第14話 確かな寄る辺
傭兵ギルドを後にした龍慈達が向かったのは、ユファイ川の東側――チコルビ区にある大型
そこには、既にサンドリバー
助けを求めているようにも見えたアーシェラを見送った後、龍慈はまず、この店では買取りもやっているというので、忘れられた城から持ち出した宝石類を
結果、そのどれもが想像を超えた
ついでに、忘れられた城にあった古代王国の金貨を見せて、これは使えるのかと尋ねたところ、使えない事はないそうだが、
龍慈は、広々とした店内を見て回る。
軍資金は用意できた。しかし、今日、この店で旅に必要だと思うものを全て買い
日用品、雑貨、道具、武器、防具、薬品…………などなど、本当に多種多様な商品が取り揃えられている店内で、特に龍慈の目を引いたのは、やはりと言うべきか、魔法と科学が融合したような機器だった。
それらを見ていてふと思いつき、店員さんを見付けて訊いてみる。
「乗り物も
答えは
場所を教えてもらったので必ず行こうと心に決めつつ店内見学に戻り…………結局、龍慈は何も買わず、アーシェラは、彼女の装備に合ったデザインのショルダーバッグと、その中に納めた何かを購入した。
その際、自分のほうを見てニヤニヤする女性陣と、
――何はともあれ。
実のところ、サイズは【仙人掌】の【大の手】【小の手】で調節できるのだが、先程の店で何も買わなかったのを見て気を
他に用があるのに、少し分かり
そして、始めは、ここでも今日は見るだけにしようと思っていたのだが、欲しいと思い、こういうのが
買ったのは、長くて頑丈な幅広のベルト、作りがしっかりとしていて長さの調節と着脱が容易なバックル、
龍慈は、それを、左肩から右腰へ
そうして、ポーチにそれぞれ【仙人掌】でサイズを調節した物を入れておけば、左腕に〔神秘銀の機巧腕〕を装備していても、右手だけで中の物を取り出せる。バックパックを背負う事があれば、その時は腰に巻けば良い。
その他にも、武器や防具だけではなく、衣類や食器、調理器具、清掃用具…………などなどといった日用雑貨まで、自分にとって小さくない、使いやすいサイズの物があって嬉しくなってしまったが、衝動買いは良くない。今日のところは、ぐっと
店を出た龍慈とアーシェラは、宿泊しているホテルへ戻る前に、幾つか教えてもらった他の専門店の場所を確認するため、朝夕の稽古をするのに適当な場所を探すため、市外をのんびり散策する事に。
高身長の二人は、どこにいても目立ったが、龍慈は
――その日の夜。
団長やラーゼン達との食事や、夜稽古なども
(今夜も、たぶんするだろう。だが、その前に……)
龍慈は、一人静かに覚悟を決めた。
そして――
「リュージ……」
シャワールームから出てきたアーシェラに呼ばれて振り返り、
「…………」
あまりの衝撃に目を
いったい何にそれほどまでの衝撃を受けたのか?
