人類到達地点 後編

二話連続投稿です。前話がまだ読めていない方は、前話を先に読んでください。

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 かつてジルが『何か』と呼んだ異形。それは露出した『神の力』とエーヴィヒの『闇』が互いに影響を及ぼしたことで顕現した存在だが、エーヴィヒが『闇』の制御権を奪ったあとも、『何か』は異形としての形自体は保っていた。


 そしてそれを、ジルは吸収した。

 これまで『神の力』──正確にはそれを生む核だが──を取り込んだのと同じ感覚で、彼は『何か』を自らの中に封じたのである。


 だからこそ、


(原作では「権能」で無傷だったが、今の『人類最強』は「神の力」を混ぜているから普通にダメージが通る……)


 だからこそ、スローになった世界で、ジルは気づく。


(しかしそれは裏を返すと……『神の力』さえなければ、『人類最強』の奥義がどれだけの火力を誇ろうと、この身には届かない。『神の秘宝』を用いた直接的な打撃はともかく、どこまで行っても人類の力を集結させた一撃だからこそ、あの蒼炎自体は俺に対して無意味だ)


 神々の持つ理不尽性。

 それは攻略法を知っていて適切な対応をとれば対処可能な代物だが、逆に言えば適切な対応をとれなければどうしようもない代物であることも意味している。


 つまるところ、敵からその適切な対応とやらを奪えば神々の持つ理不尽性は突破されないのだ。絶対不可侵な領域であるからこその、神々なのだから。


(そして)


『yr』


(そして、俺は識っている)


 ジルの瞳が、黄金色に輝きだす。


(『神の力』を吸収するそれを……俺は識っている!)


 想起するは異形の存在。

 顕現させるは◼︎◼︎の権能。


(再現しろあの異形を。あの異形の持つ性質を。完全な形が不可能とはいえ俺はそれを識っているし──有しているのだから)


 スローモーションと化した世界。

 人間は死の間際、体内時間と現実の時間で大きな差が生まれるという。その世界で、ジルは己の意識を体内へと埋没させていく。


「──」


 記憶の欠けらを探す。

 完全である必要はない。

 『人類最強』が放つ『神の力』は非常に単純なもの。それ故に不完全であろうとあの異形を再現さえできれば吸収自体は可能。


「──」


 一瞬とも永遠とも感じられる時間。

 その中で。

 

(ガッご!?)


 その中で、ジルの精神を激痛が襲う。


(ぐ、ぎぎ……!)


 それは、当然といえば当然の理屈だった。

 

 ◼︎神の力は、◼︎◼︎に対する天敵のようなもの。

 ◼︎◼︎はその誕生の経緯が経緯だからこそ、彼に牙を剥く。◼︎がその権◼︎を中途半端な形とはいえ扱おうとすることは、完全なる自殺行為に他ならない。


 だが。


かしずけ、◼︎◼︎……)


 だが、それがどうした? とジルは笑った。


 目の前の敵が人類の極致に足を踏み入れたというのなら。

 そして、この身が人類の足掛かりすら至ることができないというのなら。

 こちらは神として、更に先の領域へと足を踏み出そう。


 たとえそれが◼︎◼︎であったとしても、紛れもなく神ではあるのだから。


(それに、だ)


 ジルの脳裏に、自らに集う者たちの顔が浮かぶ。


(俺の部下であるお前たちが奮闘してるにも関わらず……大将が負ける訳にはいかないだろう)


 かくして、


「──」


 かくして。ジルの右腕の肘から先が、漆黒のオーラに包まれた。

 それと同時に世界が恐怖の叫びをあげるが、そんなもの知ったことかと言わんばかりにジルは冷笑を浮かべる。


「誰の許しを得て──」


 そして『人類最強』が放った蒼炎に対し、無造作に右手をかざし、


「──只人の群れが神を侵す。不敬!!」


 蒼炎とジルの右手が、激突する。

 その蒼炎はこれまでで、最も強い一撃。

 今のジルが放つ『光神の盾』では粉砕されかねないほどに強大な一撃を、ジルの右手は吸収していく。


 ──否、正確には蒼炎に混ぜられた『神の力』だけを取り込んでいる。


 だが、それで充分なのだ。


 ジルが蒼炎のダメージを受けてしまうのは、蒼炎に『神の力』が混ざっていることで『権能』を無力化するからでしかない。なればこそジルの『権能』と激突するより先に、蒼炎から『神の力』を取り除いてしまえば、仮に星を貫く一撃であろうと、銀河を破壊する一撃であろうと、ジルには届かない。


