第13話 鏡の間

 傭兵という職業は、躰が資本。それゆえに、体格が良い者が多い。


 そして、傭兵ギルドや隣接するギルド酒場にいるのは傭兵達で、そのどちらでも、大柄な者が多く見受けられる。


 そんな中でも、身長約190センチのアーシェラは、そこらの野郎共よりも背が高く、その絶世の美貌と抜群のプロポーションも相俟あいまって、否応なく人目を引いてしまう。


 そのアーシェラは、実のところ、表情の変化がとぼしいせいでそうと知られていないが、昔も今も、相手の様子から、大きいデカイ、と思われている事が分かってしまうのが嫌だった――が、


「…………」


 となりを歩く龍慈は、更にデカイ。


 身長は約220センチで、筋骨隆々。高さも、はばも、厚みもあるので存在感が凄まじく、どうしたって他者の目はまずそちらへ向けられるし、並んで歩いているとアーシェラが小柄に見える。


「ん? どうした?」


 龍慈が、ぴとっとってきたアーシェラに訊くと、


「どうもしない」


 アーシェラは、自分が合わせるのではなく、自分に歩幅ほはばを合わせて歩いてくれる巨漢を見上げて、ふるふると首を横に振る。


 龍慈は、ちょっと歩きにくいなと思ったものの、そこはかとなく機嫌が良さそうに見えたので、まぁいいか、と気にしない事にした。


 ――それはさておき。


 晴れて傭兵の仲間入りを果たした龍慈とアーシェラは、傭兵ギルド本館から、一度外へ出ずとも直接移動できる連絡口を通って、ギルド酒場へ。


 これは余談だが、龍慈は、新人が中堅にからまれるお約束のテンプレ展開がくるのでは、と内心ドキドキワクワクしつつキョロキョロしていたのだが、どういう訳か、如何いかにもそういう事が好きそうな強面こわおもてのゴツイ野郎共はそろってそっぽを向いていて目を合わせてくれず、結局、何も起きなかった。


 小走りにパタパタやってきた可愛らしい女給ウェイトレスさんに待ち合わせだとげ、すれ違う者達に二度見されつつ、おそめの朝食を取るためか、それなりににぎわっている店内を進む。


 そして、サンドリバー車団コンボイの団長と、専属の護衛部隊隊長ラーゼンの姿を探していると、


「おぉ~いっ、こっちだッ!」


 向こうがこちらを見付けてくれた。


 待ち合わせにこまらない、というのは、高身長あるあるだ。


 二人がいたのは、壁寄りの席。


 このギルド酒場も天井が高く、2階分を吹き抜けにしたくらいあるため、龍慈が、約2メートルの金棒になっている〔如意心鉄棒バディ〕を、アーシェラが、約4メートルの〔星屑の矛〕を、肩に担ぐように持っていても上の空間に余裕がある。


