13 「火の試練 後編」

「これは受け切れるかぁ?」


ウルカヌスがハルジオンに向かって口を膨らませた。

火球を飛ばす気だ!!!


ハルジオンは警戒して距離をとった。


俺はミスリルを手盾に変え、ハルジオンの元へ走った。


「おらぁっっ!」

俺はハルジオンの正面に立つと、石の床に両手をつく。


錬成モーフィング!!!」


壁だ!

壁を作る。


俺の両手から火花が散った。

石の床が形を変え、正面に岩壁ができる。



「ブゥーーーーーーン!!!!!!」

ウルカヌスが勢いよく火球を飛ばした。さっきよりもデカい。


火球が岩壁に衝突する。


岩壁に遮られた炎が左右に広がった。

辺りの空気が一気に熱される。


「壁作れるのか。だったら初めに言え!」

俺の背後からハルジオンが言った。


「一か八かでやったんだよっっ!」

俺は後ろを振り返る。


どうせ、言っても聞かねぇくせに……。


「そんな命知らずな……」

ハルジオンが呆れた。


「やれそうな時はやれるんだぜ?」


俺は手盾〈ミスリル〉のモーフィングを解いた。

盾は鉱石の姿に戻ると、その後人型に擬態した。


「プハァー」

ミスリルが水中から出たように呼吸する。


「……武器になるって苦しいのか?」

俺は少し心配になる。


「えっ、全然?」

ミスリルはケロッとしていた。


……紛らわしいことすんなやっっ!!!



「で、どうするよ?アイツ”腕伸びマン”だから遠くから普通に殴ってくんぞ。何か作戦がねぇと……。俺らで協力するんだ」

俺はハルジオンに提案する。

その後、岩壁の横から顔を出してウルカヌスの様子を見た。


ウルカヌスはニヤニヤしながらスクワットをしていた。

キメェ……。

俺らが動くのを待ってるな。


「協力……そうだな」

ハルジオンは岩壁にもたれかかり、上を向いた。


「……俺は身軽で動きが早い。アイツにはまだ当てれていないが、俺はもっと早く動ける」

ハルジオンが呟く。


なるほど。お互いの出来ることを共有するってことか。


「それがお前の”武器”ってわけねぇ。俺の武器はモーフィングだ。素材があれば武器を数十個作れるぜ」

俺は両手を握った。


「素材はなんでもいいのか?」

ハルジオンがきく。


「ここには石しかねぇもんなぁ。……できれば鉄がいいんだけど」

俺はボヤく。


「……鉄か」

ハルジオンは遠くを見て熟考した。


いいぞぉ。

頭イイ奴には、頭使ってもらわねぇとなっっ!!!



「あっ、あのっ。私も……」


その時、ミスリルが小さく手を挙げた。



―――――



「作戦は出来たかぁ?子供ォ!」

ウルカヌスが言う。


俺は壁から顔を出して様子を確認した。

奴は今、腕立て伏せをしている。


途中「フンッ!フンッ!」と壁越しに聞こえてたから、想像はついたけどな……。



「ああ出来た。再開だ」

ハルジオンが岩壁の裏から出る。


「じゃあやろう。熱いうちになぁ!!!」

ウルカヌスが拳を握った。


「鍛冶師!」

ハルジオンが合図を出す。


「おうっ!」

俺は立ち上がると、そのまま神殿の扉に向かって走った。


ウルカヌスに背を向けて、全力逆走だぁっっ!!!


「フハッ、愚かぁっっ!!!」

ウルカヌスが俺に向けて右腕を伸ばす。


ハルジオンが腕に追いつき、右拳を受け止めた。


「腕はもう一本あるんだなぁ!」

ウルカヌスが左腕を伸ばす。


俺を狙う左拳。その軌道にミスリルが立った。


「うっ、うわぁっっーーー!」

ミスリルが拳を受け止め……られず、吹っ飛んだ。


だけど時間は稼げたぜ!


俺は神殿の扉にたどり着く。

巨大な”鉄”の扉だ!


