『最高眷属』死す

「──お前たちを傀儡にすれば、それらを達成する補強になるか?」


 そう言って、偉丈夫が構えた。偉丈夫を中心に闇の霧が発生し、それを見た『騎士団長』が眉を潜める。


「上官殿。あの男の力はなんでしょうか。尋常ではない再生力といい、悪寒を抱いてならないのですが」


 どうやら『騎士団長』はジルのことを上官殿と呼ぶことにしたらしい。疑問は尽きないが、しかしそのことを問いただしている状況でないのも事実であるとまとめたジルは、『騎士団長』に答えた。


「……人間に対する毒のようなものだ。肉体、魂ともにアレを前には無に帰すと考えよ」

「なるほど。厄介ですね」


 厄介と言いつつも、しかし『騎士団長』の心に恐怖はなかった。両手に剣を構えた彼女は──すぐさま振り向くと同時に、剣を横薙よこなぎに振るう。


「が、ァ!?」


 その一撃は、背後より迫るくる敵を易々と両断した。そのまま敵は床に伏せ、起き上がる様子は見せない。


「?」


 『騎士団長』は慎重深く敵を睨みながら。


「こちらは再生しない……?」

「不死性は特別な個体のみだ。全員が全員、強靭きょうじんな不死性を有している訳ではない。だが気をつけよ、人間を一方的にほふる攻撃手段──『呪詛』はその者たちも扱える」


 言葉に答えながら、両手に纏った黒炎で『魔王の眷属』の頭を掴み、燃やし尽くすジル。彼は続け様に『神の力』を纏った蹴りで敵の胴体を貫くと、少し離れた位置にいた敵を雷で消し炭にした。


「ジル様」


 そんな彼の背後には、銀髪の少女。凛然とした雰囲気のまま、彼女は槍を構えて敵を見据えていた。


「ソフィア、会場は壊すなよ。現時点では、原則として『天の術式』の使用を禁ずる。貴様なら、私の指示がなくとも特例に移る際の判断基準は違えまい。好きに動き、愚劣な者たちをく滅せ」

「はっ」


 ジルと背中合わせになるような形で戦場に立ったソフィアが、その手に持つ槍を振るう。速度という概念を置き去りにした挙動を目視することは、まず不可能だ。


 故にこの場にいる者たちが、空間を奔る銀の閃光を認識する直前には、彼女の眼前にいた敵は全て絶命した。


「ほう……」


 その戦闘を横目に見て、騎士団長は目を細める。場合によっては援護が必要かと思ったが、その心配はどうやら杞憂きゆうらしい。


(両者ともに戦い慣れている。戦争でマヌスを退けた以上、護衛が強いのは想定内だったが……上官殿は自らも戦場に身を置くタイプの王。つまり、『龍帝』と同じタイプか)


 少なくとも自分と同じくらいには強いな、と『騎士団長』は二人の戦力分析を終えた。ならば一目見たときに感じたことを──いや、それは後でいいだろうと『騎士団長』は思考を切り替え、会場に溢れる敵を斬り捨てるべく腰を低くする。


(不死性ごと断てばあの大将らしき男も殺せるのだろうが……ここは、既に交戦経験のあるらしい彼らに任せるとしよう。思わぬ罠が潜んでいる可能性は否定できないからな。餅は餅屋だ)


 そう内心で結論付けた彼女は瞳を瞑り──瞬間、彼女を台風の目にして暴風が吹き荒れる。


「はあああ!!」


 縦横無尽に剣を振り回し、彼女は周囲の敵を圧倒的な力で捩じ伏せたのだ。圧倒的なまでの暴虐的な連撃。されどその太刀筋には、確かな理があった。


「力こそパワー。技量こそ至高。ならばその二つを掛け合わせた私は、最強の剣士だと思わないか?」


 頭の悪そうな発言をしながらドヤ顔を浮かべる本人曰く、完璧な理論。


 数多の英雄譚を読み明かした結果「力と技量が合わせれば最強なのでは?」という結論に至った彼女は、圧倒的な力のゴリ押しと、圧倒的な剣術の技量の連撃を兼ね備えて敵を殺すという脳筋の極みに至っていた。


 攻撃は全て最大威力! 急所に必中! 回避不可! ヨシ!!