 席に程近い壁際には、槍を何本も立て掛けておくための武器庫にありそうなラックがあったので、二人は、〔如意心鉄棒〕と〔星屑の矛〕をそこに立て掛けた。


 そして、龍慈は、団長とラーゼンの前で姿勢を正し、


「お二人のおかげで、無事〔ライセンス〕を得る事が出来ました」


 感謝を伝えて頭を下げる。アーシェラも、それにならった。


「お二人から受けたおんを少しでもお返しする事が出来たのなら、何よりです」


 そう穏やかに返して、二人に席をすすめる団長。


 龍慈とアーシェラは、それに応じ、空いている二つの椅子にそれぞれ着席した。


 二人にとってその椅子とテーブルは低く、龍慈のほうは、キシキシきしむ椅子が壊れないか心配で落ち着かない。


 万人向けの大きさフリーサイズが合わない、というのも、高身長あるあるだ。




 団長とラーゼンが、ギルド酒場で龍慈とアーシェラを待っていたのは、次の行動を起こす前に話しておくべき事があったから。


 まず、団長が話題に上げたのは、クリーチャー討伐の報酬について。


 だが、それについては既に話はんでいる。


 それでも、団長は、ぎっちり硬貨が詰まっていそうな革袋をテーブルの上に置いて渡そうとしてきたが、龍慈は、首を横に振り、それを団長の前に押し返した。


 確かに、襲撃されていたサンドリバー車団を助けるため、龍慈とアーシェラは、相当な数のクリーチャーを撃破した。


 しかし、散乱していた大量の素材を集めて回収し、都市ここまで輸送し、ギルドの出張所へと運び込み、引換手形を発行してもらい、ギルドの窓口に持って行って現金を受け取って、と骨を折ったのはサンドリバー車団のみな。更に、身分を証明できるものを持っていなかった龍慈達が都市に入れたのは、団長とラーゼンが保証人になってくれたおかげで、ホテルにめてもらった上、ギルドに推薦状まで書いてくれた。


 殉職者じゅんしょくしゃを出し、損害をこうむり、いろいろとり様なのは団長達のほうなのに、命の恩人だからとこれだけの事をしてもらっておいて、更にお金まで――そんな事、他の誰が良いと言っても、自分は許容できゆるせない。


 龍慈は、そいつは納めてくれ、と言い、がんとしてゆずらなかった。


 そんな訳で、本題は――


「二人はこれからどうするつもりなんだ?」

「旅を続けるのに必要な物を買いそろえるつもりだ」

「その後は?」

「その後、か……」


 目指すとしたら、勇仁やマドカ達がいるはずの南西大陸にあるイストーリア王国だろう。


 だが、一応、流刑るけいしょされた身。せず別の大陸に移動してしまったっぽいが、北東大陸に戻って、贖罪つみほろぼしが済むまでクリーチャーを倒したほうが良いのかもしれない。


 しかし、積み上げた戦果をってつぐないとする、つまり、クリーチャーを倒せ、としか言われていないので、どこで倒しても構わないような気はする。


 なら、やはりイストーリア王国を目指そうか、と考えがまとまりそうになったちょうどその時、


「北へ向かってほしいと頼まれた」


 アーシェラの発言で、あぁ~、と思い出した。


 あの時は考えてみると言ったのに、すっかり忘れていたが、確かに、〔ライセンス〕を受け取って諸々もろもろの説明が終わった後、受付嬢から、を受けてほしいと要請された。あれは、確か……


「……北壁の防衛、だったっけ?」


 龍慈が確認すると、アーシェラは頷き、


「通称〝グランベルの北壁〟。やはり、お前さん達も、か……」


 ラーゼンは、団長と顔を見合わせてからそう言った。


「俺達も?」

サンドリバー車団こっちにも要請がきたんだ。〝大侵攻〟に備えて傭兵達をグランベルへ輸送したから力を貸してくれ、ってな」

「大侵攻?」


 団長いわく、あちら側『シランド北大陸』とこちら側『シランド南大陸』の間のせまい海――『ベルへイル海峡』、その上空には無数の島が浮かんでいるのだが、64年に一度、その浮遊島群がいっせいに高度を下げ、それらが橋のようになって南北のシランド大陸がつながる。その時、人が絶滅した北大陸で増えたクリーチャー共が、そこを渡り大挙して南大陸こちらがわへ押し寄せてくる。


 それを、このあたりの人々は〝大侵攻〟と呼んでいるらしい。


 その〝大侵攻〟を食い止めるためにきずかれたのが『グランベル大要塞』であり、災厄の予兆を見過ごさないため、〝グランベルの北壁〟には観測所がもうけけられ、日々それらの高度を計測して結果を記録し続けている。


 そして、つい先日、誤差では済まない浮遊島群の下降が観測された。


 グランベル大要塞は、非常事態宣言を発令し、現在、最寄りの城郭都市『ベルドベル』の傭兵組合を介して、実力ある傭兵達に参集するよう呼び掛けている。


「真相はさだかじゃないんだが、『64年に一度』ってのは、支天教が、総本山で〝使徒召還〟するのと時期が重なる。それで、〝橋がかる〟のは、奴らが儀式のために大地の霊脈から大量の霊気を吸い上げるからなんじゃないか、って言われててな。風のうわさで、またやったって聞いていたから、起きるならそろそろだろうとは思っていたんだ」


