第13話 鏡の間
傭兵という職業は、躰が資本。それ
そして、傭兵ギルドや隣接するギルド酒場にいるのは傭兵達で、そのどちらでも、大柄な者が多く見受けられる。
そんな中でも、身長約190センチのアーシェラは、そこらの野郎共よりも背が高く、その絶世の美貌と抜群のプロポーションも
そのアーシェラは、実のところ、表情の変化が
「…………」
身長は約220センチで、筋骨隆々。高さも、
「ん? どうした?」
龍慈が、ぴとっと
「どうもしない」
アーシェラは、自分が合わせるのではなく、自分に
龍慈は、ちょっと歩きにくいなと思ったものの、そこはかとなく機嫌が良さそうに見えたので、まぁいいか、と気にしない事にした。
――それはさておき。
晴れて傭兵の仲間入りを果たした龍慈とアーシェラは、傭兵ギルド本館から、一度外へ出ずとも直接移動できる連絡口を通って、ギルド酒場へ。
これは余談だが、龍慈は、新人が中堅に
そして、サンドリバー
「おぉ~いっ、こっちだッ!」
向こうがこちらを見付けてくれた。
待ち合わせに
二人がいたのは、壁寄りの席。
このギルド酒場も天井が高く、2階分を吹き抜けにしたくらいあるため、龍慈が、約2メートルの金棒になっている〔
席に程近い壁際には、槍を何本も立て掛けておくための武器庫にありそうな
そして、龍慈は、団長とラーゼンの前で姿勢を正し、
「お二人のおかげで、無事〔ライセンス〕を得る事が出来ました」
感謝を伝えて頭を下げる。アーシェラも、それに
「お二人から受けた
そう穏やかに返して、二人に席を
龍慈とアーシェラは、それに応じ、空いている二つの椅子にそれぞれ着席した。
二人にとってその椅子とテーブルは低く、龍慈のほうは、キシキシ
団長とラーゼンが、ギルド酒場で龍慈とアーシェラを待っていたのは、次の行動を起こす前に話しておくべき事があったから。
まず、団長が話題に上げたのは、クリーチャー討伐の報酬について。
だが、それについては既に話は
それでも、団長は、ぎっちり硬貨が詰まっていそうな革袋をテーブルの上に置いて渡そうとしてきたが、龍慈は、首を横に振り、それを団長の前に押し返した。
確かに、襲撃されていたサンドリバー車団を助けるため、龍慈とアーシェラは、相当な数のクリーチャーを撃破した。
しかし、散乱していた大量の素材を集めて回収し、
龍慈は、そいつは納めてくれ、と言い、
そんな訳で、本題は――
「二人はこれからどうするつもりなんだ?」
「旅を続けるのに必要な物を買い
「その後は?」
「その後、か……」
目指すとしたら、勇仁やマドカ達がいるはずの南西大陸にあるイストーリア王国だろう。
だが、一応、
しかし、積み上げた戦果を
なら、やはりイストーリア王国を目指そうか、と考えがまとまりそうになったちょうどその時、
「北へ向かってほしいと頼まれた」
アーシェラの発言で、あぁ~、と思い出した。
あの時は考えてみると言ったのに、すっかり忘れていたが、確かに、〔ライセンス〕を受け取って
「……北壁の防衛、だったっけ?」
龍慈が確認すると、アーシェラは頷き、
「通称〝グランベルの北壁〟。やはり、お前さん達も、か……」
ラーゼンは、団長と顔を見合わせてからそう言った。
「俺達も?」
「
「大侵攻?」
団長
それを、この
その〝大侵攻〟を食い止めるために
そして、つい先日、誤差では済まない浮遊島群の下降が観測された。
グランベル大要塞は、非常事態宣言を発令し、現在、最寄りの城郭都市『ベルドベル』の傭兵組合を介して、実力ある傭兵達に参集するよう呼び掛けている。
「真相は
というのは、ラーゼンの
アーシェラは、チラッ、と龍慈のほうを見たが、当の召喚された者の一人は、割とどうでも良さそうに、へぇ~、と言っただけだった。
「それで、リュージとアーシェラは、どうするんだ?」
グランベル防衛戦に、参加するか、しないか。
「私は、リュージについて行く」
龍慈が訊く前に、そう告げるアーシェラ。
だが、彼女がかつて〝マザー〟の
ならば――
「〝義を見てせざるは勇なきなり〟――ここは一丁、
龍慈が、ニッ、と口の端を吊り上げると、アーシェラは、かすかに
こうして、参戦する事が決まると、
「それなら、グランベルまで、
団長がそう訊いてきた。
通常、ワイルドスチームを利用するには乗車賃が必要になる。
だが、傭兵の場合、目的地まで乗客としてではなく護衛として乗る事を条件に、乗車賃を割引く制度があるとの事。
断る理由も、利用しない手もない。
龍慈とアーシェラは、その申し出を受ける事にした。
ギルド酒場を後にした龍慈達と団長達は、それぞれ要請に応じる
それが
ギルド本館、2階の奥。通路の突当りまで左右にドアが等間隔に並んでおり、その全てが『鏡の間』で、トイレの個室のドアのように、