それは――
「……変じゃ…ない?」
アーシェラが、大人っぽく、それでいて可愛らしいブラ&ショーツと、プロポーションの素晴らしさを
「……綺麗だ……」
人間というのは、本当に素晴らしいものを
「よかった」
胸に手を当てて、ほっとしたように微笑むアーシェラ。
龍慈は、花がほころぶが
「それ、どうしたんだ?」
「教えてもらった。これを着ればリュージだって
そんな的確過ぎるアドバイスをしたのは、サンドリバー車団の女性陣だろう。あの店でニヤニヤしていた訳がようやく分かった。
「
「
セクシーだが
そんな男心など
「……リュージ……」
はぁ……~、と息を
自分では、デカイとか、筋肉が付き過ぎているとか、戦闘しか
「アーシェラ――」
覚悟は
龍慈は、ん? と顔を上げたアーシェラの瞳を真っ直ぐに見詰めて――
「――俺と結婚して下さい」
すると、アーシェラは――
「……え?」
驚きに目を見開いて…………
そこにはもう、先程までの幸せいっぱいな雰囲気は
だが、この反応は、残念な事に、予想通り。
だからこそ、龍慈は、動揺する事なく、また、
「俺と
しかし、それに対しても、アーシェラは、小さく、だが、はっきりと首を横に振る。
「理由を聞いても良いかい?」
龍慈が、穏やかな
「……リュージだって知っているでしょう? ……私は……
古代王国の王女であるアーシェラは、かつて、彼女や忘れられた城の番人である聖獣ヴァルヴィディエルが〝
それから長い時を
しかし、その瞳や髪、
「……それでも、リュージが、当たり前のように、人として
希望を
「……受け入れてくれたから……」
共に生きて行くと決めた。〝マザー〟と共に滅びるはずだったこの命とこの力、その全てをリュージのために使い切る――そのためだけに。
だというのに、甘えてしまった。
片や、運命の女神に選ばれた使徒。
片や、〝
「……でも、本来であれば、今の関係ですら決して
「――そうじゃないんだ、アーシェラ」
龍慈には
だから、
重い、と一言で切って落とされるのではないか、一度
しかし、共に行く、〝マザー〟と共に滅びるはずだった命と力の全てを自分のために使う――そう言ってくれた女の子に手を出したのだ。男としてのけじめを付けなければならない。
だが、それはこちらの勝手な言い分。
「問題は、結婚『したい』か『したくない』か、俺の妻に『なりたい』か『なりたくない』かなんだ。今のままの関係が
「――そんなことないッ!!」
アーシェラは声を
「なりたくないなんて…そんなこと……。でも、ダメなの……っ、こんな穢れ切った私が、リュージの妻になんて……そんなこと…絶対に……っ」
一転して、声を落とし、
その様子を見れば、容易に想像がつく。頭が悪い自分が、
ならば、もう、
それを試した事はないが、――やるしかない。
「それってさ、細かい事はさておき、『したい』か『したくない』かで言ったら、『したい』って事だよな? ――なら何の問題もない」
そう言いつつ、龍慈は、その
「だから……ッ!?」
反論しようと顔を上げたアーシェラの目の前にあったのは分厚い胸板で、驚いて顔を上げると、そこには、真剣な表情を浮かべた顔があって、
「穢れていようがいまいが構わない。俺は、変わってしまった理由も
左手で細い腰を抱き寄せつつ、
その
――龍慈は、更に
右手でその頬にそっと触れて目を自分に向けさせて、
「――アーシェラの事が好きだ」
「……わ、私も……」と
龍慈は、その頬に
お互いの唇が軽く触れ合うくらいの
龍慈は、その感触が失われてしまう事を
「後悔?」そう言いつつ余裕の表情で、ふっ、と笑ってから「心の底から
我ながらクサい
彼らの二の
「……そ、それは……」
龍慈は、そんな
例え、アーシェラほどの
それ故に、力加減には細心の注意を
それでも、アーシェラは、顔を
先程よりもわずかに強く、お
アーシェラは、持ち上げた両手で龍慈の頬に触れ、愛おしそうに
「……本当に、いいの?」
「――良い」
「結婚しよう、アーシェラ」
ありったけの想いを込めて申し込み、
「はい……っ!」
アーシェラは、涙を
実際のところ、都市の市民権を持たない龍慈とアーシェラは、婚約はできても結婚はできない。余人に『結婚した』と話しても、『夫婦』だとは認識されず、良くて『婚約した仲の良い恋人同士』と思われるのが関の山。傭兵の場合は特に、そういう事はどこかに定住を決め市民権を得て家を構えてからにしろ、と言われるだろう。
それでも、これは、龍慈が、はっきり言葉にする事で、しっかり態度で
二人は、長くて熱い
そして、お互いの事を、妻だと、夫だと、認め合った二人は、躰を重ね、心も重ねて、思い合い、求め合った。
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