アニメのインフレの犠牲になる敵キャラに転生したが、俺には原作知識があるから問題ない〜かませ犬から始める天下統一〜

教会勢力 V ソフィアの天の術式講座

　精神が死ぬかと思った。

　成る程、ここが死地なのかと天を仰ぎかけた。

　あわや全てを投げ出してしまおうかと思った俺の意思を繋ぎとめたのは、キーランが下着に手をかけてキーランのキーランを晒そうとしている姿であり。

　正気に戻った俺は、問答無用で入門魔術の『電流（ショック）』を浴びせてキーランの動きを封じた。

「……そのような物を私に見せるな。不愉快だ」

　とりあえず、キーランはこう言っておけば大人しくなる。俺を信仰しているが故に、俺がきちんと言葉にすれば理解はしてくれるのだ。

　同様に、キーランに従って服を脱ごうとした教皇や司教達にも「やめろ。そのような信仰の形を私は認めない」と釘を刺しておく。熾天の連中にも「正気に戻れ」と叱咤をかけて自害を止め、なんとかこの場を収めた。

（……間一髪、といったところか）

　我ながら、鮮やかな手さばきである。自分で自分を褒めてやりたい。

「ボス……」

　背後にいるヘクターから、尊敬の視線のようなものを感じる。その視線のおかげで、改めて俺は「やれたんだな」という実感を得ることができた。

　優秀な部下というのは、適切なタイミングで適切な処置を施（ほどこ）すことで、上司のメンタルケアをさり気なく果たすという。今のヘクターは、まさしくその境地に達していた。

　流石はヘクター。俺の部下で最も有能な存在である。彼にはその働きに相応しい報酬を与えるべきだろう。とりあえず、年収は五〇〇〇兆円くらいで良いか。

　なんてことを考えていると。

「ジル様」

　キーランが体をこちらに向けて膝を突き、ゆっくりとその口を開いた。それを受け、俺は視線をキーランへと送る。

「御身の啓示、受け賜（たまわ）りました」

『つまり成長を果たしてから下着も脱げば良いのですね』

　こいつの脳内はどうなっているんだろうか。

　俺は心底そう思った。

　なんだろう。なんでだろうか。なんでこんなにも──俺からすれば悪い意味で──ポジティブになれるのだろうか。俺の言葉をどのように解釈したら、キーランの心の中の結論が導かれるのだろうか。

　普通に考えて、未来永劫見せるなという命令として受け取るだろう。

　どうしたら露出する方向へ思考を飛躍させることができる？　もはやこいつは俺の思い通りには使えない存在なのでは？　部下として二流なのでは？　という予感が、俺の脳裏をよぎった。

『神たるジル様に対して隠し事をするなど、これ以上なく不敬だ。しかしジル様があの発言をしたということは、他ならぬジル様自身がまだ私の全てを知りたくはないことを意味している。つまりそれはジル様が、私の全てをお認めになっていないということであり──』

　キーランの思考を追えば理解できるかと思ったが、一生理解できる気がしなくなってきたので、俺はキーラン視線を視線から外す。現実逃避と思われるかもしれない行為だが、事実その通りなのでなんとも言えない。

　……まあ正直なところ、下着を脱がないなら問題ない。下着さえ履いていれば、正直言って許せる。それも、脱衣キャラがキーラン一人だけであれば尚更。下着を履いてるのであれば、『水着が私服の不思議な男』みたいなキャラクターとしてゴリ押せるだろう。

