11「五大属性」

暗殺者アサシンは3人。


酒場で拘束した男と、ノーラが外で捉えた2人だ。


暗殺者は光の騎士に引き渡した。


その後、俺とノーラは3人が各々持っていた指輪を酒場で眺めた。


「ここを見て」

ノーラが指輪の宝石を示した。


黒光りした宝石だ。


「アレキサンドライト……これって”職人殺し”の?」


サイレンスが作ったものだろうね。闇の魔力を感じる。指輪をはめた者はサイレンスと同じ”認識阻害の能力”が使えるんだ」


「俺には暗殺者が普通に見えてた。ってことはぁ……」


「私に対して能力を使ったんだろうね。私には姿が見えなかった」


「じゃあノーラはどうやって分かったのさ?」


「姿が消せても、息遣いが消せていなかったんだ。指輪の作りが甘かったね」

ノーラがフッと笑った。


さっきまで酔ってたのに凄いな。


「アイツらは職人殺しの仲間なのか?」


「仲間とは違うかな。宝石の魅了効果に惑わされたんだ。サイレンスはそうやって手先を作ることがある。私は”沈黙の使者”と呼んでいる」


「ヤベェじゃん……。俺ぇ、命狙われてる?」


「敵は聖剣誕生を阻止したいんだ。今回は強行策に出たね。安心して、今度こそ私が守るから」

ノーラが真っ直ぐこちらを見つめた。


頼もしいぜ……。

酔ってた時、「カッコ悪りぃ」って思ってごめんなっ!


「指輪の能力って、俺も使える?」

俺は指輪を手に取った。


「対魔力があれば……。いや、オススメしないな。指輪は私が少し調べた後に斧槍ハルバードで破壊しておく」


ノーラはそう言うと小さな布を取り出して片手に広げた。

「ここに指輪を置いて?」


俺は布の上に3つの指輪をのせる。

ノーラはそれを慎重に布で包み、カバンの中にしまった。


俺は対魔力が強いので、直に触っても平気だとノーラは教えてくれた。

ノーラは対魔力を持っていないので直に触れたくないらしい。


「ごめんね。食事が台無しになって」

ノーラが言う。


「いやいや、文句はアイツらに言いますよぉ」



―――――



沈黙の使者の襲撃から1週間が経った。


俺が王国に来てから、もう2週間になる。


暗殺者が出たことで、バルタサール王が対策に動いた。

光の騎士団の巡回が多くなり、城門では装身具のチェックが導入された。


俺には護衛がついた。

ノーラだ。


やったぜぇっ!!!!



モーフィングの訓練も進んでいる。

魔鉱石のモーフィングだ。


最近は、モーフィングを駆使してミスリルを色々な武器にした。


「最強の武器を作るなら、あらゆる武器を知り尽くさないとなぁ!!」

とアードルフが言ったからだ。


長剣ロングソード

短剣ショートソード

大剣グレートソード

シールド

アーマー

スピア

弓矢ボウ

アックス

戦鎚ウォーハンマー

戦棍メイス……などなど。


ノーラの斧槍ハルバードも再現させてもらった。


ミスリルは気弱で武器にされるのを怖がっていたが、それでも訓練から逃げることはなかった。


「ハルジオンを見返す」という目標のためだ。

彼女は彼女なりに頑張っている。



訓練によって俺は、1日に10回魔鉱石をモーフィングできるようになった。

普通の鉄なら30回はいけるぜ。



―――――



俺が王国に来てから、3週間目に突入した日。


俺とミスリル、ハルジオンは姫様に呼び出された。


大広間の玉座にはフレイヤ姫が座っている。

その隣にはオリハルコン。


バルタサール王の姿はない。


どうやら、ハルジオンが絡む話は王様ではなく姫様が担当しているようだ。

内密に遂行したいのだろう。

臣下も誰一人大広間に入れていない。



俺たちが玉座の前に揃うとオリハルコンが前に出た。


「今日からカジバ様、ハルジオン様、ミスリルの3名には次のステップに進んでもらいます」

彼女が言った。


ミスリルには様付けしてやんないのな……。


「カジバ様は魔鉱石のモーフィングを習得。ハルジオン様は魔力放出のコントロールを習得。非常にペースが早いです。ウケます」

オリハルコンが真顔で言う。


ウケ……?

