転生したら育成オーブでした。

赤城ハル

第1話 異世界転生

 どこだろうか。

 いつの間にか暗い世界に俺は立っていた。


 群青色の世界。


 床はある。それ以外は何もない。


 ここに来る直前の記憶もない。

 思い出そうとすると記憶に靄がかかる。


 そこへ数メートル前方にライトが放たれる。

 急な光で俺は反射的に目を細め、遮るように手を目の前にかざす。

 光に慣れ、ゆっくりと目を開き、前方を窺う。


 そこには白い翼を生やした二人の少女が浮かんでいた。


 目が合うと。


「カブちゃんでーす!」

「ミカちゃんでーす!」

『二人合わせてガブミカでーす!』

「…………」


 なんだ?

 誰?


 それにどうやって浮かんでいるんだ。ワイヤーか?


「本物ですよ」

 金髪の女の子が俺の心を読んだように答える。確か、名前はカブちゃんだっけ。


「ここはどこ?」

「狭間の世界ですよ」

「はざま?」

「天界と下界の狭間だよ」

 くるくる茶髪の女の子ことミカちゃんが答える。


「どうして?」

「それは死んだからだよ?」

 さも当然でしょとミカちゃんが答える。


「死んだ……俺が!?」

 俺は自分を指差して聞く。


「覚えてないの?」


 もう一度、直前の記憶を思い出そうとする。


「…………」


 駄目だ。直前の記憶が思い出せない。


 ええと、今日は11月13日で、俺はいつものように出社して、昼は牛丼屋で昼食を食べて、その後はいつものように仕事をして……夜はサビ残で……コーヒーを飲もうと立ち……。


 そこで視界の記憶が反転した。


「立ちくらみで倒れた? もしかして当たりどころが悪かった?」

「違うよ。過労死だよ」

「ご愁傷様でーす」

「……まじか」


 ショックで俺は床に尻を着ける。


「まあまあ、そう落ち込まないで下さい」

「そうだよ。ここは狭間なんだから」

「そう言えば狭間がって言ってたね。どういうこと?」

「チャンスです」

「転生チャーンス!」

「転生?」

「はい。苦労だけして、何の楽しみもなかった貴方に転生の権利が生まれたのです」

 カブちゃんは喜ばしいことのように手を叩いて言う。


「それって蘇りってやつか!?」

「いいえ。異世界転生です」

「異世界? 何それ?」

「異世界はファンタジー世界です」

「つまり俺はファンタジー世界に転生するってこと?」

「そうです。物分かりが良くて助かります」

「ではスロット開始!」

 ミカちゃんがスロットを置きます。


 あれ? どっから出した?


「てかスロット?」


 しかも普通のスロットは三つの回転マスがあるけど、これは一つだけ。


「これは特注のスロット」

「見た目以上に多くの目があるのでご注意を」

「何それ?」

「普通には転生できませーん」

「スロットが止まった目が転生後の姿です」

「姿? どういうこと?」

「人間だけでなく獣人やエルフになるよ」

「中にはカッコいいドラゴンやスライムまであるよ」

「さあさあ、回しますよ」


 と、ミカちゃんは上部のボタンを押してスロットを回します。


「横のレバーを下げて止めてね」


 仕方がない。


 回転に目を慣らし、そしてここが来たら引くというポイントを見極める。


 しかし、本当に多いな。


 人間と書かれた目がなかなか現れないぞ。

 てか、幽霊があるぞ。

 転生が幽霊って矛盾してない?


「まだですかー?」

 ガブちゃんが焦ったくなって尋ねてきます。


「もう少し待って」


 …………。


 よし! ここだ!


 俺はレバー引いた。


「……えっ! オーブ!?」


 オーブって何?

 ええと鬼? いや、あれはオークだ。これはオーブ。

 んん? どっかで聞いたような単語なんだけど。

 あれ? 天使達が固まってる。


「ねえ、オーブって──」

「さあ! 次は能力です!」

「能力次第では初っ端なから俺つえー状態!」

「ねえ、オ──」

「ミカちゃん! スロットを!」

「あいあーい」


 二人は俺の質問を無視して進行する。

 そしてミカちゃんはまたしてもどこからかスロットを取り出して置いた。


「さあ! スタート!」

「時間がないので、なるはやで!」


 仕方ない。

 俺はレバーを引いてスロットを止める。


「育成」

「……これまた珍しいものを」

「育成。自分ではなく他人の……」


 二人の声色が低いんですけど。


「ねえ、これって大丈夫なの?」

「では転生スタート!」

「見事活躍して下さーい」


 俺の体が白く発光し始める。


「ねえ? オーブで育成って、どうなるの?」

『…………』

「ねえ、なんで答えないの?」


 俺は二人に詰め寄ろうとするも先に白い光が強くなり、視界も真っ白に。


「眩しい!」

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