第2話 育成オーブ
あれ? 急に暗くなった。
『どこだ? ここ?』
ん? 声が出せない?
あれ? 口が。それに足が……腕も……ない。
ここどこ?
『おーい! 誰かー! 誰かー! おーい!』
…………。
返事がない。
◇ ◇ ◇
どれくらい時間が経ったのだろうか。
真っ暗闇だから時間が分からない。
1日は経っただろうか?
それともまだ半日?
時間を確認できないのが、こんなに心苦しいとは。
『おーい!』
駄目だ。返事がない。でも、それもそうだろう。だって口がないんだもん。心の声で呼びかけているだけだし。
『おーい! 誰かー! 誰でもいいから助けて』
そんな時、光が! 横一閃の光が。それは太くなり四角い光となる。いや、四角い穴だ。
そして手が伸びて、何かを手にしたようだ。
俺は引っ張られ、暗闇の世界から脱出された。
「あなたが助けを呼んでたの?」
とてつもなく大きな少女が聞く。
『君、声が聞こえるの?』
「うん。頭に言葉が入ってきて」
『ありがとう。それより君、でかいね。巨人の一族?』
「失礼ね。あなたが小さいのよ」
『小さい?』
少女は手鏡を俺に向ける。
「これがあなたの姿よ」
そこに映し出された姿は赤い宝石の首飾りだった。
『嘘だろ?』
◇ ◇ ◇
どうやらオーブとは宝石のことらしい。そしてそれが今の俺の姿。
少女曰く、この首飾りは少女の祖母の形見らしい。それで箱に入れられ、クローゼットの奥にしまわれていたと。
そしてもう一つ分かったことがある。
少女が俺を手して顔の高さまで持ち上げると少女の頭の上に名前が出る。
ミルモ
さらにじっと名前欄を見つめていると数字が少女の顔の右に現れた。
レア:R
レベル:3
HP:37
MP:13
ATK:7
DEF:4
INT:2
RES:3
AGI:9
LUK:10
ジョブ:パン屋の娘
スキル:なし
アビリティ:なし
〈育成しますか? Yes/No〉
ゲームをあまりしない自分でもこれはRPGのステータスだと分かる。ただし英語なのでHPからDEFまでは分かるが、そこから下は何を意味しているのか分からない。
そして〈Yes/No〉があるがどうすればいいのか。
タップはできんし。念じてみればいいのか?
Yesを念じる。
すると〈Yes/No〉が消えて、〈装着〉と出た。
「それであなたは首飾りの精なの?」
ミルモが俺に問う。
『まあ、そんなとこかな。正確には育成オーブなんだけど』
「育成オーブ?」
『俺を身につけるとレベルが上がりやすいってことかな』
「レベル上げって何?」
あれ? 知らない?
『レベルっていうのは成長を数字化したものかな?』
「ふうん」
よく分かってないような反応だ。
よし! 百聞は一見にしかず。
『試しにレベル上げしてみる?』
「うん」
『まず装着してくれ』
ミルモは俺を──というか首飾りを着ける。
〈装着〉から〈育成開始〉に変化した。
うん? 前を向いていないのに文字が出ている。
俺の視界に右端に装着者名が出ている。もちろん名前はミルモである。その下にレベル、HPバーとMPバー、そして詳細がある。
なんか本当にRPGゲームだな。
◇ ◇ ◇
家は表がパン屋で裏が母屋になっているらしく、
「姉ちゃん、ちょっと出掛けてくる」
と店番をしていた女性にミルモは言う。
客はいないらしく、姉ちゃんと呼ばれた女性は椅子に座り、両肘をついていた。
女性の名はルナという名前らしい。これも頭の上に現れた文字で知った。ステータスだが、それでも女性プライバシーを覗き見るようで後ろめたいが確認させてもらった。
「どこに?」
「町の外。モンスターを退治するの?」
「駄目よ。そんな危険なこと。怪我をしたらどうするの?」
ルナは慌てて妹を強く諌める。
まあ、確かに小さい子供にモンスター退治なんて許可はできないだろう。
「大丈夫。弱いやつ狙うから。この首飾りを着けるとねレベルが上がるんだよ」
「レベル?」
「うん。首飾りの精がそう言ってる」
『どうも』
「ほらね」
「ええと、首飾りの精? 何言ってるの?」
「でも首飾りの精だって」
『お姉さん、信じられないかもしれま──』
「もう! 馬鹿なこと言ってないで後片付けはしたの?」
「したよ。だからレベルを──」
『ミルモ! どうやらお姉さんは俺の声が聞こえていないらしい』
「え? そうなの? ねえ、姉ちゃん、首飾りの声が聞こえない?」
『正確にはオーブが本体なのだが』
「? 聞こえないわよ。さ、後片付けをしたらお母さんの手伝いをしてなさい」
と言って姉のルナはミルモの背を押し、母屋へと向かわせる。
『ふむ。聞こえないのか』
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