9 「ドワーフへの手紙」
『……ということで、俺はしばらくバルドール王国で聖剣作りをします』
よし。
伝えるのはこのくらいでいいかぁ!
俺は共同部屋の椅子に座り、ドワーフの皆に向けた報告を口に出して確認する。
この内容で手紙を書いて……。
って。
俺、読み書き出来ねぇじゃん〜〜〜〜〜〜!!!!!!
俺は紙とペンを放り投げ、椅子から大袈裟に落ちた。
―――――
鍛冶ギルドの仲間と共に、モーフィングの訓練を始めてから1週間が経った。
彼らとはだいぶ打ち解けられた。
ニコラウスは26歳。
両親が鍛冶師で10歳の時にこの街に来たそうだ。だけど、この街に向かう道中で妹を”職人殺し”に殺された。
両親は今もここで鍛冶師をしているらしい。
彼は人柄とモーフィングの優秀さが認められて20歳でギルド長になったそうだ。
フーゴは23歳。村育ち。
バルドールの領土で一番闇の土地に近い村だったそうだ。
父親は鍛冶師で、フーゴが7歳の時に”職人殺し”に殺されたらしい。
自身も”職人殺し”に遭遇したが、なんとか逃げ延びたそうだ。放浪していたところを旅人に拾ってもらい、この町に辿り着いた。
アードルフは60歳。彼はいつも皆の空気を明るくしてくれる。
〈空気がピリピリする時は、大体フーゴと俺のケンカ〉
彼は元々鍛冶が盛んな村にいたらしい。だけど”職人殺し”に鍛冶仲間が虐殺されたそうだ。
その時ちょうど村を離れていた彼は、惨状を見た後すぐに妻子を連れてこの街に逃げてきたらしい。
オーラは28歳。
彼女は打ち解けるとかなり優しかった。
しかし、時々とても怒っているような表情を見せる。
彼女の父も鍛冶師だったそうだ。
しかも、俺の前の”聖剣の作り手”だったらしい!
現在の勇者の持つ”魔剣レーヴァテイン”を作った凄い武器職人だったそうだ。
「お父さん、すごく頑張ってた。五大属性の完全習得も目前で……」
ある日の修行終わりにオーラが俺に話してくれた。
「だけど突然失踪した。錬成した魔剣を残して……。なんで何も言ってくれなかったんだろう」
彼女に始めてあった時、気が強そうだと思った。
しかし気が強そうではなく、気を張っていたのだと分かった。
皆、大切な人を失った。
俺も自分の身の上を話し、鍛冶ギルドに確かな絆が生まれた。
モーフィングはかなり上達した。
廃材から戦鎚を量産することができるようになった。ゴブリンや魔獣には有効だ。頭蓋骨をブチ割れる。
ただ、魔鉱石で作られていないとサイレンスや石像には太刀打ちできない。
ここから先は魔鉱石のモーフィングを詰めていく。
一方、ハルジオンも修行をしている。
現在は”魔力放出”の修行だそうだ。
魔鉱石の魔力を引き出したり、自身の魔力を武器に上乗せすることらしい。
これを極めると、聖剣を一振りするだけで何万もの石像軍隊を一掃できるそうだ。
俺が毎日クタクタになって帰ると、その数時間後にハルジオンがシワシワになって帰ってくる。
―――――
今日は休日だ。訓練はない。
なので俺はドワーフたちに手紙を出すことにした。
先日会ったケンタウレの少女、トネリコに届けてもらおうと思う。
だけど俺は読み書きができない。
代わりに書いてもらう人を探さないと……。
「カジバ、何してるの……」
背後にはミスリルがいた。
最近やっと彼女の美顔に慣れてきた。
なんだそりゃ。
ミスリルの絶望回数はここ1週間、減少傾向にある。
このまま落ち着いてくれるといいけどなぁ……。
「手紙を出したいんだ。ドワーフたちにな」
俺は立ち上がり、椅子に座り直す。
「ドワーフタチ?なにそれ?」
ミスリルが首を傾げた。
「髭モジャで気の良い職人たちだよ。俺の家族みたいなもんだな」
「家族?フレちゃんもその言葉言ってた……家族ごっこ」
ミスリルが言う。
……ちなみに『フレちゃん』はフレイヤ姫のこと。
姫様にそう呼べと言われたらしい。
「ああ、家族だ。でも俺は字が書けないんだなぁ」
俺はボヤいた。
「字に困っている……と。私はそれできる?」