 はずだが。


(……チッ)


 僅かに、ジルの肉体に傷が入る。

 徐々にだが、『権能』が突破されかけている。

 それが意味するところはこのままだとジルの肉体は消滅するということと、蒼炎が単純な火力による代物ではないこと。


(不完全な形でも、貴様は◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎アースガルズを突破するか。クロエは完全な形に至るまでは、神々の『基本権能アースガルズ』を突破できずにいたというのに)


 やはり、規格外。

 同じ大陸最強格という位置付けにあれど、『人類最強』だけは明らかに群を抜いている。


「天の術式、起動」


 されどそれは、ジルという男の肉体も同じだ。


(『光神の盾』は意味がない。俺の前方に出す以上、『神の力』を吸収する前に蒼炎と激突してしまう。だから、破壊されるだけ)


 加えて『光神の盾』は『神の力』の消費量が大きい。

 本命を考えると、あまり使いたくはないというのがジルの本音。

 だが、蒼炎を防ぐのになにも蒼炎そのものをどうにかする必要はない、とジルは薄く笑みを浮かべた。


「人類の極致の扉を開いたとはいえ、と対等の視点に立とうなどが高いとは思わんか? ──を見上げよ、『人類最強』」


 瞬間。『人類最強』の背後の足元に黒い渦が発生し、彼の体勢が崩れた。肉体が重力に引き寄せられ、身体ごと天を見上げざるを得なくなる。

 

「貴様がそれに呑まれてから強引に破壊して帰還するのは、それが貴様にとって最高効率の行動だからではない。貴様には、それに呑まれぬために振り絞る肉体の力が残っておらんからだ」


 故に貴様は、数秒後に一度だけは吸い込まれる、とジルは言葉を続けて。


「そしてその角度であれば、蒼炎は私から逸れる」


 ジルの言葉の通り、蒼炎が天を穿つように宙に向かって放たれる。『人類最強』の肉体が斜め後ろに引き寄せられたことで、必然的にハルバードから放たれた蒼炎の軌道が上へとズレたのだ。


 そして形成された擬似ブラックホールに、『人類最強』の肉体ごと蒼炎が呑み込まれる。しかし刹那の時で、ブラックホールは破壊された。『人類最強』が放ち続けていた蒼炎により、ブラックホールが破壊されたからだ。


 天を穿つように放たれし蒼炎と、崩壊していくブラックホール。そして、次の瞬間に、『人類最強』の肉体が宙に向かって飛び出した。


「……」


 だが同時に、彼から放たれる蒼炎は消失していた。


「……」


 故に『人類最強』は再び蒼炎を放つべく、ハルバードを宙空で構えながら、標的を定めるために資産を動かして──ジルの姿が、地上に存在しないことに気がついた。


(読んでいたぞ、『人類最強』)


 再三になるが、『人類最強』は無闇矢鱈な殺生を好まない。


 故に、ブラックホールを破壊した直後に蒼炎を止めたのだ。ブラックホールを破壊すること自体はできるが、しかし光を呑み込むブラックホールに囚われる以上、視覚は確実に封じられてしまう。それは即ち、蒼炎を適当に放てばどこかの国に直撃してしまう可能性をはらんでいた。


 だからつまるところ──ジルの作戦は、『人類最強』の優しさを利用した一手。


(卑怯だと罵ってくれても構わないぞ、『人類最強』)


 だがこの戦場は俺が勝つ、とジルは肉体の『天の術式』に『神の力』を巡らせた。









(いない、だと?)


 目を見開き、宙空から地上を見下ろす『人類最強』。

 蒼炎をピンポイントで掃射することで、ジルをこの惑星の極小部分ごと貫こうとしていた『人類最強』は、いきなりその出鼻を挫かれ──


「終幕といこうか、『人類最強』!」


 その叫び声に対して、『人類最強』は反射的に頭上を見上げた。


 ──それすらも、ジルの術中にあると気づくことなく。


「『光神の盾』」


 瞬間、『人類最強』の視界が光にかれる。


(ぐっ───!?)


 突如強烈な光に襲われた『人類最強』は、完全に視界を封じられた。


(これは、先ほどの盾か!)