（それにキーランがイケメンなおかげで、ビジュアル的に見るに堪えないということもないしな）

　そんな風に俺が妥協案を考えていると。キーランに続くように、教皇や司教達も俺に向かって跪（ひざまず）いた。俺がそちらに顔を向けると、彼等は一斉に口を開く。

「「「「はっ。了解致しました」」」」

『我々は服を脱ぐ前に止められ、キーラン殿は下着を脱ぐ前に止められた。つまりキーラン殿に対しては、服を脱ぐ段階まではお認めになられているということか……』

　違うそうじゃない。

『我々もキーラン殿に追いつくよう、より一層の信仰を捧げねば……。そうすれば、我々の信仰も受け取って──』

　俺にとっては大変恐ろしいことに、教会の連中はキーランと似たような思考回路を有しているらしい。

　何故だ。何故そんな見当違いな方向に思考を飛躍させてしまうんだ。というより、どうすればその方向に思考が飛躍するんだ。

（こいつらの信仰を否定したい。否定したいが……下手に会話を続けることでボロが出て、俺が神ではないとバレても困る）

　それこそ「私の信仰を拒否する神なんて、貴方は私の神じゃない！」なんてテンプレじみた行動をされたら困るのだ。

　既に彼らの思考のほとんどを理解できないのだし、教会を敵に回す展開は最も避けるべき事態。ならば現状で丸く収まりつつある以上、藪蛇（やぶへび）を突く必要はない。

　幸いにして、教会連中が服を脱ぐ信仰を示すことの拒絶には成功している。服を着てくれるのであれば、特に問題はない……はず。

（それにしても……）

　キーランだけでなく、教皇に司教達、そして熾天の心の声まで視界に入っていれば聞こえるようになったぞ……。彼らの共通点は俺に対して信仰心を抱いていることだが、これもジルの能力なのか？

（もはや原作のジルとは明らかに立場や状況が異なる状況だからなあ。特にキーランや教会との関係なんて、原作ジルではあり得ない）

　とはいえこれが仮にジルの能力だとすれば、ジルの肉体には俺が知らない能力がまだ眠っているのかもしれない。

　そして眠っているのであれば、ジルは新たな進化を遂げる可能性が大いにあるということだ。神々に対抗可能な手札は多ければ多い方が良い。ここは素直に喜んでおこう。

「異端審問は終わりだ。……そして先にも言ったが、私は『天の術式』を知りたくてこの地を訪れた。この肉体は人間のそれなのでな。せっかくの機会だ。人間の肉体で『天の術式』に触れて戯（たわむ）れるのも、一興だとは思わんか？」

　いつのまにか俺が仕切る形になっているが、しかし俺が神と思われているので自然な流れだろう。

「『天の術式』に関する情報は、どこで閲覧できる？」

　兎（と）にも角（か）にも、さっさとここから立ち去って安息を得たい。だから手早く、目的を済ませるとしよう。

（何が悲しくて、こんな変態達の巣窟に長居せねばならんのか。とっとと終わらせてやる）

　キーランの相手だけでも精神が疲弊するというのに、似たような狂人が大量発生している空間に滞在（たいざい）するなんぞ地獄でしかない。

　俺の目的は、あくまでも天の術式の入手だ。それさえ手に入れることができれば教会勢力（変態軍団）なんてどうでも良い。

　なんなら俺が帰った後に爆発して消滅でもしていてくれると非常にありがたい。本当にそうなると、邪神の討伐どうするんだよ問題が発生してしまうが。

（しかし、こいつらの扱いには本気で困るな）

　思った以上にチョロインと化した教会勢力。彼らを駒として自由に扱えるのであれば便利ではないか──とは一瞬考えた。

　彼等は変態と化したが、それさえ目を瞑れば戦闘面においても規模においても頭脳面においても優秀な組織だからである。

　うまく扱えば、大陸に散らばる『神の力』を入手することなんて簡単だろう。彼らを動員すれば大陸の頂点に位置する大国とて、容易く真正面から粉砕できるのだから。

　そして『神の力』の入手さえ終えれば、後はこの身を鍛え抜きながら来たるべき時（神々の降臨）を待てば良いだけ。

　なんて素晴らしいんだ。彼らを味方にすれば全て万事解決するじゃないか──なんて虫のいい話はあり得ない。

　前提として、教会勢力が俺の手足として動くのは、俺のことを神であると誤解してくれている間だけだ。

　なので邪神騒動までは俺の駒として使えるが、本物の神々が降臨すれば速攻で嘘が発覚するので、当然教会勢力とは敵対関係に移行してしまう。

　そうなったとき、俺の戦力として手元に残るのは俺自身とレーグルだけであり。敵側には神々に加えて怒り狂った熾天も付いてくるという悪夢だ。

　いくら俺が強くなったところで、俺と『レーグル』だけで神々+教会勢力の相手なんて不可能である。つまり、かませ犬待ったなし。原作より酷い最期を迎えるのが目に見えている。

