第10話

体力測定が終わったので、後は帰るだけなのだが……俺は、確認したい事があったので、鞄と荷物を持って、教室を出る事にした。

教室を出た後、弓道場に行く事にして、弓道場に辿り着く。ここに、三年生のゲーム「ラブチュチュ」の攻略対象者、高村菫がいる筈なので、弓道場を覗いてみたけど……誰もいなかった。まだ来ていないのか……? と思っていると


「あら、貴方……弓道場に何か用?」


俺に声をかけて来たのが、お目当ての人物、先輩の高村菫だった。

……近くで見ると、本当に美人さんって感じるな……結構モテルんじゃないか? この人。

しかもこの先輩、他の人とは違う特徴がある。

それは髪の色で、この高村菫は、髪の色が銀髪で、凄く輝いて見えるのであった。

一応先輩なので、俺は言葉を選んで、話しかける事にしてみる。


「あ、はい……あの……高村菫先輩ですよね?」


「ええ、そうよ? えっと……貴方は?」


「あ、私は一年の初崎由希乃って言います」


「由希乃ちゃんね? 由希乃ちゃん、何か用かしら?」


「あのですね……私のお兄ちゃんの事なんですけど……」


「お兄ちゃんって……もしかして……孝之君の事?」


「はい、そのお兄ちゃんです、菫先輩、私のお兄ちゃんとどんな関係なんですか?」


さあ、俺のこの答えでどうでる? そう言って見ると


「そうね……由希乃ちゃんは、私が孝之君と付き合っていると思ったのかしら?」


「簡単に言うと、そうですね」


「そう……一言で言うと、それは違うわね? 孝之君は私の仕事をちょっと手伝って貰ったって言うだけよ、孝之君とは付き合ってはいないわ」


「そうなんですか……じゃあ、好きじゃないんですか?」


「そうね……まあいい子だとは思うけど……今の所、私はこの部活に専念したいしね? 付き合っている暇とか全く無いのよ、だから好きとは言えないわね」


と言う事は……高村菫の孝之に対しての好感度は、低いと言う事がこれで解った。じゃあ、もうここに用はないので


「教えてくれてありがとうございます、では、私はこれで」


そう言って立ち去ろうとすると、高村菫が


「待ちなさい、貴方……興味があるんだったら、今からでも弓道部に入らない? 歓迎するわよ?」


そう言って来たが、弓道には全く興味が無かったので


「せっかくの先輩の頼みですが、すいません……お断りさせて頂きます」


「そう……残念ね……じゃあ、気が向いたら尋ねて来ていいわよ?」


「解りました、では、失礼します、菫先輩」


そう言って俺は、弓道場から離れる事にした。

離れた後、スマホを取り出して、ラブチュチュマニアサイトを開き、高村菫、ステータスと検索をかける。

すると、現れた数字は

高村菫

B80 W63 H60

恋愛度10と、表示されたので、恋愛度は低い状態だと言う事が解った。 これで、ラブチュチュの攻略キャラクター全てに声をかけたが……さて、こっからどうするかって感じだよな……?ま、とりあえず……家に戻るとするか……と思う事にして、初崎家へと戻る事にしたのであった。通学路を歩いて、今の自分の家、初崎家に辿り着く。家に入ろうとしたけど、ある事に気がついた。


「……家の中に入れないな……」


そう、玄関の扉を開けようとしたら、鍵がかかっていて入れなかった事に気がつく。そう言えば……今の状態は二人暮らしで、俺が先に家に出てしまったので、家の鍵をかけたのは、必然的に孝之となるので、家の扉が閉まっているのは、当然と言う感じだった。

じゃあ俺、家の鍵持っているのか……と、確認した所。どうやら忘れたらしく、鍵らしき物は何所に無かった。しかも、孝之が何時に帰って来るかも不明な状態。家の外で待ち惚けって感じになってしまう。


