第11話 『男になる』という事
時は、
場所は、城郭都市チンクチコルビ、停車場最寄りのホテルの402号室での事。
「…………、はぁ……~っ」
薄闇の中、ベッドの上でむくりと上体を起こし、深く重いため息を漏らす者がいた。
それは、龍慈。
「……眠れないの?」
そちらに目を向けると、インナースーツ姿のアーシェラがベッドの上で
「……どうにも寝付けなくて、な」
そう答えて、はぁ……~っ、とまたため息をつく龍慈。
アーシェラは、そんならしくない弱々しい姿を瞳に映して……
「……亡くなった人達の姿が目に浮かぶ?」
「――――~ッ!?」
龍慈は、図星を
「ひょっとして、アーシェラも、か?」
目に焼き付いていて、
そして、そんな
あの時、アーシェラは自分の
「私は、もう何度も
越えてきた? と聞き返す龍慈に対して、アーシェラは頷き、
「足を止めず、越えて行かなければならない。
「……参ったな」
初めて、人を殺したり、無残に殺害された人の死体を見たりして
だからこそ、こちらに転移して英勇校で訓練を受けていたある日、勇仁が、いずれ自分達もそういう場面に遭遇する事があるだろう、とまた預言者じみた事を言い出し、心の準備をしておいた方が良い、と
それ故に、かなり凄惨な
しかし、百聞は一見に
それでも、準備は無駄ではなかったようで、すぐ立ち
忘れようとすればするほど強く意識してしまって忘れられなくなる、という話を聞いた事があったので、今は
「慣れてもいけない、か……」
両手で顔を
じゃあどうすりゃ良いんだよ、と反発する自分がいると同時に、確かになぁ、と納得している自分もいる。
「ん~……」
両手で顔を覆ったまま天を
「はぁ~……。……結局、時が解決してくれるのを待つしかない、か……」
そう結論付けた。
「静かにしてるから、アーシェラは休んでくれ」
眠ろうとして眠れないなら寝落ちするまでイメージトレーニングでもしよう――そう考えた龍慈は、脚が太過ぎて
そうすると、あの光景がチラチラ
「…………」
思い詰めた表情のアーシェラは、自分のベッドから降りて、【星屑統御】を行使し、インナースーツを構成していた星屑を分散させて〔星屑の矛〕に収納し……
「……リュージ」
「ん? ――ぶッ!?」
呼ばれて目を開けた次の瞬間、不意に、アーシェラの一糸纏わぬあられもない姿を直視してしまった龍慈は、驚きのあまり吹き出し、慌てて顔を
「ちょっ、なにごとッ!?」
激しく動揺する龍慈をよそに、アーシェラは、裸体を隠そうともしないどころか、
「忘れさせる事はできない。でも、心に傷を負った戦士を
そんな事を言いながら、こちらのベッドに上がってきて……
「――これ以上はやり過ぎだ」
龍慈は、半跏趺坐を
「リュージ……?」
興奮して押し倒してくるとでも思っていたのか、困惑の表情を浮かべるアーシェラ。
それに対して、相思相愛の恋人同士という訳でもないのに全裸でグイグイこられた事で逆に引いてしまい、結果、冷静さを取り戻すにいたった龍慈は、自分と同じベッドの上でぺたんと座るアーシェラの躰に毛布をケープのようにふわりと巻き付けてから、
「たぶん、
〝マザー〟の封印から解放した事で恩義を感じているという事は知っている。それで、少々
龍慈は、そう語り掛けつつ、ぽんっ、とアーシェラの頭に手を乗せて優しく
「でもな、そういう自身を犠牲にするようなやり方は
そうはっきり
「――違うっ! そうじゃないッ!」
「あれ? ――おっと」
かなり自信があった予想がはずれだった事に困惑したのも束の間、龍慈は、自分の胸へ倒れ込むように飛び込んできたアーシェラを
「……リュージには、もう返しきれないほどの恩があるのに……、それなのに……」
両手のやり場に困ったので、なんとなく、右手で、ぽんっ…ぽんっ…ぽんっ…、と何やら
そうしていると、徐々に落ち着きを取り戻してきて……
「……あたたかい……」
身も心も
そして、龍慈に語り掛けるというより、独白するように……
「……
アーシェラは、力一杯、両手で龍慈の服を
「あの時は他に方法がなかった……ッ! やるしかなかった……ッ! ……でも、もう無理……~ッ! 意識はなかったのに覚えてるッ! あんなの……もう耐えられない……~ッ!!」
龍慈は、考えてそうした訳ではなく、気付いた時にはもう、ガタガタぶるぶる震え始めたアーシェラを両腕で抱き寄せ、横向きで膝の上に座らせて、自分の躰で包み込むように抱き締めていた。
(ここまで精神的に