 というのは、ラーゼンのべん


 アーシェラは、チラッ、と龍慈のほうを見たが、当の召喚された者の一人は、割とどうでも良さそうに、へぇ~、と言っただけだった。


「それで、リュージとアーシェラは、どうするんだ?」


 グランベル防衛戦に、参加するか、しないか。


「私は、リュージについて行く」


 龍慈が訊く前に、そう告げるアーシェラ。


 だが、彼女がかつて〝マザー〟のコアと融合してまで封印した理由を知っていれば、襲われているサンドリバー車団を発見した時の様子を思い出せば、そして、その目を見れば、どうすべきだと思っているかは明白。


 ならば――


「〝義を見てせざるは勇なきなり〟――ここは一丁、うわさの〝グランベルの北壁〟と、64年に一度しか見られない光景をおがみに行くとするか」


 龍慈が、ニッ、と口の端を吊り上げると、アーシェラは、かすかにほほを緩めつつ、小さく、それでいてはっきりと頷いた。


 こうして、参戦する事が決まると、


「それなら、グランベルまで、サンドリバー車団うちのワイルドスチームに乗っていいただけませんか?」


 団長がそう訊いてきた。


 通常、ワイルドスチームを利用するには乗車賃が必要になる。


 だが、傭兵の場合、目的地まで乗客としてではなく護衛として乗る事を条件に、乗車賃を割引く制度があるとの事。


 断る理由も、利用しない手もない。


 龍慈とアーシェラは、その申し出を受ける事にした。




 ギルド酒場を後にした龍慈達と団長達は、それぞれ要請に応じるむねを伝えるため、ギルド本館の窓口へ。


 それがんだら、旅の支度したくをするため、サンドリバー車団が贔屓ひいきにしている店に連れて行ってもらう事になっているのだが、団長達のほうが手続きに時間が掛かるようだったので、それまでの間、龍慈とアーシェラは、新たな【才能タレント】が開花していないか、【技術スキル】が上位のものに変化したり別ものものに派生していたりしないか確認するため、ギルド内にある『鏡の間』へ向かう事に。


 ギルド本館、2階の奥。通路の突当りまで左右にドアが等間隔に並んでおり、その全てが『鏡の間』で、トイレの個室のドアのように、かぎを掛けているか否かで使用中か空室かが分かるようになっている。


 本来、手の内は隠すものであり、一人ずつ利用するものだが、


「リュージには知っておいてほしい」


 アーシェラがそう言い、龍慈もまた見られてこまるようなものではないと思っているので、二人は同じ部屋に入り、鍵を掛けた。


 部屋の中は、正面に、壁掛け型の大きな長方形の鏡すがたみがあり、左手の壁に、武器を立て掛けるためのラックがある。


 龍慈は、その棚に〔如意心鉄棒〕を置こうとして……


「……そう言えば、お披露目ひろめは終わったんだから、もう良いか」


 ふと気付き、金棒から十手に変形させて帯に差した。


「…………」


 その様子を見ていたアーシェラは、ふと自分が手にしている〔星屑の矛〕に目を向けて……


「ん? どうかしたのか?」


 龍慈が、何か考え込んでいる様子のアーシェラに声を掛けると、


「街中では邪魔だし、ホテルでもリュージに面倒を掛けてる。だから……」


 みずからの得物を見詰めながら独り言のようにそう言うと、おもむろに、【星屑統御】の応用で手にしていた〔星屑の矛〕を宙に浮かべ、それを中心に、【空気使い】の能力で、ラグビーボールのような縦に長い球状の空気が存在しない真空の空間を作り出す。


 そして、その中に、本来に見えないほど微細な粒子りゅうしである星屑を、目に見える砂粒すなつぶ程度の大きにまとめ、それをバケツ一杯いっぱい分ほど浮かべると、中心の〔星屑の矛〕をじくとして竜巻のように高速回転させ、徐々じょじょに回転半径をせばめていく。