もう俺、ツッコミませーん。


「ですので、2人には次のステップ『五大属性の魔力を習得』に移ってもらいます」


「来たな……」

隣のハルジオンが呟く。


オリハルコンはコホンと咳をすると説明に移った。


「自然界における基本要素には5つの属性があります。

『火』『水』『気』『土』『虚』

この5つです。


『火』万物を生み出し、終わらせる力

『水』万物を充し、存続させる力

『気』万物を届け、包む力。

『土』万物の素にして、還る場所。

そして、それらの狭間『ヴォイド


勇者ハルマは”聖剣エクスカリバー”を作る前に、この五大属性の魔力を習得しました。


そして、各属性の魔力を最大限に込めた魔鉱石武器”聖宝器せいほうき”を5つ作りました」



そんな属性があったのかぁ……。

ドワーフが『土』を司る種族だということは以前聞いたことがあった。


そういえばノーラは風を扱う魔術を使っていたな……。

あれは『気』かなぁ。



「勇者ハルマとその仲間である”4英雄”は各聖宝器を持ち、岩石王の軍隊と戦ったのです」

オリハルコンが言う。


「4英雄ぅ?……ノーラとか?」

俺は尋ねる。


オリハルコンは「そうです」と頷いた。


「『黒の流星』エレオノーラ。そしてこの国の初代国王、『削岩王』ゴルドシュミット。この2人は4英雄に数えられます。現在、生きておられるのはエレオノーラ様だけですが」

姫様が補足した。



「さて、ここが重要です。5つの聖宝器を経て作られた”聖剣エクスカリバー”には五大属性の魔力が全て込められました。だからこそカジバ様には五大属性を習得してもらわなければなりません」


「へぇ、なるほどなぁ……」

俺は頷く。


「そして”聖剣の使い手”となるハルジオン様にも習得していただきます。五大属性を扱えないと聖剣の魔力を正しく放出することができませんから」

オリハルコンは俺とハルジオンを交互に見た。


「ああ」

ハルジオンが強く頷く。


「勇者ハルマは鍛冶師でした。”作り手”でありながら”使い手”だったのです。カジバ様とハルジオン様は、2人で協力して勇者ハルマに到達しなければなりません。どちらかが出来なければ、終わりです」


その言葉に、思わず俺は唾を呑む。


責任重大っ〜〜〜〜!!!!!!


カジバ+ハルジオン=勇者ハルマ


俺はハルジオンと運命共同体って感じだなぁ……。


もうちょい、仲良くしとくんだったぜ。



「勇者ハルマは鍛冶師だった……ハルジオンは鍛冶師を目指さなかったの?」

俺はハルジオンに尋ねた。

不意に思いついたのだ。


「……」

ハルジオンは少し痙攣する。

彼からの言葉はなかった。


「鍛冶に関わると”職人殺し”に目をつけられてしまいます。長く匿(かくま)われていたハルジオンは、そもそも鍛冶を学ぶことが困難だったのですよ」

少しの沈黙の後、姫様が言った。


「そ、そっかっ……」

俺は小さく頷く。

深追いはやめた。


「で、これからどうすればいい?」

ハルジオンが言った。


オリハルコンは頷くと口を開いた。


「あなた方には4つの聖宝器が祀られている神殿を巡り、そこにいる守護霊の試練を受けてもらいます。


神殿の場所は……。


ここ、バルドール王国。

もう一つの大国、ミズガル王国。

妖精王の統べる、エルフの森。

そして、ドワーフの里


以上です」


オリハルコンは指を折って説明する。


ドワーフの里?

俺の第二の故郷にも神殿があったのか!!



「4つの聖宝器?……5つ目は?」

ハルジオンがオリハルコンに尋ねた。


「5つ目の属性『ヴォイド』については4つの属性を習得したときにお教えします」

オリハルコンが答えた。



「……えっと。その……わっ私は?待てばいい?」


ミスリルがようやく口を開いた。


そうだった。

コイツも呼ばれてたんだった。


「アナタも一緒に行くんですよ。ランク5になるために必要なことですから」

オリハルコンが微笑んだ。


「はぁ……はぁ」

ミスリルは小刻みに頷く。


彼女から、そこはかとない焦燥感が湧き出ていた。


コイツ、また絶望してる……。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


本作に登場する武器と種族をかんたん解説!


短剣ショートソード

中世ヨーロッパの剣。長剣と比べて刀身が短いよ。

片手剣であることが多いよ。


またみてね!

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