 この身の奥義『創世神話ミズガルズ』をも防いだ絶対的な防御壁。それが、眼前に展開されていることを『人類最強』はなんとなく察した。


(くっ)


 なにより距離が近すぎる。この場を離れて光源との距離を置かなければ永遠に視界は戻ってこないだろう。


(ならば『神の秘宝』で──)


 脱出しようとして、気付く。

 視界が封じられているせいで、任意の対象との距離をゼロにしてこの場を脱出しようにも、そもそも全てが見えないせいで対象を設定できないことに。


「這いつくばるが良い、下郎!」

「────ッッッ!?」


 そしてジルが左手を振り下ろすと同時に『光神の盾』と『人類最強』の肉体が落下し、凄まじい勢いで大地に激突。

 隕石が落下したかのような轟音と衝撃波。そして人智を超越した光の波が、『人類最強』の肉体とともに周囲を蹂躙した。


(だが、この程度の衝撃ならば)


 問題ない。


 確かに、既にこの身は限界が近い。体力はあまり残されておらず、体を動かすのも億劫だ。しかし、それでも隕石の衝突程度の衝撃で膝を屈する訳には──


(──待て、これは……)


 そこで、『人類最強』は気付く。

 この一撃の狙いは、『人類最強』をたおすことにあるのではないのだと。


「────ッッ!」


 全力で力を振り絞り、盾から脱出しようと試みる。

 されどこれは、攻撃範囲を絞ることで局所的な威力を高めた蒼炎でも貫けなかった絶対の盾。並みの力ではビクともせず、破壊に至ってはもってのほか。


 この身が至り始めている謎の状人類到達地点態下での完全解放ならば可能性の芽があるが、最も間近で爆発の余波を受けたこの身が絶えるだろう。


(……なるほど)


 体力切れか。

 自滅か。

 後者であればジルを道連れにできる可能性はあるが、しかし爆発の余波がどこまで広がるか想像もつかない。


(すまない、上司よ。この身は──)

 

 











 これこそが、ジルの考えた『人類最強』の体力を削りきる策。


 あらゆる攻撃を防ぐ『光神の盾』を、敵の動きを封じることに扱うという贅沢な使用方法。貫けない壁を破壊して、脱出するなど不可能なのだから。


 とはいえ、安直に展開すれば回避されてしまうだろう。だからこそ彼は確実に当てるため、詰め将棋のように『人類最強』を王手に持ち込んだのだ。


(総合格闘技で寝技を用いて、相手の体力を大きく削ぐのと似たようなものだ。貴様はそこから脱出しようと足掻けば足掻くほど、体力を消費する)


 そして『光神の盾』を破壊する出力で蒼炎を放とうとすれば、まず最初に『人類最強』自身の肉体が蒼炎によるダメージを受ける。さしもの『人類最強』も、大陸を蒸発させる規模の熱量を前には死ぬしかなくなる。つまり、自爆行為に等しいのだ。


 故に。


「……詰みだ、『人類最強』」


 故に、ジルの勝利は確定したも同然だった。


 ◆◆◆


「……」


 光の壁を注意深く見ながら、俺は内心で軽く息を吐いた。


(油断は大敵だが……)


 一見すれば敵を絶対に封じ込むことができる状態であり、この間に他の『天の術式』を打ち込むことで格ゲーなら修正待った無しの無限コンボができそうだが──こちらの『光神の盾』が俺の放った『天の術式』まで防いでしまうので、敵を閉じ込める以上の使い方がないという悲劇を生んでいたりする。


 まあ、世の中そう上手くいかないということだ。

 今回のように相手の体力を削るだとかそういう目的以外で、このやり方は使えないだろう。いやまあ、考えれば普通に思いつくとは思うが。

 

(『人類最強』には『神の秘宝』もあるが)


 それで逃げる術も、この策は封じている。なにせ現在、彼の視界は光に覆われているのだから。そのためだけに、俺はわざわざ声を上げて『人類最強』にこちらを認知してもらったのだから。


(『人類最強』。貴様は現在、視界も封じられているということだ)


 つまり、対象とする存在の特定が不可能なのだ。適当に距離をゼロにして意味不明な座標に飛ぶことを、彼は嫌うだろう。それこそ、宇宙空間に飛ばされる可能性だってあるのだから。


(……本当の意味で至ればリスクなしに破壊される可能性もあるが)

 

 その前に、『人類最強』の体力が尽きるだろう。

 初めて入る人類到達地点は、トップギアに至るまでの時間がそれなりにかかる。特に『人類最強』は奥義を放った後だし、冷静に考えれば体内への噴火攻撃だって完全に効いていないはずがない。


