(二十二)皇帝の崩御
皇帝が崩御した。宮中から都まで届いた崩御の知らせに都の酒屋や妓楼は閉じ、宮中の行事も取りやめとなった。
宮殿から出発した一行は都を葬列を作り寺へと移動する。
白い喪服に身を包み、前方では大きな棺が担がれ、その後ろには花飾りを持つ者が並ぶ。
武官も総出で葬列の周りを囲む。
都の人等はみな出て一行が通るのをただ立ち見守るもの、地面に頭まで擦り付ける者。ただ多くは気にも留めていない様子。
寺から葬儀を終え再び宮殿へと戻る一行。
「ちょいと蕎麦屋へとは行かぬもんだな」という夕貴に美桜は「お父上の葬儀ですよ」と小さな声で囁く。
その時、前方が騒がしく、怒号と悲鳴が聞こえる。
一斉に武官が集まり刺客らしき黒尽くめの者らを取り押さえる。
たった五名の刺客は、その場に縄で締め上げられ武官に連れられる。
「何事だ?」
「
「え」
「と言うより刀を抜くどころか捕らえられに来たと言った方が的確かと。お粗末すぎました」と武官が言う。
「
前方で再び歩く紫葉皇子は腰が抜けたように
「ああ 余を殺そうとしたのか?あの黒い者らは」
「はあ、しかし殿下 刀すら抜く前に取り押さえられました故、なんでしょうね〜」
「こらっ菊之輔!余をしっかり守らねば」
「はあい」
◇
武官府では、五人の刺客の取り調べが行われていた。
そのうちの一人が
それを聞いた
夜の事、武官の藍染服で夕貴の部屋前に突如現れた者に龍人は刀を向ける。
「龍人様!龍人様」
その声は美桜。
「あ!何をしてるっあ、何をしておられるのですかっ」
「今日捕まった罪人に会わせてほしいのです」
「は?」
「このままでは、永安様に疑いが、私に尋問させて欲しいのです」
「え?!」
「夕貴殿下には?」
「言わないつもりです」
「扇、お供しろ」
「え……はい」
扇の後を歩き無言で進む。
「夕貴殿下付の侍従武官だ。少し確認したい事があってな」
「は、どうぞ」
「はあ……びくびくするわ」と扇が呟く。
「私は、龍人様に背格好似てるかな?」
「ああそうだな あああ あっそうですね。」
牢に入れられた男達を見て美桜は唖然とする。かなり高齢の者達だったのだ。
「手を」
「は?」
「脈を見るだけです。」
「あんた医者か?」
美桜は男の手を掴む。
「証言に偽りはないのですね?」
『なんだこいつは。変な……武官だな。従わなければ
「サキに会いたいですか?」
「…………?」
「救えるかは分からない。申し訳ない……」
「な 何する!?」
美桜は小刀で罪人の服の袖を少し切り取った。
◇
夕貴の部屋前に戻った美桜と扇。
出迎えた龍人が、「ばれてる。入ってください」
「ああ……」
「夕貴殿下……」
美桜の姿を見た夕貴は少々ご立腹のようである。
「座れ」
「はい」
「何をしに罪人の元へ参った?」
「証言が本当か、確かめに……」
「吐くわけがないだろ……ったくそなたは……何かあったらどうする。おいっ龍人!今宵武官府へ参ったのはおぬしと扇だ。分かったな」
「へ?はい。分かりました。」
「夕貴殿下……高台寺 丸にすぐに文を届けたいのですが」
「ん?……はあ。訳がわからんが」
と夕貴は、紙と筆を出した。
美桜は、紅風を知っているか、この布地の服を着た刺客が分かるか。
分かればそれが、此度の一行を襲った刺客だと記す。
しかし、実際の文面は、○や文字ならぬ記号で記した為、覗く夕貴には理解できない。
「なんだ……それは また豆と芋か?」
「
「え、大丈夫でしょうか……」と美桜は心配する。
「見習い一人抜け出しても分からないでしょう。きっと……」
と笑う扇が文を佐助に届けに出た。
「美桜、早う戻らねば……。待て」
足を止め振り返った美桜を、夕貴はぎゅっと抱きしめる。
『まだ何か隠しておるのか……?そなたが心配なだけだ。きつい物言いをした……』
「気をつけろ 美桜」
「はい」
◇
翌日、罪人達の証言を元に
御殿大広間に集まる重鎮達に
「紫葉殿下に刺客を送ったとはまことですか?」
「なにを……根も葉もない話です。」
そこへやって来たのは呼ばれてはいない紫葉。
「殿下、何故……?!」
「ん?余もたまにはこう言った場を見てみたくてな」
「はあ……」
「あの刺客、余を狙ったと?」
「ははあ」
「刀すら抜かなかったのは何故じゃ?あのような人目の多い場で狙うのは何故じゃ?」
紫葉の言葉にみな静まり返った。
永安も意外な人物の反論に不思議そうな顔をする。
「そ それは宮殿へ忍ぶより、狙いやすかったのでは……」
「聞けば、年老いた男達だと。」
「はあ……」
「余が奇襲を受けた事にしたかったのだな。永安殿の仕業にしたがるという事は……夕貴殿下の敵。すなわち、それは黄家の者の仕業だ。間違っておるかな?」
途中から来た夕貴も紫葉の背後で固まっている。
「それは……調べてみなければ……分かりませんので……」
「どうやって調べるのです?」と夕貴も口を挟む。
◇
「なに?誰がそのような反論を、夕貴か?」
「いえ……紫葉殿下でございます。」
「紫葉……」
竜胆は言葉を失った。まさか我が子が武家の肩を持つなど。茶番な刺客騒ぎでもそれなりに、武家は汚い手を使うと世に噂をまきたかっただけであった。
◇
数日後
美桜へ高台寺 丸栄から文が届く。
そこには紅風は黄家の竜胆皇后の生家と代々取引をする組織。だが、此度の指示を出したかは証拠がない。
服の生地は確かに紅風の服と同じだが特別珍しくない。騒ぐな。
「竜胆皇后……」
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