本来、手の内は隠すものであり、一人ずつ利用するものだが、
「リュージには知っておいてほしい」
アーシェラがそう言い、龍慈もまた見られて
部屋の中は、正面に、
龍慈は、その棚に〔如意心鉄棒〕を置こうとして……
「……そう言えば、お
ふと気付き、金棒から十手に変形させて帯に差した。
「…………」
その様子を見ていたアーシェラは、ふと自分が手にしている〔星屑の矛〕に目を向けて……
「ん? どうかしたのか?」
龍慈が、何か考え込んでいる様子のアーシェラに声を掛けると、
「街中では邪魔だし、ホテルでもリュージに面倒を掛けてる。だから……」
そして、その中に、本来
すると、細かな粒状の研磨剤を吹き付ける事で表面を
「何してんだ? ――って、おいおいおいおいッ!?」
「大丈夫。私の
要するに、星屑を集めて
それが行われているのは
真空の空間は解除され、星屑は全て目に見えない微粒子と化して要所に身に着けている軽甲冑の一部となり、
「始めからこうしておけばよかった」
そう言うアーシェラは、無表情ながらそこはかとなく
「でもよ、そうしなかったのって、【
始めから、と聞いて忘れられた城での事を思い出しつつ龍慈が言うと、
「…………」
アーシェラは、龍慈の目を真っ直ぐに見て…………へにゃっ、と
どうやら、失念していたらしい。
〝マザー〟から
これなら
「じゃあ、私から」
少し話が
そこに
すると、程なくして光の文字が浮かび上がった。
―― 能力 ――
【超直観】 目に映しただけで見抜く直知の業
【空気使い】 知覚範囲内の空気を自在に操る
【星屑統御】 掌握した有機的無機物『星屑』を自在に操る
―― 技術 ――
【剣術】 両手持ちの大剣
【槍術】 刺突と斬撃を可能とする長柄武器
【雷術】 対単体 補助
【星屑統御】が新たな【能力】として神に認められている事、〝マザー〟と同じように
そして、ほんの少し晴れやかな気分で振り返って、ギョッ、と目を見開いた。
それは、龍慈が、
「ど、どうしたの?」
何か気に
「
「羨ましい?」
「あぁ。説明文ってのは、やっぱ、こうあるべきなんだよ。それなのによぉ……~ッ!」
龍慈は
姿見に誰も映っていない状態になると、浮かび上がっていた光の文字が消え、今度は龍慈がその前に立って右手で鏡面に触れた。
程なくして、浮かび上がった光の文字は……
―― 能力 ――
【理外の金剛力】 そこなしのてんじょうしらず
【玉の肌】 びじょもうらやむ
【豊満】 とてもよいにくづき
【心眼】 かんがえるな かんじろ
―― 技術 ――
【仙人掌】 にせんしゅるいくらいある
【合掌】 しわとしわをあわせてしあわせ なぁ~むぅ~~っ
この姿見は、神殿でもらった〔審神者の鏡〕とは違って、本当にどんな【才能】が――【
相変わらずだな、と
「――って、こっちも、説明じゃなくて
何で知ってんだよ、と思いつつまた顔を
「【心眼】、か……。忘れられた城での修行中、何か
完全に開眼したと言って良いのか、それともまだ不完全なのか、自分では判断できなかった。
しかし、こうして発現しているのを見ると、開眼したのだと確信を得る事ができたというだけでなく、今までの修行は間違っていなかったのだと、このまま続けて良いのだと、自信を持つ事ができた。
これなら確認しに来る意味がある――そう納得して頷く龍慈。
その隣では、アーシェラが、説明しているようでいて説明になっていない説明文を見て
【心眼】以外の【才能】は、他に聞いた事すらない。
そんな中で、アーシェラが最も気になったのは、
「【理外の金剛力】……底なしの
「まぁな。と言っても、別に
訳が分からない【才能】の中で、これだけはどんな【能力】なのかあの説明文で理解する事ができた。だから話題にしなかったというだけで、特に存在を知られて困るようなものでもない。
困るようなものではないが……
「この【能力】のせいで、リュージは、激しくできないの?」
「――ぶフゥーッ!?」
知られた事でこんな質問が飛んでくるとは思ってもみなかった龍慈は、盛大に
確かに、愛する人を傷付けてしまわないよう、
これは、下手に答える前に、何が激しくできないのか確認してみたほうが良いだろう――そう思ったのものの、訊いたら訊いたで自分が昨夜の情事を思い出したという事を
普段使っていない
「~~~~っ」
自分達だけだからと気を
その姿を見た龍慈は、もう一度小さく、ぷっ、と噴き出して
「可愛いなぁ~」
思わず胸中を
アーシェラは、龍慈の服を
結局、先程の質問はなかった事にした。
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