第16話 ティーグリュガリアの女傑
まだ〝
主力を温存しつつ敵戦力を
ちょっかいに応じず、釣り出す事ができなくなってからが、中盤であり本番。
レイドで指揮を
遠距離攻撃能力を有する『
〝種〟から出てきた『
これが、情報を蓄積して学習し、下位種を統率する能力を与えられた『
だからこそ、〝種蒔き〟によってエルフの非支配領域に落とされた〝種〟を
そして、今回の〝種蒔き〟に際して、最寄りのベルドベルを
指揮権と対スカベンジャーの切り札を預けられた《リンガイア傭兵騎士団》――クリーチャーによって滅ぼされたリンガイア王国の生き残り達によって結成されたランクA傭兵団――の団長の指示が、通信用霊装を所持した同団員達を
――その〝種〟が派手に爆裂飛散した。
『――はぁッ!!!?』
「何だッ!? 何が起こったッ!?」
「まさか、新手の攻撃……ッ!?」
驚愕し、困惑し、戸惑い、
そんな彼ら彼女らは、雨のように降り注ぐ緑の体液に混じって、大小無数の鉱物っぽいものや肉片ぽいものが落下して来る空を
「…………あっ、――
いち早く我に返った者の声が
――時はしばし
「なぁ、アーシェラ」
通常の
昔の人は言った。〝聞くは一時の
レイド初参加の龍慈は、分隊長に、
「どうせ走るなら、この機会に全力疾走してみようと思うんだけど、良いかな?」
忘れられた城でも
一ヶ月の修行で、身体強化も上達したはず。なので、試してみたい。
それに対して、
「ちゃんとついて行くから、私の事は気にしないで」
他の傭兵達は、点在する巨岩を遮蔽物として利用しながら進むのだろう。
だが、〔
そして――
「――
分隊長の号令で、
「――突撃ッ!!」
その声が響いた瞬間、その場から龍慈の姿が
――龍慈は思う。
もしそうだったなら、自分は、
だが、この世界はそうではない。
【理外の金剛力】に加えて全身全霊の身体強化によって増幅された超絶的脚力が、その巨躯を一歩で亜音速に到達させ、次の一歩で音の壁を突き破り、その次の一歩で更なる超音速の世界へ。
走り出した瞬間、背中で、バッ、と勝手に広がった〔守護のマント〕が自動車のリアスポイラーのように気流を整える事で空気抵抗を低下させ、躰が浮き上がるのを抑制し、走行を安定させ、今この時、かつてない疾走感
1歩目から2歩目までの距離より、2歩目から3歩目までの距離のほうが長く、3歩目から4歩目までの距離のほうが更に長く…………
そして、【
「――ぬぅんッ!!」
〝種〟を貫通し、不運なクリーチャー共を
「あぁ~……、なんてこった……~っ!」
ザァ……、と雨のように降り注ぐ緑の体液に混じって、ポトッ、ボトボト、ドンッ、ズシンッ、と大小無数の鉱物っぽいものや肉片ぽいものが落下して来る空を
見れば、地上に出ていた部分のほとんどがなくなっていて、地面付近の残っている部分も
こんな事になるとは思いもしなかった。ただ全力疾走したかっただけなのに……
龍慈は、ふと、突然
「……ん? ――おい相棒ッ!?