（俺が駒にすべきなのは教会勢力ではなく、神々に屈しない連中だ。それも、原作においてインフレをしていた実績を有する連中だとなお良い。……『氷の魔女』とかな）

　なので、物騒な手段で『神の力』を集めるという方法は使えない。他国との関係が確実に悪くなるし、そうなれば俺の味方が存在しなくなるからだ。

　まあ、俺自身と『レーグル』の強化が最優先という方針に変更はないが。

　とまあ色々と脱線したが、話を戻すと。

（……不要、だな。教会勢力を駒にするのはリスクが大きい）

　敵対することが確定的な教会勢力を手足として扱うのは、あまり好ましくない。いざ戦闘に移行した時に情が湧いて力が出せませんなんて展開にならない為にも、程よい距離感を保つのが大切だ。

　教会勢力が俺に対して情を抱くことはない。なにせ、彼らは神々を絶対視しているからな。神の望みであれば、仲間でさえ切り捨てられるのが彼らが彼らたる所以である。

　だからこれは、俺の問題だ。

　今は彼らを切り捨てることになんの躊躇（ちゅうちょ）も無いと断言できるが──本来であれば俺（ジル）が死ぬ邪神騒動を生き残ることができた後の、俺の心境なんて俺自身も分からない。

　俺と共に戦ってくれた連中に対して、情が湧かないなんて断言できるはずがないのだから。

（原作を考えるとソフィア辺りは味方になってくれるかもしれないが……。いや、既に原作とは大きく状況が乖離（かいり）している。その展開を期待するのは良くないか）

　原作において、ソフィアは主人公たちと共に神々と戦う立場に着くことを決心していた。

　しかしあれは、彼女が第二部で主人公と愉快な仲間達との交流を経て、なおかつ自分の理想と現実との乖離具合やらその他様々な要因があったから、神々との訣別を選べたというだけのこと。

　……惜しくないと言えば嘘になるが、教会勢力を手足として用いるのは禁止だ。今回『天の術式』の情報を得るために利用するだけ利用して、一方的に縁を切らせてもらおう。

　──と。俺が思考を終えた瞬間だった。

「天の術式に関しては、私が」

　そう言って、ソフィアが俺の足元に跪く。

「御身への助力。見事に果たしてみせます」

　彼女の背後から残る熾天の二人が、凄まじく殺意の篭った視線でソフィアを睨んでいるが、彼女は臆した様子もなく平然としていた。強い。

『この小娘が……その役目は私に相応しいに決まっているだろう。何様のつもりだ』

　お前（キーラン）はそもそも神代の魔術使えないだろうが。

「元より、御身（おんみ）の目的は私が聞き受けていたもの。故にこそ、最後までその大任に務めさせていただきたく存じます」

『私は恐ろしいまでの無礼を働いてしまっていた……だというのに、寛容にもお許しをいただいた身。この身の全てを、神に捧げると今一度誓おう』

　……確かに、俺は彼女に対して「神代の魔術を知りたい」と言ったな。

　心の声は他の連中と比較すれば非常にマシだし、表面的な性格も俺が一番相手しやすいのは彼女。ここは彼女に任せるとしよう。

「良かろう。貴様に私に知識を授ける栄誉を与える」

「はっ！」

　嬉しそうな声だ。

　その感情は声だけでなく雰囲気からも伝わって来るので、こちらとしても気が楽になる。

　戦力的にも魅力的な人物なので、願わくば彼女が本当の意味で味方になってくれたり……まあ、しないよな。

　◆◆◆

　『天の術式』。

　ただの人間であれば、知識の一端を閲覧するだけでも即廃人コースとされるそれ。

　その真偽は魔術大国が大量の廃人を輩出することで証明されており、それ故に魔術大国以外の人間からすれば『天の術式』の情報を欲するなど、欲しいと考える時点で狂人扱い確定である。