 端的に言ってしまうと、こんな具合である。


 技術とは継承され、受け継いだ者の手によって昇華されていくもの。時代背景や誕生の趣旨等によって変化することこそあれ、しかしきちんと継承していけば進化していくものなのだ。


 歴代の『騎士団長』が何百年以上も受け継ぎ、鍛え上げ、昇華し、繋いできた剣術の継承と、ノアを酷使して各国の剣士を盗み見て学んで得た経験、本人が有する人類最高峰の剣士の才能、その他──それら全てを兼ね備えた彼女は、確かに大陸最強格に君臨するに相応しい実力を有していた。


 唯一の弱点は、大陸最強格で唯一、国を消し飛ばせるだけの広範囲殲滅技を有していない点だが……彼女こそが、エクエス王国の歴史が産んだ麒麟児なのだ。


 色んな意味で、彼女は今代の大陸最強格として足る器を有している。どの大陸最強格も歴代最強を名乗るに相応しいとされるなか、『騎士団長』も例外なく歴代最強であった。色んな意味で。


「夫の顔に泥を塗るわけにはいかんのでな。貴公らは、ここで朽ち果てろ」


 そう言って駆ける姿はまさしく人間規模の嵐の具現。ドレスに身を包み、血潮を背に彼女は舞台を踊る。おかしな発言など何も存在しない。多分。







「どうやら、こいつらは不死身ではないようだな」

「不死身なんていないでしょ。首を斬ればみんな死ぬよ」

「いや。俺が前に戦った男は、心臓を破裂させて残った残骸を豪速球で投げ飛ばしたり、頭蓋を叩き割った後に脳髄を引きずり出して地面に埋め込んでも死ななかったぞ」

「なんでそんなグロテスクな殺害方法を選んだの……」

「どうやったら殺せるかを考えてたからな」

「首を斬るのが一番綺麗だよ」

「……綺麗、か?」


 レイラが流麗な剣筋で敵の首を切断していき、ローランドがローキックで敵の動きを封じた直後に発勁はっけい頭蓋ずがいを砕く。敵は多勢に無勢だが、しかし大陸有数の強者に位置するレイラと、大陸最強格に差し迫るローランドの敵ではない。


「うーん、残念。賞金首はいないみたい」

「……しかし、こいつらの狙いはなんだ?」

「『騎士団長』さんなんじゃないの?」

「……いや、その割には、どこか違和感がある」






「『魔王の眷属』って連中は、横槍が好きみてえだな」


 そう言って、ヘクターは目の前の偉丈夫を睨んだ。


 彼は以前、ドラコ帝国の御前試合にて老執事との戦闘中に、魔王の眷属が横槍を入れたせいで試合をうやむやにされたという過去を持つ。その時はジルとシリルの手で魔王の眷属は討伐されたのだが──その時の恨みを、ここで晴らしてやろうと彼は獰猛に笑った。


「テメェは俺が殺すぜ」


 軽く見たところ、目の前の偉丈夫は以前乱入してきたクソガキよりも立場も実力も上。部下の尻拭いは上司がするものだろう? といった発想のもと、彼は以前の借りもここで返済するつもりでいた。


「殺す、か。我らに死の概念は存在しない……と言いたいが、既に数名が滅んでいる以上、油断すべきではないか。『千人殺し』のヘクターであれば尚のこと。只人の身で千人の手練れを同時に相手にし、無傷で戦場を去ったお前は評価に値する」

「へえ、テメェみてえなのは敵を油断しておっんじゃうのが世の常だが……中々、楽しめるかもしれねえな!」


 ──『天の肉体メギンギョルズ


 ノータイムでの『加護』の発動。神々の有する『権能』に近いその異能は、ヘクターの肉体を変換した。


「……!!」


 ヘクターの肉体の変化に良くないものを感じ取った偉丈夫が、咄嗟に身を屈める。直後、ジルの張った結界にヘクターの拳が着弾。轟音が響くと同時に、結界ごと会場が大きく揺れた。