 すると、細かな粒状の研磨剤を吹き付ける事で表面をけずったり角を取ったりするブラスト装置のように、高速で渦巻く荒い星屑の粒の奔流が〔星屑の矛〕を削っていき……


「何してんだ? ――って、おいおいおいおいッ!?」


 あわてふためく龍慈。それは、見る間に〔星屑の矛〕がボロボロになっていくのをの当たりにしたからで――


「大丈夫。私のほこは、〔星骸の玉鋼ミーティアライト〕……今は〔鎧蟲の玉鋼〕と呼ばれているらしいクリーチャー由来の鉱物で作られたものだから」


 要するに、星屑を集めてかしてかためて作られた金属を、けずって砕いて星屑に戻している、という事らしい。


 それが行われているのは振動おとつたえる空気がない真空の空間であるがゆえに、騒音はその外には伝わらず、不気味なほど静か中で作業は進み…………およそ5分後。〔星屑の矛〕は跡形もなくなった。


 真空の空間は解除され、星屑は全て目に見えない微粒子と化して要所に身に着けている軽甲冑の一部となり、


「始めからこうしておけばよかった」


 そう言うアーシェラは、無表情ながらそこはかとなく清々せいせいしたように見えた――が、


「でもよ、そうしなかったのって、【星屑統御スターダストルーラー】は、神器である〔星屑の矛〕の能力だって事にすると決めたからじゃなかったか?」


 始めから、と聞いて忘れられた城での事を思い出しつつ龍慈が言うと、


「…………」


 アーシェラは、龍慈の目を真っ直ぐに見て…………へにゃっ、とまゆをハの字にした。


 どうやら、失念していたらしい。


 〝マザー〟から簒奪さんだつした力は『神器の能力』という事にする以上、神器本体が存在しなければならない。だが、約4メートルの矛は持ち歩くのに不便。なら、この機会に別のものに変えようという事になり、携帯しやすく、転移者が創造しそうな神器っぽいものは何か、お披露目の際にも持っていたという事にして不自然でない物は何かと考え…………無難なところで、腕環ブレスレットにした。


 これなら甲拳ガントレットの下に装着していていた事にしても不自然ではないし、今後は、この〔星屑の腕環〕だけは形を変えずに必ず身に着け、街中を移動する際には矛を分解して軽甲冑にまとめ、軽甲冑を除装するぬぐ時は矛にまとめて立て掛けておけば良い。




「じゃあ、私から」


 少し話がわきれたが、本題に戻って、アーシェラが姿見すがたみの前へ。


 そこにうつる自分の姿――生来のものではない、瞳の色、髪の色、はだの色を見てやや表情を強張こわばらせつつ、右手をばして鏡面に触れる。


 すると、程なくして光の文字が浮かび上がった。


 ―― 能力 ――


【超直観】 目に映しただけで見抜く直知の業

【空気使い】 知覚範囲内の空気を自在に操る

【星屑統御】 掌握した有機的無機物『星屑』を自在に操る


 ―― 技術 ――


【剣術】 両手持ちの大剣

【槍術】 刺突と斬撃を可能とする長柄武器

【雷術】 対単体 補助


 【星屑統御】が新たな【能力】として神に認められている事、〝マザー〟と同じように星獣クリーチャーしたがえるのではなく、あくまでその体を構築する物質を操る能力である事が確認できて、ほっ、と胸をで下ろすアーシェラ。


 そして、ほんの少し晴れやかな気分で振り返って、ギョッ、と目を見開いた。


 それは、龍慈が、眉間みけんと鼻の頭にしわを寄せたものすごしかめっつらをしていたからで、


「ど、どうしたの?」


 何か気にさわるところがあるのかと不安になって訊くと、龍慈は、いや、と首を振ってから、


うらやましいなぁ、と思ってよ」

「羨ましい?」

「あぁ。説明文ってのは、やっぱ、こうあるべきなんだよ。それなのによぉ……~ッ!」


 龍慈はうなり、見てみるか? と訊かれたアーシェラは、こくりと頷いて場所をゆずる。


 姿見に誰も映っていない状態になると、浮かび上がっていた光の文字が消え、今度は龍慈がその前に立って右手で鏡面に触れた。


 程なくして、浮かび上がった光の文字は……


 ―― 能力 ――


【理外の金剛力】 そこなしのてんじょうしらず

【玉の肌】 びじょもうらやむ

【豊満】 とてもよいにくづき

【心眼】 かんがえるな かんじろ


 ―― 技術 ――


【仙人掌】 にせんしゅるいくらいある

【合掌】 しわとしわをあわせてしあわせ なぁ~むぅ~~っ


 この姿見は、神殿でもらった〔審神者の鏡〕とは違って、本当にどんな【才能】が――【能力アビリティ】と【技術スキル】があるのかだけを確認するためのものらしく、【称号】や【装備】【従者】といった他の項目がない代わりに、始めからそれぞれの説明文が表示されている。