「どうかなぁ……。はい、書いてみ」
俺はミスリルに紙とペンを渡す。
結論。
……できませんでした。
「はぁーできないんだっ。なんもできないわ、私」
ミスリルが一気に冷めた。めちゃくちゃ拗ねている。
「出来ねぇ奴の方が多いって!字って難しいんだぜ?」
俺はフォローする。
「本当?」
「ほんとほんと」
「あーでも、どうすっかな。ハルジオンならできるかなぁ」
俺は部屋の外に目をやった。
「アイツは出来るんだ……また見下されるぅ」
ミスリルはガクッと肩を下げた。
―――――
「嫌だ」
第一声がこれ。
ここは王宮の中庭。
ハルジオンはベンチで寝転んでいた。
アイツの指先には何故か小鳥が止まっている。
……というか、ハルジオンの周りには様々な鳥が集まっていた。
「お前、パンクズかよ」
俺は呟く。
「鳥は俺の仲間だ」
ハルジオンがやっとこちらを見た。
「それで……手紙だったな。悪いが俺も休暇中だ。王宮の誰かに頼むんだな」
「ほんとは書けねぇんじゃねぇの?」
俺はわざとらしく眉をひそめる。
「えぇ……書けないの?こんなに偉そうなのに?」
一緒についてきたミスリルも続ける。
……コイツはコイツでなんなんだよ。
「そんな挑発にのるかっ」
ハルジオンは馬鹿にするように笑った。
「しゃーねぇや。姫様にでも頼むかぁ」
俺は足元の石を小さく蹴る。
ちゃんとお願いすれば書いてくれそうだしなっ、姫様。
「頼むな!」
ハルジオンが突然ベンチから飛び起きた。
周りの鳥たちが一斉に飛び立つ。
その音に、若干身体が強張った。
羽ばたきの音にはトラウマがあるんだよなぁ……。職人殺しのせいだ!!
「おっ王宮の誰かって言ったじゃん……」
俺は小さく呟く。
「王宮で仕えている人にだ。雇い主に頼むバカがいるか!!」
「でも、やってくれそうじゃね?」
「そういう問題じゃない……」
ハルジオンは溜息を漏らすと、ゆっくり立ち上がった。
「仕方がない。……貸せ」
「何を?手?」
俺は手を出す。
「違う、紙とペンだ」
―――――
共同部屋の椅子にハルジオンが腰掛ける。
机には紙とペン。あとインク。
「一言ずつ、ゆっくり話せ。俺が書く」
ハルジオンが俺を見た。
「ありがとなぁ!!」
「で?宛先は?どこの誰に出す?」
「ドワーフの里に。皆に書きたいけど……とりあえず、スズーリに届いて欲しいな」
「ドワーフ?」
ハルジオンが聞く。
「両親を殺されたあと、俺を拾ってくれた恩人たちさ。スズーリは里の同居人だよ」
俺がそう言うと、ハルジオンは少し驚いた。
コイツとは1週間暮らしたけど、過去の事とか、お互いちゃんと話してこなかったなぁ……。
「何歳だ?何歳の頃から」
ハルジオンが俺に聞く。
「6歳の時に両親が死んで、7歳の時に拾ってもらった」
俺は淡々と答える。
「……そうか」
ハルジオンは小さく呟くと、ペンを握った。
「手紙。ちゃんと書いてやるよ」
―――――
手紙は無事、トネリコに渡す事ができた。
「わっ、私に依頼ですか!?」
トネリコはやたら嬉しそうだった。
是非私に!!
って言ってたのアンタじゃん。
「配達って、他の仲間と向かうんだよな?」
俺は心配になった。
「そうですよ」とトネリコは微笑む。
彼女は極度の”方向音痴”だ。
……なんとか届くと良いなぁ。
俺が心配な目で仲間のケンタウロスを見ると、彼らは「安心しろ、俺たちに任せとけ!」というように腕を組み、深く頷いた。
すげぇ!
言語が伝わらなくても、心は通じ合えるんだなっ!!!!!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本作に登場する武器と種族をかんたん解説!
■レーヴァテイン
北欧神話に登場する神器。〈傷つける魔の杖〉を意味する名だよ。形状は不明で、剣・槍・矢など様々な説があるよ。本作では魔剣として登場。
またみてね!
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