第57話

「こちらどうぞ、私自慢のミルクです!」


 牛舎の様な場所に案内された俺の目の前にコップに並々と注がれた白い液体。


「確かに自慢してもいいくらいでかいけど、人のミルクって飲めるのか?」


「え?人?……わ、私のじゃないですよぅ!!それは牛みたいってグゥちゃんにもよく言われてましたけどぉ……」


「本当にグーシュヴァンドの姉なのか?」


「うぅ、それもよく言われます……私と違ってグゥちゃんは優秀ですから仕方ありませんけど」


 灰色の髪と青と銀の瞳、狼の様な雰囲気も出しつつ母性も感じられる。

 母狼というのがしっくりくるかもしれない。


「協力して欲しいことがある、グーシュヴァンドについてだ」


「グゥちゃんのこと……ですか?」


 警戒され距離を取られる。


「ダメです!グゥちゃんについては何も教えられません!」


 周囲から現れた魔物がヘレンローザを守るように取り囲む。


 どれも見たことが無い。

 鳥のような上半身に蛇に似た下半身、かと思えばアザラシに似た体に顔はカンガルーなど色々な動物、いや魔物のキメラと言える生物だらけだ。


 これならグリフォンについても知っているかもしれない。

 簡単に引き下がる訳にはいかない。


「グーシュヴァンドが学園で何をしているか知っているか?その自分勝手な行いで生徒を殺してお咎め無し、そんな事許されると思うのか?」


「それは……」


「今俺の知り合いが殺されようとしてる、次の試験で俺がグーシュヴァンドに勝てなければそいつは殺される。そいつは少し馬鹿だけど悪い奴じゃない、妹を大切にする奴だし殺されていい奴じゃ無いんだよ。少しでいい、グーシュヴァンドについて何か知っていれば教えてくれ、頼む!」


 スキルを使えば簡単だろう。

 だが、俺は頭を下げた。


 どんな奴でも家族は家族、その家族を売るような決断は俺が何がしていい領域じゃない。


「……ごめんね」


「……駄目か」


「いえ……今のはグゥちゃんに謝ったんです。わかりました、私が教えられる範囲でグゥちゃんについて教えます……でも私が言ったことは」


「誰にも言わない約束する、グーシュヴァンドも絶対に殺したりしないから安心してくれ」


「……悪いことをしているなら止めてあげて下さい、わたしにはそれは出来ませんから。お願いします」


 そうだ。

 ヘレンの為にも、そして俺達の為にも。


 グーシュヴァンドにこれ以上好き勝手させる訳にはいかない。

 


 

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