　実際問題、俺の行動なんて何も知らない第三者から見ればドン引き案件だろう。

　廃人待ったなしとされる『禁術』の知識を得る為に、こちらを簡単に殺害出来る勢力の拠点へと真正面から乗り込み、しかもその新勢力は神の為であれば何でもやる狂った人間の集団で、そんな集団に対して自分を神と錯覚させることで禁術の知識を手に入れようとする。

　……改めて言葉にしてみると、マジで頭がおかしい人間としか思えない行動だった。

（俺は狂人だった……？）

　いや俺の場合、一応勝算があったのと原作知識を保有していたから実行しただけなので、そんなことはない。その辺の思考停止魔術狂いとは違う。絶対に、違う。

　まあ勝算があるとはいえ、原作においてジルが『天の術式』を扱ったという設定や描写は存在せず、故にそれを閲覧することに僅かばかりの不安を抱いていたのは、元々は一般人でしかない俺にとって当然のことで。

「──という仕組みになっています」

「……ふむ。成る程な」

　それ故に、知識を問題なく得ることができている現状に、これ以上ないほどの安心感を得ていた。

（天の術式。単純に魔術とは動力源が異なるだけと思っていたが……身体に不可視の術式を刻んでそこに『神の力』を流し込むシステムによって、最初から詠唱が不要な仕組みになっているのか。誰でも無詠唱で行使可能な魔術とは、便利だな）

　神代の魔術に儀式だとか詠唱だとか、そんな下準備は必要ない。事前に肉体に術式を刻んでさえおけば、あとはそこに『神の力』を流せばノータイムで発動してくれる素敵な技術。無詠唱で行使することが難しいとされている魔術とは、全くの別物だ。

（まあ、肉体に術式を刻むという行為そのものが、中々面倒らしいが）

　とりあえず私の身体に刻んでいる『天の術式』を可視化させますね、なんて口にしたソフィアが俺の前で鎧を脱ごうとし始めた時は、内心で激しく動揺してしまった。

　勿論動揺なんてすればジルのイメージ崩壊待ったなしなので、表面上は「必要ない」と無表情のまま冷たく口にしたが。

（ソフィアの裸体を目にしてもポーカーフェイスを崩さない心構えくらいはしておくべきだったのかもしれないが、そもそもそんな事態が起こるなんて想像できる訳ないだろ）

　少なくとも俺はできなかったので、裸体を拝見するという不測の事態が起きる前にソフィアを止めたのである。

　……惜しいことをしたかもなんて思っていない。決して。いや本当に。全く、本気で思っていない。

「一つ訊（たず）ねるがソフィア。貴様は全ての術式を、扱えるのか？」

「いえ私は勿論、他の熾天も全ての術式は扱えません。使えるのは、自分に適性のある術式のみです……」

　段々と小声になっていき、ついには捨てられた子犬のような瞳を浮かべるソフィア。

　とてつもない罪悪感と謝罪意欲が襲ってくるが、俺は「そうか。だが気に病む必要ない。これは単純な確認故にな」とだけ口にし、

「して、今の時代においてその適性とやらはどうやって判別する？」

　流石に一個一個術式を体に刻んで発動できるかどうかを確かめる……なんて手間のかかる判別方法ではないだろう。

（もしそうだとしたら、俺は何日この教会に滞在しなければならないんだ）

　恐ろしい。狂信者たちとそれだけ同じ空間を過ごさなければいけないなど、考えるだけでも恐ろしい。

「それぞれの系統の初歩的な術式を一度肉体に刻み、同時にその全てへ『神の力』を流し込むことで、自分の属性が判別できます」

　なるほどな、と俺は頷いた。それで起動できた術式と同系統に属する術式が、自分に適性のある術式という訳だ。初歩的な炎系統の術式が発動すれば、炎系統の術式は全て扱えるという感じだろう。