自分の意思とは無関係に、〔
「いったい
走り出した時と走っている最中は持っていなかった。これは間違いない。という事は、〝種〟の
「――オイお前ッ!!」
不意に
すると、5メートほど離れた所にいたのは、北西の陣地へ振り分けられる前に見かけた、個性を出している者達が多い上位の傭兵達の中にあってひときわ異彩を放っていた有名人。
あの時、ラーゼンが教えてくれた名前は、確か、『リムサリア』。
高度に洗練された戦闘術と狩猟術を代々受け継ぐ戦闘部族《ティーグリュガリア》の次期族長と目されている一族最強の戦士にして、部族の精鋭で構成された《剣の牙》小隊の隊長。
年の
主武装は弓だが、腰の後ろには
その周囲には、同じトライバルタトゥーと獣耳と尻尾からして同族と思しき得物を手にした男達の姿もあったが、屈強ではあるものの身長は180あるかないかといったところで……
――それはさておき。
そんな、アーシェラとはまたタイプが違う絶世の美女の目が向けられているのは、龍慈が、というより、〔
「それッ! スカベンジャーの
「何ですと?」
両手で持ち、
〝マザー〟の核によく似ているが、あれと比べるとだいぶ小さい。あちらはアーシェラが余裕で納まるサイズだったが、こちらは
屍喰型は、工廠型と共に成長するらしい。なら、それに
「うぅ~む……」
そんな事を思案し、首を
「それを置いて下がれッ! この〔流星の矢〕なら
そう言うなり、
それに対して、龍慈は、
「へぇ~。なら、その前にちょっと
そう言うなり、
「――ふんッ!!」
ガシッ、とそのほぼ中央に両腕で
左腕には〔神秘銀の機巧腕〕を装備しているので
大きな二つの
それを見て、
『…………はぁ?』
獣人達は、
「ふむ」
龍慈は、自分の推測はやはり
「そんなバカな……ッ! ――まさかッ! その
リムサリアも、力を抜いて矢を番えたまま弓を下ろし、始めは仲間達と同じように
「スカベンジャーの核は、この世界の武器や魔法では
「そうなのか。――ん? って事は…………あっ!?」
〝マザー〟の時も、今も、
それは、
衝撃を逃がせない状態で力を加え続ければ破壊する事ができる、という仮説を立証するには、〔神秘銀の機巧腕〕を装備していない状態で実行しなければならなかったのだ。
「うぬぅ~っ」
ついさっき得るに至った確信は何だったんだ、と
「……まぁいいか」
検証はまたすれば良い。少なくとも、霊気を消失させてしまう呪いがなくとも破壊する事ができるのだという事だけは
〝種〟ごと工廠型が破壊されたのは一目瞭然。
ついでに、屍喰型の核は、今、目の前で破壊された。
通常のレイドなら、これで終了。――だが、
「――
今回は、とある巨漢の暴挙によって
そして、従来であれば、護衛として工廠型から
その動きは、統制が取れているようには見えない。おそらく、個々が勝手に獲物を求めて行動しているのだろう。
仲間を攻撃する
「――姐御ッ!!」
獣人男性の一人がそう声を上げた直後、付近に落下した物の中で一番大きな〝種〟の残骸、その陰から飛び上がった
『
そんな猟兵型が、気配を殺し、〝種〟の残骸を遮蔽物として利用しつつ獲物との距離を詰め、襲い掛かり――ズガァアァンッッッ!!!! と
それを成したのは、龍慈。
右手で
「おっと。余計なお世話だったか」
金棒を肩に
それは、助けるつもりだったリムサリアが、その存在に気付いていたのか、それとも反射的な行動かは
龍慈が手を出さなくとも、直前まで自分がいたはずの場所に着地した猟兵型に至近距離から必殺の矢を
「――騎兵型が来たぞッ!」
また別の声が響き渡り、龍慈と、一撃で易々と猟兵型を撃破した瞬間を
ドドドドドド……、と足音を
その先頭にいる『
攻撃用と移動用――
「――
あの数に、あの勢いのまま、突撃を食らったらマズい。自分達は今、突出している。だからここを目掛けて
そんな判断からの指示に、獣人達は即座に従って
リムサリアが思わず足を止めて振り返ると、自分よりも背が高い大男の巨大な銀の左腕が、
――ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ…………ッ!!
その光の
「へぇ~っ、この距離じゃ
それを見て、ちょっと驚いたようにそう
――ドゴンッ! ゴチュッ! ズガンッ!
――ヴヴヴヴヴッ、ヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ、ヴヴヴヴッ!!