「さて、どうしよう……」


そう思っていると


「あら? 由希乃ちゃん、どうしたの?」


俺に話しかけて来たのは、買い物袋をぶら下げた、西村舞の母親の西村志保さんだった。

ここは、詳しく事情を話すか……? と思ったので、志保さんに


「えっとですね……家の鍵を忘れまして、で……お兄ちゃんがいつ帰って来るか解らないから、どうしようかな……と」


俺がそう言うと、志保さんが


「そう、なら私の家に来るといいわ、丁度余ってるお菓子とかあるから、ご馳走するわね? 舞もそのうち帰って来るでしょ? さあ、いらっしゃいな」


「えっと……いいんですか?」


「子供が遠慮する事はないわよ?」


志保さんがそう言ってくれたので、その行為に甘える事にした。西村家は、初崎家の隣なので、隣の家、西村家へとお邪魔する。

西村家の中に入って感じた事は、いい匂いがする事だった。これ、何の匂いだろ……? と思っていると


「なんか匂いが気になるの? これはね? 花の匂いよ? ちょっとブレンドしたのを部屋に撒いたのよ、どう? いい香りでしょ?」


「あ、はい」


「じゃあ、そうね……舞の部屋に案内するわね?」


「えっと、いいんですか?」


「いいわよ、あの子、貴方に見られて困るような物置いてないでしょ、さ、こっちよ」


志保さんに言われて、俺は黙ってついて行く。


「ここが、舞の部屋ね? じゃあ、部屋の中で待っててね? 私はお茶菓子を取ってくるわね」


そう言って、志保さんが離れて行ったので、俺は部屋の中に入る事にした。部屋の中に入って感じた事は、俺の由希乃の部屋とは違い、質素な感じの部屋だった。部屋の内装も青で統一されていて、綺麗に見える。机の上に写真立てがあったので、誰か写っているのか? と思い、中を見て見ると、そこに写っていたのは、孝之の姿だった。

……何と言う解り易さ。これはあれか? 「好きな人の写真を机の上に飾る」とか言う奴か? まあ、ゲーム「ラブチュチュ」だと、主人公の孝之の幼馴染のポジションだしな……

そんな事を思っていると、お茶菓子を持って来た志保さんが


「お待たせ、ちょっとね? 外国から仕入れたお菓子を持って来たわよ? 味は保障出来ると思うから、食べて見てね」


そう言ったので、出されたお菓子を見てみる。

クッキーみたいな感じなのだが、包装紙が外国の言葉で書かれてあり、全く読めない。志保さんが味は保障出来ると言っていたので、とりあえず食べて見る。味は……何と言うか、バタークッキーみたいな味がして、不味くは無く、結構美味しかった。


「どう? 由希乃ちゃん?」


「はい、美味しいです」


「良かった、それにしても……由希乃ちゃんとは、あんまり話してなかったよね? 何か私に聞きたい事でもあるかな?」


志保さんがそう言うので、俺はこう聞いてみる事にした。


「あの……舞先輩の事なんですけど、舞先輩って、私のお兄ちゃんの事、どう思っているんですかね?」


「そうねえ……舞の事だから、嫌いと言う訳じゃないと思うわよ? いっつも孝之君の話をしてくるしね? ちなみに私は孝之君と舞が付き合う事には、賛成よ? そしたら由希乃ちゃんは、義理の娘になるのかしらね?」


「それはちょっと気が早い気がします……」


成る程……つまり、志保さんは、孝之と舞が付き合う事には、反対はしていないらしい。 となると……これは、西村舞と孝之をくっ付ける方向で動いた方が良いのかも知れないな……?

そんな事を考えていると、「ただいまー」と声が聞こえて、部屋にやって来たのは、この部屋の持ち主の、西村舞だった。


「あれ? 何で私の部屋に由希乃ちゃんがいるの?」


「私が誘ったのよ、由希乃ちゃん、家の鍵を持っていなくて、外にいたからね? だから私が誘ったの」


「そうだったんだ、あ、じゃあ今は大丈夫だと思うわ、私、孝之と一緒に帰って来たしね?」


「あら、そうなの? じゃあ、由希乃ちゃん、家に戻っても大丈夫そうよ?」


「解りました、お菓子美味しかったです、じゃあ私は、家に戻りますね?」


俺はそう言って、この部屋から出ていく。

出て行った後、舞の声で「お母さん、何で私の部屋に由希乃ちゃんを入れたのよ……別の部屋とか空いていたでしょうに……」とか、聞こえて来た。確かに……別の部屋が空いていたのだったら、わざわざ舞の部屋に入れる事は無いと思うけどな……? ま、考えても仕方が無いので、西村家を出て、初崎家へと戻る。