「よろしければ、私が御身に術式を刻みますが」

　いかがなさいますか？　と視線で尋ねてくるソフィアに了承の意を示す。

（餅は餅屋だ。失敗したら時間の無駄だし、専門家に任せよう）

　そんなことを考えながら、俺は上半身の服を脱ぎ捨てる。鍛え上げられたジルの肉体が露わとなり、それを見たソフィアは神妙な顔をして頷いた。

「………………では、失礼致します」

　と言ったのに、彼女は俺の側に来てから一向に動く気配を見せない。

　綺麗な銀色の髪が視界いっぱいに広がっているし、とても良いにおいがするのに、そこからなにもじょうきょうがへんかしない（知能指数低下）

『わ、私としたことが失念していました……。神のお身体に術式を刻むということは必然、私は神のお身体に触れる必要がある……。私なんかがこの完成された肉体に触れるなんて……そ、そのような不敬が許されるのか……？　し、しかし既に神は私の言葉に了承の意を示して下さった……それに至る過程でお身体に触れることに対して疑問を挟むというのが既に不敬なのでは……やはり、私はこの場で自害すべきなのでは……』

　──俺はいつから、熾天討伐RTAを再開していたんだろうか。

　先ほどまでは緊張感やら何やらで精神がトリップしかけていたが、しかしソフィアの心の声で正気に戻る。なんでそう、すぐ自害しようとするんだ。

　俺は目を瞑（つむ）って彼女の存在を視界から外すことで己を正気へと戻し、そのままなんとか言葉を紡いだ。

「……ソフィア。貴様に、我が肉体へ触れる栄誉を許す」

「！　は、はい！　直ちに、術式を刻ませて頂きます」

　直後、俺の肉体に触れるソフィアの指。

　冷たい。そしてなんか柔らかくて気持ち良──待て待て待て待て。ダメだ、目を瞑っているせいで余計に精神が飛びそうだ。

（こういう時、素数を数えたらなんとかなるとは数多の先人達（ラノベの主人公達）の言葉）

　その言葉を信じるならば、素数を数えさえすれば俺は冷静な状態を保てるようになるのが道理のはず。

　そう思い立った俺は冷静さを取り戻すべく、脳内で素数を数え始める。

（あれ、素数ってなんだっけ。まずい、冷静じゃないからど忘れした。人類最高峰の頭脳なのに、中の人が俺だからど忘れした）

　が、ここで俺は痛恨のミスを犯した。

　素数を数えればどうにかなるというのは、ソフィアが俺の肉体に触れる前であればどうにかなるということであり、ソフィアが俺の肉体に触れた後だと、どれだけ素数を数えようがどうしようもないのだ。

　だが、既に遅かった。ジルの肉体を有している俺とはいえ、精神は一般人な俺のものでしかない。

　俺ごときが、このような状況でまともな思考回路を維持できるはずが──

（……侮るなよ）

　──なんてことは、あってはならない。

　俺は神々と敵対し、かませ犬にならないと誓ったんだ。

　その俺が、こんなところで屈して良い訳がない。

　かつてないほどの集中力が、静かに発揮される。

　その集中力は俺からまともな思考を取り戻し、素数の概念を理解させ、なんだかんだあってフェルマーの最終定理を解くに至った。

（……なんとか乗り切ったな）

　フェルマーの最終定理を解く頃には、ソフィアの作業も終わっていた。

　今の俺ならソフィアにフェルマーの最終定理について詳しく語って理解させる自信があるが、そんなことをしたら意味不明な狂人すぎるので胸の内にしまっておく。

「ソフィア、よくぞ私からの任を果たした。大儀である」

「はっ！　お褒めに預かり、光栄でございます！」

「……では、やるぞ」

　誇らしげなソフィアの顔を見て、俺はボロを出さずに乗り切れたことを確信する。

　かつてないほどの達成感。その達成感は俺に自信を与え、その自信が告げるままに、俺は『神の力』を肉体に刻まれた術式の全てに巡らせ──

「えっ」

　──全ての術式が反応して、部屋が爆発した。