第58話

 レナケウス家、それはブルタス王国に古くから仕えていた貴族。


 そして、王に反旗を翻し没落した貴族でもあった。


 今から100年前、レナケウス家はブルタス王家を守護する役割を与えられていた。

 一族は強力なスキルを持つ者ばかりであり、レナケウス家も王家を守護することに誇りを持っていた。


 ……ある人物がレナケウス家に来るまでは。


 その人物により当時の王が瀕死にまで追い詰められるが、王を守護するもう1つの一族により謀反を企てたある人物は殺され、連帯責任として一族はを科せられた。


「私達はその末裔、そして罪を背負って生きているってことですね」


 そうヘレンは説明する。


「罪?罰じゃなくてか?」


「それは……実は私もわかっていないんですよ、その罪は代々一族の最も優秀な人物に引き継がれて苦しめるとか」


「ってことはグーシュヴァンドがその罪を背負ってるってことか……それに関しては同情

するな」


 自分は全く悪くないのに苦しめられる、それ以上に理不尽な事はない。

 だがそれとグーシュヴァンドを許すことは別だ。


「で、レナケウス家の過去の罪がどうグーシュヴァンドの力に関係するんだ?」


「あ、これはグゥちゃんをよく知ってもらう為に話したまでです……多分」


「多分?」


「あ、同情して欲しいとかじゃ無いですから!本当ですよ!?」


「わかったから、スキルについて教えてくれないか?」


「はい、グゥちゃんのスキルですが一言で言えばスキルです。グゥちゃんはよく笑っているんですが、その時に特別な音を含んだ声を出してるんです」


「音?それが何で眠らせることに繋がるんだ?」


「その仕組みはよくわかっていませんけど、音を聞いた人は例外無く頭と身体の繋がりが途切れてしまうみたいです、でもそれだけで死んだりはしません」


 外的な音や光は意識にも影響を及ぼすのは無い訳じゃない。

 テレビを見るときは離れて見て、なんてのもそう言った出来事があったからだしな。



「つまり耳さえ塞げばグーシュヴァンドのスキルは無効化出来るってことだな」


「それがそう簡単には行かないんです、何故かって言うとですねその音って言うのは耳を塞いでも聞こえてしまうからです、ある方法を除いては」


「ある方法?」


「はい、この子の耳から取れる耳石を使って耳栓を作るんです、そうすればグゥちゃんのスキルは完全無効化出来ます」


 狼に似た身体、そして僅かに硫黄の様な臭い。

 確かヘルバウンドだったか?

チワワほどに小さくて怖さは全く無かったし頭も1つしかない。


「ならすぐにでもその子から耳石を取り出せばいいんじゃないか?」


「無理ですね、この子がまだまだ子供で、あと100年大きくなれば別ですけど……」


「なら、他のヘルバウンドを狩るしか無いか……」


「えっと、それも無理なんです」


「何でだ?まさか他にヘルバウンドがいない訳じゃ……まさか」


「はい、そのまさかです。グゥちゃんはそれを恐れて成体のヘルバウンドを皆殺しにしてしまったので……この子も本当は殺されてしまうはずでしたけどグゥちゃんを説得して何とか引き取った子なんです」


 酷すぎる、そこまでやるか。


「せめてこの子が半獣だったら良かったんですけど」


「……ちなみに半獣ならどうなるんだ?」


「この子は今10年程生きているんです、ですから半人化すれば私達ほどに成長しますし耳石も十分取れます」


 出来ないことはない。

 無いが……


「ちなみにこの子はオスか?メスか?」

 

「ええと……オスですね、それがどうかしましたか?」


 子供のオスならモテることはないか……?

 少なくとも俺が襲われることはなさそうだし大丈夫か。


「俺のスキルでこの子を半人化出来るが、やってみてもいいか?」


「えっ!?凄いスキルじゃないですか!でもちょっと待ってくださいね……はい、大丈夫みたいですよ!」


「じゃ、早速……」


 ヘルバウンドに触れスキルを使う。

 その姿が大きく、そして体毛が抜け落ちて行く。


「……これは」


 現れたのは……少女と見間違う程に美しい半獣少年だった。



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