 相変わらずだな、としぶい表情の龍慈だったが、以前はなかった【能力】が新たに一つ加わっている事に気付いて、おっ、と目を丸くし――


「――って、こっちも、説明じゃなくて偉人ドラゴン台詞せりふ丸パクリじゃねぇか」


 何で知ってんだよ、と思いつつまた顔をしかめた――が、


「【心眼】、か……。忘れられた城での修行中、何かつかんだような気はしてたんだが、やっぱ開眼してたか」


 完全に開眼したと言って良いのか、それともまだ不完全なのか、自分では判断できなかった。


 しかし、こうして発現しているのを見ると、開眼したのだと確信を得る事ができたというだけでなく、今までの修行は間違っていなかったのだと、このまま続けて良いのだと、自信を持つ事ができた。


 これなら確認しに来る意味がある――そう納得して頷く龍慈。


 その隣では、アーシェラが、説明しているようでいて説明になっていない説明文を見て唖然あぜんとしていた。


 【心眼】以外の【才能】は、他に聞いた事すらない。


 そんな中で、アーシェラが最も気になったのは、


「【理外の金剛力】……底なしの天井てんじょう知らず? これがリュージの怪力ちからの秘密?」

「まぁな。と言っても、別に秘密にかくしてる訳じゃない」


 訳が分からない【才能】の中で、これだけはどんな【能力】なのかあの説明文で理解する事ができた。だから話題にしなかったというだけで、特に存在を知られて困るようなものでもない。


 困るようなものではないが……


「この【能力】のせいで、リュージは、激しくできないの?」

「――ぶフゥーッ!?」


 知られた事でこんな質問が飛んでくるとは思ってもみなかった龍慈は、盛大にき出した。


 確かに、愛する人を傷付けてしまわないよう、えず加減に気をくばっていなければ抱き締める事もできないのはこの【能力】のせいなのだが…………いや、待て、そうじゃないかもしれない。自分はつい昨夜の事だと思ってしまったが、果たして、古代王国の王女様であらせられるアーシェラほどの淑女が、こんな鍵をかけた密室で男と二人きりという状況でそんな話題を持ち出すだろうか?


 これは、下手に答える前に、激しくできないのか確認してみたほうが良いだろう――そう思ったのものの、訊いたら訊いたで自分が昨夜の情事を思い出したという事をさとられて変な空気になってしまうのではないだろうか、という可能性に思い至ると訊くに訊けず……


 普段使っていないのうミソをフル稼働かどうさせるも答えは出ず、ひとまず様子をうかがってみようと思い、チラッ、と隣へ目を向けると――


「~~~~っ」


 になっていた。


 自分達だけだからと気をゆるぎ、天然な部分をさらけ出してしまったアーシェラは、考えなしに質問してしまった事を激しく後悔しつつ、みずからを責めながら恥じ入り、うつむいてプルプル震えている。


 その姿を見た龍慈は、もう一度小さく、ぷっ、と噴き出して相好そうごうくずすと、


「可愛いなぁ~」


 思わず胸中を吐露とろしつつ、ぽんっ、と手を置くようにアーシェラの頭をで、更に湯気が出そうなほど赤くなった可愛い女の子を包み込むように抱き締めた。


 アーシェラは、龍慈の服をつかんでしがみ付き、顔を見られないよう胸に顔をうずめて、ぅうぅ~~,と可愛くうなり、微笑ましげに見守る巨漢は、落ち着くまでその背を、ぽんっ、ぽんっ、と撫で続け……


 結局、先程の質問はなかった事にした。

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