「最初の一撃を普通に喰らってたから、肉弾戦は無理なタイプかと思ったが……そんなことはないようだな! 良いぜ、名前を聞いてやる! 『魔王の眷属』さんよ!」

「……ドケリーだ」


 返答は簡潔に、ドケリーと名乗った偉丈夫は足元に『闇』と『影』を凝縮させる。


「呪詛 混沌舞踊」

「──ッ!」


 ヘクターの『加護』──『天の肉体』。


 それは『魔王の眷属』の『呪詛』をも無力化できる代物なのだが……流石に、最高眷属ともなれば話は変わる。以前の少年もブーストをされてはいたが、単純な力の総力だけで最高眷属に拮抗するのは不可能なのだ。本物の最高眷属であるドケリーの呪詛を、マトモに触れれば、その直後に放つであろう羅刹変容で肉体が変質させられるのは自明の理。


「チッ!」


 壁を蹴り、ヘクターはその場から跳躍。先ほどまでヘクターがいた場所に、ドケリーの『呪詛』が着弾した。


「一撃喰らったら終わり、だったか!」


 互いに、一撃を当てれば勝負を決することができる。天敵同士の激突は、尋常ならざる緊迫感を周囲に振り撒いていた。


(直接俺の肉体を当てねえと殺せねえが……)


 しかし接近しすぎれば敵の『呪詛』にこちらが殺される確率が高くなる。それこそ片腕を犠牲にするなりすれば、ヘクターを殺すことは可能だろう。


(けど、俺が距離を離しすぎれば守りを固めに来るわな)


  ドケリーは『闇』を操作し、自らの周囲を半球状に覆うようにして『闇』を展開して待ちの態勢に入っていた。一度に操れる『闇』の総量は決まっているのか、あるいは最大の天敵であるジルが参戦することを警戒しているのか──その辺は不明だが、大規模な範囲を巻き込む戦法をとるつもりはないらしい。


「けどまあ──」


 やることは変わらねえ、とヘクターは駆けた。







(……脳筋か?)


 一直線に向かってくるヘクターをそう評価しかけ、しかし油断なくドケリーは闇を飛ばした。


(接近された際、咄嗟にガードする用に闇を七割残し、残りは攻撃に使う)


 呪詛による異能は、敵が隙を作ったときに放てばいい。それに、最大目的はあくまでも『騎士団長』の傀儡化。ヘクターや他の強者たちの傀儡化や迎撃は、二の次でしかない。歴代最強の『騎士団長』とやらの完成度を見極める時間も欲しいが──


(片手間で戦闘をすれば、敗北は必至か……ッ!)


 『魔王の眷属』が有する『呪詛 羅刹変容』という異能は、人類の天敵である。人間であれば例外なく"核"を変質させられるその異能は、本当の意味で一撃必殺だ。


 加えて『最高眷属』には脳や心臓が消し飛ぼうが滅びない不死性も付与されており、大陸有数の強者程度の実力でも持久戦に持ち込むことで大陸最強格の殺害が可能という領域に至っているのだが──目の前の男、ヘクターは自分に対する対抗手段を有していた。


(魔王様を否定する力……断じて許せんが)


 忌々しいことに、目の前の男は、強い。


「だからこそ、ここで死ね」


 その瞳に殺意を宿すと、ドケリーは『闇』の瘴気を放つ。漆黒の暴風がヘクターへと襲いかかり、それをヘクターは跳躍することで回避した。


「空中では身を動かせないだろう!」


 直後、闇を集約することで槍のようなものを形成し、ドケリーはヘクターを貫くべく地からそれを放った。そして貫いた先から『羅刹変容』を発動し、ヘクターの肉体を変質させようと画策して──


「ハッ!」


 ──空中を殴りつけたヘクターの拳が爆発する。


「なに……」


 煙がヘクターの姿を覆い隠し、その煙の中に『闇』が突っ込む。そして複数の爆発音が響いたかと思うと、ヘクターがドケリーの想定していた場所とは異なる方向から地に降りた。


「……爆発の余波で空中を僅かに移動したか」


 ヘクターが空中でもある程度であれば身動きを取れることを理解したドケリーは内心で舌を打つと、


「だが」


 煙が吹き飛び、ヘクターが視線を僅かに宙に向ける。


「呪詛 怨恨時雨」


 瞬間、驟雨のように『闇』の雨がヘクターに向かって降り注ぐ。しかしそれは、ヘクターに通用しなかった。


(……集約して放たねば、貫けんか)