この一ヶ月、毎日顔を合わせていたのに、
それを申し訳なく思いつつも、気付いたとして自分に何ができただろう、と考えながらアーシェラの背を毛布の上から
「…………~ッ!?」
ぎょっとして反射的に腕の力を
それは、顔を上げたアーシェラが、ぽろぽろぽろぽろ止めどなく涙を
「……リュージの助けになる事が、私の救いにもなる……」
躰を包んでいた毛布が
「……だから……だから……」
先程、アーシェラは言っていた。〝心に傷を負った戦士を慰める方法なら、知ってる〟と。
そして、龍慈はこの段に至ってようやく理解した。
この場に、〝心に傷を負った戦士〟が、自分以外にもいるのだという事を。
「…………~っ」
昔、
それからだ。御先祖様とお
それ故に、信条に反する事は絶対にしない。
酒の勢いやその場の雰囲気に流されて肉体関係を持つなどという
だがしかし――
「……たすけて……」
涙ながらに弱々しく震えるかすれた声で助けを求めてくる、そんな女の子を突き放す事が、どうしてもできなかった。
――一夜明けて。
時は、蒸気が吹き出す音と機械音が遠くからかすかに響いてくる早朝。
「夢……じゃないんだな」
目が覚めると、自分とアーシェラは同じベッドで寝ていて、どちらも生まれてきたままの
「ん? …………へぇ~。アーシェラは
龍慈は、
――それはさておき。
チュン、チュン、と鳴く鳥が生息していないらしくやや
童貞を卒業したからと言って、自分の何かが変わったとは思えない。だが――
「…………」
アーシェラの
――
言葉は知っていても実感した事はなかった、優しくも熱く
そんな事を半分寝ぼけた頭でなんとはなしに考えていると、アーシェラが目を覚ました。
「おはよう」
龍慈がそう声をかけると、まだ寝ぼけているらしく、ぽぉ……~っとしていたアーシェラは、ぱちぱちと
見れば、耳だけではなく首筋まで赤くなっている。
そんな初めて愛し合った
「――――~ッ!?」
ゾクッ、と背筋が震え、昨夜と同じく、寸前で思い
内心で、危ない危ない、と胸を撫で下ろし、自分を
自分は、
何故なら、力が、圧倒的に、驚異的に、非常識なまでに、
その原因はさておき、そんな力で思いっきり抱き締めたり、
昨夜も、アーシェラのあられもない姿に魅了され、興奮し、
朝、目覚めた時、隣で眠っているアーシェラが
だからこそ、細心の注意を
「アーシェラ。躰は大丈夫か? 痛いところとかないか?」
そう確認せずにはいられなかった。
そんな龍慈に対して、アーシェラは、恥じらいつつ、こくりと小さく頷いて、
「……リュージが、優しくしてくれたから……」
ふわっ、と
変わり過ぎだろこんちくしょうッッッ!!!! と内心で
この、元王女で、【武神と戦女神の娘】が可愛過ぎる。
龍慈が、思いっきり抱き締めたい衝動に
明らかに昨日までのアーシェラより
「……リュージ」
不意にその美貌が
「その……、私は……どうだった?」
そう口に出した途端、
「わ、私は、背が高過ぎるし……、筋肉がつき過ぎてて硬いし……、全然女らしくないし……」
身長約190センチのアーシェラが2メートル超えの筋骨隆々たる巨漢に対してそんな
「――大好きだ」
そんな事を耳元で
「……そ、そういうことじゃなくて……」
顔から火が出そうなほど熱くなってくらくらする頭で、なんとかそれだけ言葉を絞り出した。
「ん~……、そう言われても、俺は
何故か、
龍慈が怪訝に思い、声をかけると、
「……リュージのばか」
言ってる事とやってる事が違うし、なんで? と思うが、何やらものすごく可愛いので、まぁいいか、と気にしない事にした。
そして、それを確認せずにいられないのは龍慈のほうも同じで――
「じゃあ、その……俺はどうだった?」
傷付けてしまう事を恐れる無意識からの警鐘によって理性を取り戻し、冷静になった事で、一度は
しかし、体内霊力制御を応用し、血のように体内を循環している霊力を制御する事で血流を操作し、
そして、息を合わせ、求め合い、愛し合ったのだが…………自分以外にも誰か
それは、
そんな自分が、
冷静でいられたため、無我夢中で何も覚えていないなどと言いう事はなく、とろぉ~っとろに
アーシェラが疲れ果てて眠りに落ちるまで、幾度も絶頂に至ってなお何度も求めてくれたし、脳が
龍慈が不安そうに訊くと、アーシェラは、うぅ~……、と何やら可愛く
「――大好きっ」
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