(……右手が死んだな)


 流石にあの力はリスクが大きすぎるな、と軽く舌を打つ。まあ、今後使用する機会はないだろう。

 うまくいけば神々に対抗できる手札にもなりそうだが、しかし原作第二部を考えるとそこまで期待値は高くない。あれはジル……というより『神の力』に対する特攻兵器のようなもの。


(だから『人類最強』の攻撃にも、有効だったわけだが)


 まあ本当に、これ以後使うことはない。


(あらゆる意味で、気配が希薄になりつつある。意識すらも尽きかけのようだな『人類最強』。これで俺の勝ちだ)


 ようやく、ようやく勝利を掴み取った──などと考えていた矢先、『人類最強』がその場から消失したことを感じ取った。


(なっ──)


 まさか一か八かで、『神の秘宝』を使用したのかと戦慄する。

 適当に対象を設定するリスクは大きいはず……いやまさか、人類到達地点半ばでも宇宙空間に飛ばされようがここまで戻れるという確信があったとでも!?


(奴の姿を見失うのはマズイ──!)


 不意打ちで奴の攻撃を直接受ければ、ジルの肉体でも耐えられない。それこそ、ハルバードで容易く両断される。


 真正面から打ち合ってしまえば、人類到達地点の真価を発揮できていない今の『人類最強』相手でも俺は簡単に死ぬのだから。


(どこだ!? 真っ先に見つけねば……!)


 そうして周囲を見渡して──まるで気配がないことに気づく。

 

「……?」


 というかなんなら、先程まであったはずの周囲を押し潰そうとしていた圧力が消えている。


(……は?)


 拍子抜けとはこのことか。

 

 本気で、本気で『人類最強』の姿が見当たらない。それこそ、帰宅したのかと考える領域である。


(本当に、宇宙空間に飛ばされでも──いや待て、帰宅?)


 ……成る程、そういうことかと嘆息した。


(任意の対象との距離をゼロにする。普通に考えれば視認してる相手を座標設定として対象とするだろうが……自分の国の座標くらいなら、訓練して身につけているか)


 だから多分本当に、奴は帰宅したのだろう。


「……チッ」


 自分が敵前逃亡をしないから、他人も敵前逃亡なんてしないだろうなどと考えていたが、冷静に考えると逃亡だって立派な戦術だ。


 いや確かに『人類最強』自身の性格を考えると敵前逃亡はあり得ないと思うが、しかし『人類最強』はマヌス最強であってもマヌスの頭脳ではない。


 上層部は『人類最強』の敗北を良しとせず、それゆえに事前に言い含めていたのだろう。あるいは、『人類最強』が取り込んでいる『神の力』を奪われることを良しとしなかったか。



(ただ正確には、あの『神の力』は『人類最強』が取り込んでいた訳ではなかったようだがな)


 違和感を抱いて探り続けたおかげで分かったが。正確には、アレは『神の秘宝』を器としてそこに『神の力』を取り込んでいたに過ぎなかった。そのおかげで『神の秘宝』の基本性能などが向上し、並行して戦闘能力が向上していたのだろう。


 まあとはいえ、『人類最強』クラスのスペックがあって初めて成り立つものだろう。最低でも、大陸最強格としてのスペックは求められるに違いない。


(そういう使い方があったとはな。しかしだとしたら器足り得るものさえあれば他の大陸最強格連中も、使えなくはないのか……? ……それはそれとして、『人類最強』をこの場で逃したのは痛いな)


 まあ良い。いや良くはないが。しかし、『人類最強』はおそらくマヌスにいることは分かっている。というより、そこしかあり得ない。


(それにしても……人類到達地点、か)


 アニメのクロエがそこに至ったときと、今回の『人類最強』。この二人の共通点はなんなのか。

 覚醒したときの状況。二人に共通している部分。心理状況。その他様々なものを比較していくことで、手掛かりは得られるかもしれない。


(人類到達地点の名の通り、人類の極致であることに違いはない。予想では大陸最強格はそれぞれ人類最高峰の才能を有しているからそこがある地点を超えて到達している状態だが……クロエは魔術だったとして、『人類最強』はなんだったんだ?)