 あの肉体を貫くには、弾幕では足りないらしい。それを薄々理解していたのか、ヘクターはガードを固めるだけで、先ほどと違って回避行動はとらなかった。


(全ての闇を使えば可能性はあるが……それではあの男が懐に入った際のガードが不可能)


 厄介だ、とドケリーは素直に思った。広範囲の技を使って騎士団長を狙うにしても、あの距離では騎士団長は余裕を持って回避可能だろうし、そうすればその隙を突いてヘクターがこちらを刈り取る。


「ッ!」


 そんな自分の思考の隙を読み取ったのか、ヘクターがテーブルを片手で持ち上げて豪速で投げた。無視して一度押し潰されることで死ぬ手を考え──復活の隙を突いて接近される可能性を考慮して闇で叩き落とす。


「へえ、守るんだな。テメェみてえなのは、自分には通じない攻撃は無視して余裕をかますもんだと思ってたぜ」

「……」


 忌々しい。


 口調や戦闘方法からして粗暴に見えるが、頭は回るし経験も豊富だ。加えて、こちらの力に対して天敵となり得る力までをも有している。実に、忌々──


「!」


 突如ヘクターが、足を振り上げる。


「何を──」

「オラァ!!」


 直後、轟音と共に足から放たれた衝撃波。それは床を割りながらドケリーへと突き進んでいく。


(回避……は間に合わない! 闇を前方に展開して盾を──!)


 自分の周囲に置いていた闇を前方に集約させる。質が足りなければこの一撃は防御できないと判断しての、最適解。





 だが、


「その量の闇が移動するのに必要な時間は──」


 だが、あまりにも分かりやすすぎた。


「──テメェが何回か闇を移動させてくれたおかげで、捕捉済みなんだよ!! もう、今更こっちには戻せねえよなァ!」


 目を見開き、横を見るドケリー。そこには、獰猛な笑みを浮かべたヘクターが拳を振りかぶっていて。


(莫迦な)


 ドケリーの腹に拳が突き刺さり、そのまま爆発した。


 ◆◆◆


「ご、パァ……ッッ!?」


 床に伏せるドケリーを見下ろしながらヘクターは再び構える。完全に瀕死の状態であるが、しかし復活の兆しはない。『加護』による一撃は、ドケリーの『呪詛』による不死性を完全に阻害していたのだ。


「顔面を狙ったが、狙いを外させる程度はできたか」


 だがこれで終わりだ、とヘクターはドケリーを狙い。


「!」


 瞬間。自らに降り注いだ殺意を察知し、ヘクターはその場から飛び退いた。


 そして──


「……ほう?」


 そして、ヘクターは背後からジルの興味深そうな声を聞いた。ヘクターが問いかけるよりも早く、ジルの声の意味を理解する。


 ズズズ、という奇妙な音が響いた。


 やがて結界の一部が黒く染め上がると、そこはゆっくりと崩壊していき。


 ──次の瞬間、ドケリーの姿は消えていた。


「……チッ。逃した、すまねえボス」

「構わん。初見の手段で逃亡に徹したのだからな。……スフラメルやエーヴィヒのアレの応用、あるいは派生か。ふん。どうやら連中は、逃げ足に特化したらしい。不死性を絶対視するのをやめたようだな」

「どうしますか、ジル様」

「連中の目的が『騎士団長』であることは明白であり、連中が仕掛けてくるならば私たちがこの国を去ってからだろう」


 だが、とジルは口角を吊り上げる。


「連中がそれを把握するには、私たち自体を監視するか、この国を監視するか、あるいは道中で私たちを捕捉する監視の網を張る必要がある。つまりだ、逆算すればこちらが連中を捕捉するのも容易ということ。ならば、そう長期的な滞在にはなるまい。──連中は、ここで潰す」


 ◆◆◆

 

 殺す。


 絶対に、ヘクターはこの手で殺す……とドケリーは血走った目を見開きながら少しずつ肉体を復活させていく。不恰好な形での再生になるかもしれないが──構うものか。次は、絶対に、殺す。


「ふ、ふふふふ……」


 ──と、ドケリーは笑い声を聞いた。


「なにがおかしい……ルシェ」


 ルシェ。

 と呼ばれた少女は振り返る。『魔王の眷属』最高眷属が一人にして──◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎。