小枝のように軽々と振り回される長大な金棒の一撃は、
一匹始末したら次へ、始末したら次へ、次へ、次へ…………その行動には恐ろしいほどに
思わず足を止めて振り返り絶句している獣人達の目に
「ふむ……、
熟練と言って良い見事な手並みで向かってきたクリーチャー共をあっと言う間に駆逐したというのに、大男は、金棒の先っぽで、中身がドロドロに溶けた後に残った殻を叩いて音を確認しつつそんな事を口にする。まるで、初めて騎兵型と戦ったかのように。
こいつはいったい何なんだ? と獣人達が困惑する中、
「――おっ」
大男が
今度はいったい何だ? とその視線を
それは、タイプを問わず、反撃する
それを成したのは、およそ4メートルの
「――リュージっ!」
大男の姿を
「アーシェラがこっちに来たなら、急いで戻る必要はないよな?」
まるで何事もなかったかのように平然と
「全力疾走するとしか言ってなかった。それなのに、どうしたらこうなるの?」
「なんか、もの凄いスピードが出て、ぶつかりそうなのに止まれそうになかったからドロップキックしたら、こうなった」
眉尻を下げた
しかし、それで気持ちを切り替えて、
「
龍慈は、
「やるべき事をやっちまおう」
駆除が済んでいるのはこの一角だけ。〝種〟の防衛に
龍慈は、鼻歌でも歌い出しそうな
「――オイっ!
そんな二人の背中に向かって声を掛けたのは、
「アタシは、《ティーグリュガリア》のリムサリア。――アンタらは?」
リムサリアは、
「《銀の腕》分隊。俺は龍慈。こっちはアーシェラだ」
龍慈は、名乗り返し、
「《銀の腕》のリュージ。それに、アーシェラ、か……」
二人の背中を見送り、それぞれの名を口にすると、
そして――
「――行くよッ! ついてきなッ!!」
同胞の、おうッ!! という威勢のいい声を背に受けて、二人とは逆の方向へ駆け出した。
『
投擲される糞は、一言で言ってしまうと
その炎は、水を掛けた程度では消えず、粘液を浴びてしまうと
――ドッ
その1体の外骨格を
それは〔流星の矢〕と呼ばれる特殊なもので、次の瞬間、
それを成したのは、リムサリア。
野性味
現在のところ、命中率は100%で、文字通り一撃必殺。
そして、その移動速度はあまりにも速く、
「――姐御ッ!?」
「前に
「ちょッ、ちょっと姐御ッ!?」
身体能力に優れた獣人、その中でも戦闘部族として雷名
声が聞こえていない訳ではない。それでも、止まらない、止まれない。
それ程までにリムサリアを突き動かすのは、
今も、昔も、本気の自分に、ついてこられる者はいなかった。肩を並べられる者はいなかった。
だが――
(あの二人なら……ッ!)
想像すると、どうしようもない程に胸が
らしくもなく、浮かれ、はしゃぎ…………そのせいで、つい普段から心がけている加減を忘れて本領を発揮してしまい、同胞を置き去りにして見敵必殺――視界に入ったクリーチャーを片っ端から、他の部隊が相手取っていた個体まで
――戦闘終了後。
リムサリアは、
そして、一つ深呼吸してから、
「――お前達は
唐突にそう告げた。それから、更に続けて、
「私は行く。
「ちょっ、ちょっと待って下さいよ姐御ッ! 行く、って
「
『ヨメ?』
「――じゃあなっ!!
そんな同胞達をよそに、そう告げるなり
あとに残された獣人男性達が、あっ、とそれに気付いた時には
「ヨメ、って…………嫁?」
『――嫁ぇええええええええええぇッッッ!!!?』
「ちょっと待って下さいッ! 姐御ぉッ!!」
『姐御ぉおおおおおおおおおおぉ――――~ッッッ!!!!』
必死に呼びかけてもその声は届かず、後を追いかけようにも、戦闘中、
結局、既に出発したサンドリバー
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