 大陸最強格は、基本的にそれぞれが人類最高峰の才覚とそれを極めた技量を有していると俺は考えている。

 

 クロエならば魔術、シリルならば頭脳だ。


(『人類最強』と騎士団長だけは、なにも分からん。肉体の基本性能か? そして騎士団長はおそらく剣技なのだろうが……いや、しかしレイラが──)


 クロエと『人類最強』は右目に蒼炎を宿していた。それは生で見るとよく分かったのだが、『人類最強』の奥義と同じ炎。生命力だとか、そういったものの類である。


(人間の力が関係しているのに間違いはなさそうだ。『神の力』と対照的な関係でもあるのだろうか)


 いや、今はそこはどうでも良い。

 人類到達地点とはどのようにして至り、そしてどのような効果をもたらす? クロエは身体能力が急激に上昇したような描写はなかったが、『人類最強』は明らかに身体能力が上昇していた。つまり、各人によってもたらされる効果は違うということだ。


(……だがそれは同時に、人類到達地点に至る方法も各人によって異なる可能性も示唆しているのか)


 だとしたら厄介極まりないな、とため息。

 同時に、人類到達地点に関する情報が無いのも納得できてしまうのでその説が有力な気がしてくる。各人によって至る方法が違うのであれば、実用性が低すぎる。なんというか、ロストテクノロジーに近いものなのかもしれない。


(そういえばスポーツだと、一流の選手の集中力が極限まで高められた状態に至ったとき、入ることのできる無敵タイムがあった気がするが……意外と近いものがあったりしてくれないだろうか)


 まあだとすると、精神論も関係してきそうなのであまり歓迎できる話でもないといえばないが。


(……仮に俺の大嫌いな不確定要素が多すぎる精神論によるものだとしよう。だがそれも、任意に入ることができるように精神状態をコントロールする術を身につければ問題ないといえばない。大事なのは、どういうプロセスを経ればそこに至れるかだ。精神状態のコントロール程度、こなしてくれるわ)


 まあ単純に危機的状況だから覚醒する、という話ではないだろう。それなら、第一部時点で大陸最強格連中がジルに対して人類到達地点に至って撃破できたはずなのだから──誠に遺憾ながら、本人たちの精神的状態は少なからず影響していると思われる。


 まあ身近なところだと、キーランが信仰心で意味不明な領域に至っているからな。だから多分、本人の精神的要素が世界に影響を及ぼすことはあるのだろう。


(しかし、ふむ)


 仮にだが、才能というものが関係あるのだとして。

 才能に対応する分野それぞれにおいて"人類到達地点"があるのだとして──あらゆる面で人類最高峰の才能を有しているこの肉体が至る"人類到達地点"は、どういった効果をもたらしてくれるのだろうか。


「……」


 そこまで考えて、俺は視線を上げた。

 

(奴らが持っている『神の力』を確保して肉体へ取り込むのは当然として、やはり『人類最強』を配下に加えたい。人類到達地点に至っていないなら殺しても良かったが、至った以上、神々に対抗するのに必要不可欠な戦力となった。奴の目的はなんだ。どうすれば、奴を手駒にできる。原作知識と直接言葉を交わした奴の情報から、俺がすべきことを考えろ)


 まあいずれにせよ、目指す先はマヌスだ。

 治療行為に勤しんでるとして、人類到達地点の持続時間なども考えるとどのくらいのタイミングで着くのが妥当かなんてのを計算しながら、俺はマヌスに向かって飛び出した。


 ◆◆◆


「念のために仕込んでおいて、正解だったな」


 『人類最強』の肉体が限界を迎えたら、強制的に『神の秘宝』の効果を発動させる。その仕込みを、上司は『人類最強』自身にさせていた。


 任意の対象との距離をゼロにする。

 それは実のところ、対象の座標さえ把握できていれば遮蔽物すらも無視して移動可能なのだ。謂わば、転移の能力である。

 

「……意識が尽きたか。『人類最強』」


 そう言って、上司は『人類最強』の肉体を観察する。

 ……もはや、ひどいとしか言いようがない有様だった。しかも、だいぶ前から体内がズタボロだったのだろう。正直、いまだに生きているのが理解できないほど。


(……それほどのものだったか、『神を名乗る男』)

 

 もはやこれに最終術式を起動するのは不可能だな、と上司は判断して。














「ではな『人類最強』。お前では、我が宿願は叶えられん」


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『氷の魔女』はショタコン

『龍帝』は深読み好青年胃痛枠

『人類最強』はバケモノメンタル

『騎士団長』は自分のことをキーランの嫁だと思い込んでいる大国最高戦力

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