけど、見たことがない武器だ。
「うえぇ!文字だ……読めねぇや」
俺が呟く。
「大陸語じゃない……」
ハルジオンが目を丸くする。
「おそらく、勇者ハルマの故郷の文字だ……」
「故郷ぉ?」
俺は首を傾げる。
「ああ、お前には伝えておくか……」
ハルジオンが真剣な顔になった。
「俺の先祖、勇者ハルマは
俺たちが見つけた設計図には、異世界の文字でこう書かれていた。
エクストラウェポン『銃』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本作に登場する武器と種族をかんたん解説!
■
現代の射撃武器。火薬や様々な気体の圧力を使い、小型の弾丸を高速発射するよ。
またみてね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます