ゆっくり母になる

@meyer

第1話 子どもの本能

先日から義両親が泊まりに来ていて、4歳の娘の茉莉(マリ)はずっとテンションが高く、落ち着かない。

まだ9ヶ月の息子、洸(コウ)は義両親に会うのは4回目で、義母の顔を見て笑ったかと思えば次の瞬間には一丁前に涙をポロポロ流して泣いている。もう人見知りの時期のようだ。


私はというと、すでに義両親に気を遣うこともなくなり、茉莉が義両親に懐いているのを良いことに、義母に娘の風呂や歯磨き、食事の世話をさせたりしている。

姑からしてみれば酷い嫁である。


このように、いつもと違う環境に子どもが興奮すると、夜泣きがひどくなる。

旦那と義両親が団欒の時間を過ごしている中、私は夜泣きする子どもを寝かしつけるために何度も何度も寝室とリビングを往復した。

ようやく夜泣きが落ち着き、風呂に入ることができた頃にはみんなは寝静まり、おもちゃが散らかった部屋とコップだらけの洗い物が待っていた。


おもちゃを拾い集め、所定の場所に返していると、1枚のはがきが落ちているのが目にとまった。

それは宛名のないはがきで、裏面にはクリスマスツリーの絵が印刷されており、お気に入りのシールとお気に入りのペンで飾り付けされた茉莉の渾身の1枚だった。


義両親が来る前に2人にお手紙を書くと意気込んで、字の書けない茉莉は上手くハートが描けない苛立ちを私にぶつけながら2枚のはがきを作成していた。

そして、乱雑な床に落ちていたはがきは義母に書いたものだった。

そのはがきを見て、私は胸がぐるぐるして、子どもの健気さが愛おしく、美しいと感じた。


義母は息子の洸が生まれてから、しばしば茉莉の前で洸を抱いて可愛がった。そのため、以前のように遊んでくれることも無くなっていった。

赤ちゃんは特別に可愛く、儚いものだし当たり前だ。

でも、茉莉にとってそれは当たり前のことではなく、自分1人に向けられていた義母からの無償の愛が弟に移ってしまったような感覚だったと思う。

それからというもの、義両親がうちに来ると決まってお風呂やお昼寝、ご飯と何でもかんでも義母に世話を焼いて欲しがった。

しかし、今回ばかりは茉莉の様子が違う。

手紙をプレゼントをしたり、今まで甘えてやってもらっていたことをひとりでやりたがったのだ。

––––––そう、褒めてもらう作戦にシフトチェンジしたのだ。

どうやったら喜んでもらえるか、褒めてもらえるかを短い人生経験をフルに思い返し、実行している。

前は誘わないとやらなかったキッズワークを黙々とやってみたり、何にも言わずに1人でトイレに行ってみたり。


4歳にして、愛情を得るために自分なりに創意工夫をして、必死に自分のポジションを守ろうとする姿に敬服せずにはいられない。

明らかにスルーされようが、棒読みでわざとらしく褒められようが、彼女にとってそれはトライアンドエラーの真っ最中なのだ。


イヤイヤ言っている子もトライアンドエラーの真っ最中で、ただ気の引き方を間違っているだけに思える。

母親がイライラすればもっと気を引こうとイヤイヤが悪化するし、他にも気の引き方があることに気づけば自然と収まっていく。

そう考えるとストンと腑に落ちる。


愛されたいと思うのはきっと子どもの本能なのだろう。

彼らは愛されなければ世話をしてもらえず、死に直結してしまうか弱い存在なのだ。

子どもの、その健気で一途なところが私はたまらなく好きだ。


明日、茉莉が起きたら1番に抱きしめておはようを言おう。

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