「騎士団長はどうだった?」

「……すまない。見極める暇はなかった」

「ふーん。そうなんだ、まあどうでもいいや」

「……は?」


 ポカン、とドケリーは間抜け面を晒した。この計画を立案し、それを『伝道師』に認めさせたのは彼女だ。その彼女が、それをどうでもいい? それは、それは魔王に対する──


「待て、お前、それは、なんだ」


 そして、ドケリーは気付いた。


 目の前の女から『最高眷属』が放つ独特の空気が消失していることに。


 汗をかく機能はもう存在しないはずなのに……ドケリーは、嫌な汗を感じていた。


「私ね、本当は魔王なんてもうどうでもいいの」


 ルシェは、にこりと可憐な笑みを浮かべて。


「だって、いるんだもん。本当の、本当の意味で、いるんだよ?」

「な、に、がだ?」

「いるんだよ。いるからいるの。そして、いたの。──ねえ、なんで分からないの?」


 そして、ルシェは真顔になる。


 真顔で、瞳孔を開いた瞳でこちらを見ながら、彼女は一歩こちらに近づいてくる。


「……」


 これは、なんだ? とドケリーは後ずさった。知らない。こんなものは知らない。いやそもそも、自分たちの会話は成立していたか? こんな、こんな……!


「gbばjww、?!!!」


 直後、自分を中心に闇の柱が顕現した。


「あ、流石に気づいてくれたんだね『伝道師』さん」


 薄れゆく意識。

 自分が何者かに塗り替えられていく感覚。目の前にいる少女と同じくらい、その感覚に恐怖を抱いて──


「えいっ」


 ──そこで、塗り替えられていく感覚のまま、暴虐的な闇の柱が天を貫き周囲を蹂躙したままに、侵食が停止した。


「『伝道師』さんとの繋がりを絶った私が、魔王に対する信仰が完全にないことを匂わせて『最高眷属』の前にいたら、絶対に降誕しようとしてくれると思ったんだ。サンジェルやスフラメルにしてたように!」


 愉しげな少女は、そう言って可憐に嗤う。


(莫gtmxxgh迦なwlabbd)


 ルシェが言ったことは、あり得ないことだった。


 魔王の眷属は、その全てが例外なく『伝道師』によって力を与えられたものであり、絶対に『伝道師』との繋がりを断ち切ることはできない。それを、彼女は絶ったという。それならば何故、どうやって彼女はこの世界に存在していられる。


「『伝道師』さんの力の大きさは、私も認めてるんだー。だからー、あの人も喜んでくれると思うの!」


 いやそもそも──少女は、この現象を知っているのか。この、意味不明な状況を、理解しているのか。降誕とは、なんだ。


「『伝道師』さんの力だけを貰うためにどうすればいいのかを考えて、この方法を思いついたんだー! 『魔王の眷属』では耐えきれない力の総量。余剰分も含めて、私が滅びることなくそれを手に入れるには、これしかないって思ったのー! 結果は大成功! 力だけ貰いまーす!!」


 なんだ、この少女の目的はなんだ、一体、なにをしようとしているんだ。


「喜んでくれるかなーあの人は。ねえ、喜んでくれると思う? ねえ? ねえってば。──ねえ、なんで返事をしないの?」

「!!?!??」


 バギリ、とドケリーの顔面が押し潰される。この程度で死にはしない。死にはしないが、ドケリーは自らの終わりを察していた。


「私ね、恋をしたの! あの人に! あの銀髪の男の人に! だからこれは! 恋バナだよね!」


 そう言って、ルシェはドケリーを塗り潰していく。


「そしてね、プレゼントを用意することにしたの! でもドケリーはいらないから、ここで殺すね! でも、恋バナはしようね!! ね! ね! ──あ、死んじゃった」


 殺すけど、恋バナをしたかったんだけどなあ……とルシェは心の底から残念そうな表情を浮かべた。本気で、本気で彼女は、残念に思っていたのだ。


「あの人の目的を正確に把握している訳じゃないけど、力を求めているのは確実だよね! ね!」


 そう言ってクルクルと回りながら、ルシェは目的を遂行すべく作業を続ける。その過程で、世界が滅びようとどうでもいいと断じながら。


「名前はジルって言うんだー! ドケリーも良い情報を手に入れてくれたね! ね!」

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