玄関扉は開いていて、中に入る事が出来た。

中に入り、自分の部屋、初崎由希乃の部屋の中に入り、着ている制服の脱ぐ。下着姿になって、どの服を着ようか迷って、動きやすい格好に着替える事にした。

着替え終わった後、どーするか……を考える。

ここが、ゲーム「ラブチュチュ」の世界の中だとすると、俺が元の姿に戻るには、ゲームをクリアするしか無いと思われる。

ゲーム「ラブチュチュ」は、所謂ギャルゲーと呼ばれる、恋愛シュミレーションゲームなので、そのクリア条件は、主人公が女の子に告白されて、選択肢を間違えなければ、ハッピーエンドと言う事になるので、俺の今後の方針だが……この「ラブチュチュ」は、一度全クリアしている俺としては、今後のイベントは、ある程度覚えているのだが……今の俺は、全く知らないキャラ、隠しキャラの初崎由希乃になってしまっているので、今後、どんなイベントが発生するのか? 全く解らなかった。

あと、初崎由希乃シナリオの日数がどれくらいあるのか? も解らないので、とりあえず……今現在、孝之に対しての好感度が一番高いのは、俺と言う事になっているので、もしかしたら……俺、攻略されつつなっているのかも知れない……。これは不味い……好感度が上がっているからか、感情も何か変な感じだし、このまま好感度が100パーセントになってしまったら、孝之の事を大好きな気持ちでいっぱいになってしまい、孝之に何されても全然構わないな……と思うのかも知れなかったので、ぞっとした。

とりあえず……今後の目標は、好感度を下げる方針で動く事にしよう、うん。

そう決めた後、俺は部屋の外に出て、風呂に入る事にした。別に風呂に入らなくても良かったのだが、一応落ち着ける場所として、毎日入る事にするか……と、決めたので、風呂場に行く。風呂場に辿り着き、着ている服を全部脱いで、全裸になり、風呂場の中に入る。

最初にシャワーを浴びてから、体を洗っていき、改めて自分の体の感触を確認。何と言うか……胸、大きい方なのか? でも隣に住んでいる舞の胸は、服の上から見ても大きいのが確認取れた。

……ちょっと触ってみようか……? 誰も見てないし、自分の体だしな?そう思って、少し触って揉んで見る。触った感じ、なんか変な感じ。 揉むと少し気持ちよく感じる……って、これ以上は何か不味い感じがしたので、その行為をやめて、湯船に浸かり、体を温めた後、風呂場から出る事にした。

風呂場から出た後、体を拭いて、服に着替える。着替え終わった後、リビングに行くと、孝之の姿があった。何してんだろう……と気になったので、俺は


「何してるの?」


そう聞いてみると


「ちょっとな? 宿題が出されたから、ここでやってるんだ、由希乃は宿題はあったか?」


「いや、無いけど……」


「そうか、宿題とかで解らない事があったら、俺に聞けよ? 詳しく教えてあげるからな?」


そう孝之が言った瞬間、ピロリンと音が聞こえてきた。まさかこれって?今ので、少し好感度があがったのか……?そう思い、スマホを取り出して、ラブチュチュマニアサイトを開き、「初崎由希乃、ステータス」と検索。

検索をかけると、現れたのは

初崎由希乃

B72 H67 W60

恋愛度55と、表示されていた。

おいおい……今ので5ポイントを上がったと言う事になるのかよ……もしかしたら、初崎由希乃シナリオは、数日の内に終わるのかも知れない。次、何のイベントが起こるのか? 全く不明だしな?とりあえず……ここは孝之との会話を終わらせた方が良いと思ったので、会話を切り上げて、自分の部屋に戻る事にした。

部屋に戻り、昨日日記をつけたノートを取り出して、今日も書き記す。


「今日の報告、この初崎由希乃シナリオは、以外に早く終わるのかも知れない。あと、攻略対象者全員とコンタクトに成功。今後の方針。好感度を下げつつ、他の相手と孝之をくっ付ける方向で動こうと思う」


そう書いてから、ノートを閉じる。

ノートを閉じた後、今日はもう眠る事にした。

明日、どうなるか全く解らないけど、何とかやっていこうと思っていたのだが……俺は、ある大事な事を忘れていたのである。その大事な事は……

ゲームなら、セーブして、電源を切り、再始動してセーブポイントから始める事が出来るのだが、そのセーブが出来ないと言う事に、気がついていなかったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る