第5話 進化

『敵がいるな。しかもこっちに向かっている』


 暗闇の中、廊下の奥を見て俺は言う。

 二人には見えないが、俺には相手の名前とレベルが見える。そして文字は徐々に大きくなっている。


『人質を確認に来たってところかな』

「どうするの?」

『俺に案がある』


  ◇ ◇ ◇


 まずはミルモが敵を呼び、部屋へと誘導。

 部屋へ入ってきた敵を隠れていたルナが背後からフライパンで殴打。


 それを三度ほど繰り返して、レベル上げ。

 敵の方が強いので経験値も沢山手に入った。


『よし。もうここに近づいてくる奴はいないな。二人とも出るよ』


  ◇ ◇ ◇


 階段の近くで敵と遭遇したが。


「まさか倒せるとは?」


 ルナは声を震わせて言う。驚きの震えか、はたまた戦闘への震えか。


『ほら言った通り、大丈夫だったろ?』

「ええ。でも、どうして?」

『俺にはレベルが分かるのさ。それにステータスも見れるしな』


 だからこそ相手の実力が分かり、ルナが倒せるかどうかが判断が出来るのだ。


 今のルナはレベル15。ゴロツキも所詮はゴロツキ。大した実力はない。


 このままいける。ここにはもうゴロツキしかいないだろう。


 そう思っていたんだが──。


「あのう、ボスって感じなんですけど」

『正確には後ろに隠れているデブ貴族が親玉で、前にいるのが用心棒だ』


 親玉のデブ貴族は弱い。なんならミルモで十分。


 だが、用心棒が厄介だ。


 紙袋のようなマスク被り、上半身は傷痕のある裸、下半身はダメージ系半スボン。そしてサンダル。手には鎖の付いた鉄球。


 レア:HR

 レベル35。

 武器:鉄球。

 スキル:オーバードライブ

 効果、攻撃力が上がる代わりに防御力が下がる。


「用心棒! 二人を捕まえろ」

 デブ貴族が命令を出す。


「シャアーーー!」


 用心棒は雄叫びを上げ、鎖振り、鉄球を回す。

 そして鉄球を振り下ろす。


『避けろ!』


 ルナは辛うじて鉄球を避ける。


「どうするんですか?」

 ルナは悲鳴じみた声を発する。


 鉄球は床にぶつかり、床に大きな穴を開ける。


「こんなの当たったら、ひとたまりもありませんよ」

『……今は避けろ』

「ええ!?」

「姉ちゃん頑張れ!」

 ミルモが後ろから応援する。


 用心棒は再度鎖を振り回して鉄球をルナへと当ててくる。

 ルナはなんとか躱す。


「ええい! 何をやっている用心棒! 普通に殴れよ!」

 と、貴族が助言を放つ。


 用心棒はその助言通りに鉄球を地面に捨て、ルナへと殴りにかかる。


「きゃあ!」


 ルナは敵の拳をフライパンで受け止める。

 フライパンは大きくへっこみ使い物にならなくなる。


『仕方ないここらへんでいいか』


 多分大丈夫かな? ……多分。


「何かあるんですか?」

『まあな』

「なら早く!」

「おい! お前、さっきから何独り言言っているんだ?」

 デブ貴族がわめく。


『進化だ!』


 俺は進化確認画面を呼び起こし、Yesを選択。

 するとルナの体は光り輝く。


「なっ、なんだ!」

「むう!」

 貴族と用心棒は手を前に出して、光を遮る。


 光が弱まり、新たなルナの体が現れる。


『ん? あんまり変わってない? いや、は上がっている。うん。ステータスも上がっている』

「どうしたんですか?」

『とりあへず、そこの用心棒を殴ってみな?』

「へ?」

『いいから』

「はあ?」


 ルナが殴りにかから前に用心棒が突っ込んできた。

 ルナは避けつつ、すれ違い様に背中を凹んだフライパンで叩く。


「グワッ!」


 相手は悲鳴を上げ、腰を屈んで地面に手をつく。


「えっ? ええ?」

「グッ、アアアァァァ!」


 用心棒は雄叫びを発して立ち上がる。

 そしてルナへと拳を振るう。


「きゃっ!」


 ルナはフライパンでガードする。


『殴って、殴って』

「ええい!」


 ルナは用心棒の頭にフライパンを当てる。


 用心棒の動きが止まる。


 ゆっくりフライパンを引き剥がすと用心棒は後ろへと倒れた。


「あら? 倒した?」

『うむ。みご──』

「動くな! 動いたらこの娘の命がどうなってもしらんぞ!」

 デブ貴族はミルモの首に腕を回して言う。


「ミルモ!」

『バカな男だ』

「てや!」


 ミルモは相手の腕を引き離し、そして投げ飛ばす。


「グファ」

「レディに失礼な貴族ね」


 レディは簡単に人を投げ飛ばしたりしないと思うが。


  ◇ ◇ ◇


「でも、どうして姉ちゃんはあの用心棒を倒せたの?」

『それは進化だ』

「進化?」

『レア度が上がったんだ』

「レア度?」

『……要はパワーアップしたと思ってくれ』


 そう。レア度が上がればステータスも上がるというもの。しかも、ルナはSSRでレアが上がったことによりURへと上がったのだ。

 さすがにURとなればレベルが低くてもステータスは高い。HRなんて目じゃない。


「じゃあ、なんで最初から進化しなかったのですか?」

 ルナは不機嫌に言う。


『条件があったからね』

「条件?」

『うん。進化には使用者との時間が必要でね』

「そうなんですか?」

『ぎり間に合ったよ』


 進化には育成開始から最低十分は必要となっていた。しかも一度ミスするとまた十分かかる。そしてこの世界には時計がないから十分経ったかどうか正確に分からなかった。


 だから、俺は余分に時間を取ったのだ。


  ◇ ◇ ◇


 俺達は屋敷の外に出た。

 すると屋敷の外にはゴロツキ達数名いた。そして地面にはボコボコにやられ、縄で縛られた尾行メンバーの仲間二人が倒れている。


『ルナ! 倒すんだ!』


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