「見とけよぉ!俺の戦い方はコレだぁっっ!」

俺は両手で力強く扉に触れた。


扉が熱でオレンジに光る。

火花が散り、扉に穴が空いていく。


俺は鉄の扉を複数の短剣へ変えた。


ガラン、ガラン、ガラン

ガラン、ガラン、ガラン

ガラン、ガラン、ガラン


出来上がった短剣が地面に転がる。


「フハッ!ハハァ!!!」

ウルカヌスがそれを見て笑った。


扉に空いた大きな穴から、日の光が一気に差し込む。


外にいたノーラと修道士は大穴を見て驚いていた。


「ノーラ!ちょっと離れてた方がいいぜぇ!!!」

俺は外の2人に笑いかける。



「鍛冶師!やれっ!!」

ハルジオンが指図した。


「ミスリル!この剣を”筋肉ダルマ”に投げつけろぉ!!!」

俺は吹き飛んだミスリルに声をかける。


「ひゃっ、ひゃい!!!」

ミスリルは意識を取り戻すと、こちらに走った。


俺とミスリルは大量の短剣を抱えて岩壁まで走る。


ウルカヌスは不思議そうに見ていたが、ハルジオンの斬撃がきて、対応に追われた。


俺とミスリルは岩壁の上から顔を出し、鉄の短剣をウルカヌスに投げつける。


「おりゃぁああ!!!」

「うわぁあああ!!!」


「……それは作戦なのか?」

ウルカヌスが動揺している。


壁に隠れながら物を投げつける。

ドワーフの里でやった雪合戦を思い出すぜ!!!

ドワーフの1人が雪玉の中に鉄鉱石を混ぜて乱闘になったっけ……。


隣のミスリルも、一生懸命投げつけている。


ウルカヌスは右手でハルジオンの斬撃をいなしながら、左手で飛んでくる短剣を弾いた。


短剣がウルカヌスの周りに散乱する。


「おりゃぁっっ!!!」

俺は隣にある最後の剣を投げつけた。


ウルカヌスはそれを軽く弾く。

全く効かない。

最後の剣はウルカヌスの背後に転がった。

カランと虚しい音が鳴る。


「そんなオモチャ、俺様には当たらんゾォ!!!」


「当てるさ、俺がな!!!」

ハルジオンが構える。

「これは武器の多い戦場を想定した技だが……」


ハルジオンが一気に飛び出した。

彼は散乱した短剣を取り、ウルカヌスの周囲を飛び回る。


「ム、これは……」

ウルカヌスが防御の構えをとる。


ハルジオンがあらゆる方向から斬り込んだ。

ウルカヌスは両腕を鞭のように動かし、その斬撃をいなす。


しかしハルジオンは止まらない。

弾かれたら新しい剣をとり、また斬り込む。

これを繰り返す。


俺の作った複数の武器とハルジオンの素早さを活かす戦術だ。


ウルカヌスの周囲をいくつもの短剣が飛び交う。

まるで複数の兵を相手にしているようだぜ!


剣舞ソードアーツ閃光連斬スパークルカット!!!」

ハルジオンが最後の一撃を放つ。


「いいねぇ!!!気に入ったゾォ、子供ォ!!!」

ウルカヌスが吠えた。


奴は最後の一撃をかわし、ハルジオンの短剣を弾いた。


えぇ!!!

これでも当たらないのか……。


「楽しかったゾォ……子供ォ」

ウルカヌスがハルジオンを捕らえ、岩壁に叩きつけた。

「いやぁ……惜しかったゾォ」

ウルカヌスが呟く。



「いいや……俺たちの勝ちだぜぇ」

俺はウルカヌスに向かって言う。


ウルカヌスが俺を見る。

そして奴はあることに気づいた。


「……銀の石はどこだ?」

ウルカヌスは辺りを見回すと、祭壇で目を止めた。


祭壇にある”火の聖宝器”の横にミスリルが立っている。


「ハァ、ハァ。……や、やりぃ〜〜」

ミスリルが遠慮がちに言った。



ウルカヌスは目を丸くしている。

「石ィ……いつの間に」


「投げつけた短剣の中にミスリルの剣を混ぜたのさ。雪玉の一つが鉄鉱石入りみたいなもんだぜ!」

俺は得意げに言う。


「ミスリルの剣?魔鉱石の剣なら魔力で見分けがつくゾ」

ウルカヌスが顎に手を当てた。


「いいや、見分けはつかねぇんだ。俺がモーフィングしてないからな。投げた短剣はミスリルが自分で擬態したものだ」


「擬態ィ!?」



―――――



作戦会議の時、ミスリルが声を上げた――


「わっ私の”武器”は、擬態……です。最近練習してて……何か役に立つかも」

彼女がそう言った。


オリハルコンに頼んで人間以外の擬態を密かに練習していたらしい。



―――――



「ミスリルの擬態は自身の魔力を隠す。だからアンタは見分けがつかなかった」

俺は言う。


「フハッ。見事ダァ。俺様はその娘を戦力として見なかった。『何者にも役割がある。それに目を向けることが大切』それが教訓かぁ!!!」

ウルカヌスが勝手に納得した。


「なるほど……。それを伝えるために馬鹿な戦いをしたんですね……」

ハルジオンがゆっくりと立ち上がる。

コイツも勝手に納得している。


「……その通りだゾォ!!!」

ウルカヌスはフハハと笑った。


ぜってぇ思ってねぇ……。



ハルジオンがミスリルを見る。

「まあ……どうせ俺が一撃入れていたが。……よくやった」

彼が言った。


相変わらず偉そうだな、コイツ。


ミスリルは少し驚くと、俺の方を見てウズウズとした。


うれしそうだ。


「よかったなぁ!!!」

俺は両手をあげ、ミスリルに笑いかけた。



「さて。温まったところで早速お前達に火の魔力を与える」

ウルカヌスが大きく両腕を広げた。


「ええと……何か試練は?」

俺はきく。


「試練というより訓練だが……それは魔力を与えた後にやるゾォ」

ウルカヌスが答えた。

「だからまず、お前達に火の魔力を授ける。よぉく身体に馴染ませろぉ」


「お願いします」

ハルジオンが言った。


「子供ォ、2人とも頭出せ」

ウルカヌスが言った。


俺とハルジオンは大人しく頭を差し出す。

ウルカヌスは俺たちの頭を両手で豪快に掴むと、その手に力を込めた。


うぉっ!

魔力が自分の身体に流れ込んでくるのがわかる。

体温が上がる。

血が沸き立つようだ。


突然、自分の足元が燃え始めた。


「おわぁっっ!!!」

俺は声をあげる。

「動くな」

ウルカヌスが俺の頭を押さえた。


火は足元から一気に這い上がり、俺の全身を包んだ。


人間松明じゃあ〜〜〜!!!


隣のハルジオンも燃えている。


「ちょっ、ちょっと、焼けてるぅ!」

ミスリルがワタワタと俺の周りをうろついた。



しばらくすると火が落ち着き、やがて鎮火した。


「よし、いいゾォ!!!」

ウルカヌスが俺とハルジオンの頭を勢いよく叩く。


それ必要だった?


「お前達は火と同化した。数日は多少体温が高いが、すぐに馴染む」

ウルカヌスが腕を組んだ。


「これで火の魔力を手に入れたのか」

ハルジオンは少々疑い気味だ。


「そうだ。そしてこれから正しく火を扱う訓練……試練をする。まずカジバ、それにミスリル。こっちに来い」

ウルカヌスが手招きをした。


ちゃんと名前覚えてたんだ……。



俺とミスリルはウルカヌスと共に祭壇に上がった。

ウルカヌスは台座に刺さった真っ赤な剣身の片手剣を抜く。


「これが火の聖宝器 ”イグニッション”。4英雄の1人『底無しのブリュンヒルデ』の剣だ。魔力のない者でも一瞬で爆炎を起こせる。真の使い手であるブリュンヒルデはこれで敵軍を焼き尽くしたゾォ」

ウルカヌスが説明する。


細めの片手剣だ。

持ち手には何やら引き金がある。


……これが勇者ハルマの鍛治技術。

触らなくても分かる。洗練された良い武器だ。


「お前に与える試練は『この聖宝器イグニッションを再現すること』だ。素材は魔鉱石ミスリル。俺が与えた火の魔力を存分に詰め込んで作ってみろ!!!」

ウルカヌスが俺とミスリルの肩を強く叩いた。


「なるほどぉ……分かりやすいっすね!!!」

「わっ私が素材ね……」


「鍛冶技術について俺は知らん。見て学べ。気づけ。穴が開くほど見ろ!構造を理解し、模倣しろ!」


「おっしゃぁっっ!!」



ウルカヌスは次にハルジオンの元へ行った。


「ハルジオン、オマエは俺様が直々に稽古をつける。火の扱い方、体の芯まで教えようゾォ!!!」


「ああ!」

ハルジオンは拳を握った。



―――――



それから4日が経った――


俺は今、"サウナ" というものに入っている。



なんだこの状況……。



衣類は腰に巻いた布のみ。


俺の右隣にはウルカヌス。むさ苦しい。


目の前には大量の汗をかくハルジオン。

こいつも上裸に腰布。やたら肌が白いなコイツ……。


左隣にはミスリル。

胸上まで布を巻いている。エッチ!!!


そしてハルジオンの隣には……。


「なんで姫様もいるんだよ!!」

俺は思わず叫ぶ。


「お風呂って聞いて、思わず来ちゃった☆」

半裸の姫様が小さく舌を出した。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



本作に登場する武器と種族をかんたん解説!


番外編!


■イグニッション

点火や点火装置などを意味する言葉。


またみてね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る