第9話 今、地上で起きている事実
――時は流れ。
忘れられた城に
「なんか、あっと言う間だったな」
旅立ちの日を
そうして
結局、【
「リュージ?」
呼ばれてふと我に返り、
この国が
そんなアーシェラの
インナースーツと軽甲冑は、【
当初、インナースーツと軽甲冑だけで良いと考えていたアーシェラに、装束を纏うよう
そして、その背後に何の支えもなく宙に浮かんでいるのは、新たに『星屑の矛』の名を与えられた矛槍。
今後、〝マザー〟から簒奪した力は全てこの神器の能力だという事にすると決め、そのための
「いや、なんか
そう答える龍慈が身に
ちなみに、勝手に動いて装着者を護る〔守護のマント〕だけは、ある程度自由にサイズや形状を変える事ができるのでそのまま纏っているが、それ以外は、右腕に装備した〔
そして、左腕に〔神秘銀の機巧腕〕を装備し、特に名前を付けていない伸縮自在で形状すら変える金棒を、長さ50センチほどの
「〝この城は
いつも通り、大らかでどことなく父性を感じさせる思念を伝えてきたのは、見送るためについてきた聖獣ヴァルヴィディエル。
龍慈は、そんな大きくて
「なぁ、やっぱり一緒に行かないか? どんなに馴染んで居心地が好くなった場所でも、
既に一度
「〝我は、遥か昔に
また、にべなく断られてしまった。
しかし――
「〝だが、これから其方が何を成すのか、見てみたくなった〟」
そう言うと、ヴァルヴィディエルは、金棒を貸してほしいと頼み、龍慈は、二つ返事で了解すると早速
すると、今は十手になっている金棒が、念動力のような力でふわりと浮かび上がって、ヴァルヴィディエルの前へ。
「〝…………〟」
軽く
程なくして、その胸の前に、ぽわんっ、と出現した光の玉と、金棒が、引き合うようにして融合し…………見守っていた龍慈とアーシェラの目の前で、一頭の
「〝それは、
ヴァルヴィディエルがそう説明している間に、大型犬よりも一回り大きいくらいの狼は、軽快な足取りで龍慈の
尻尾を振っているので、龍慈は、その場で
この体毛のモフモフ感や、
だが、ウォンッ、と
「個としての自我があるなら、名前もあるのかい?」
「〝まだない〟〝其方が名付けてやってくれ〟」
そういった事が得意ではないという自覚がある龍慈は、困り顔で首を
「よしっ! お前の名前は、『バディ』だッ!」
意のままに姿形を変える心ある
ヴァルヴィディエルを城から連れ出す事を
「で、どうやって地上に降りるんだ?」
発着デッキには、乗り物の
そこで、ヴァルヴィディエルに訊くと、
「〝其方は飛べるのではないのか?〟」
そう訊き返された。
確かにミサイルのような速度でかっ飛ぶ事はできる。だが、着地する事ができない。
それ
「〝この城へ
「なんてこった……」
旅立とうとした
これには、アーシェラとヴァルヴィディエルも困惑を
「正規の
アーシェラとヴァルヴィディエルが思わず
「それにしても、空飛ぶ乗り物、か……」
いかにもファンタジーな空飛ぶ船とか、魔法の
元の世界なら、飛行機とか、ヘリコプター……
「……あっ」
良い事を思いついた。
すると、銀の巨大な左腕は、ジャコンッ、ガキンッ、カシャンッ、ジャキンッ……そんな無数の金属音を多重連鎖的に響かせて、
一つの
そして、龍慈がイメージしたSFの殺人ドローンは、
だからか、〔神秘銀の機巧腕〕が変形したそれも非常に静かで、二重のローターが回転する速度を上げていくと、2メートル以上140キロ超えの巨躯が、ふわり、と浮き上がった。
「……ふむ、いけそうだな」
常時強化状態なので、自分とあと一人ぐらいなら、更に【武術】で強化せずとも、腕が
「バディ。早速で悪いが、頼むぜ」
以心伝心。言葉で説明しなくても伝わるらしく、〔如意心鉄棒〕は、十手から両足を固定できるスノーボードのような板状に変化した。
両足を肩幅に開いてその上に乗ると勝手にしっかり固定され、それを確認した龍慈は、右手で
すると、察したらしく、アーシェラは、龍慈の左右の足の間に乗ると、その背に両手を回してボードの上に立ち…………抱き合うような自分達の格好に気付いて、ほんのり
龍慈のほうも、細い腰に右手を回して支えてから、自分達の体勢に気付いて
――何はともあれ。
二重のローターブレードの回転速度が上がり、
「じゃあ、――行ってくるッ!」
「どうかお元気でっ!」
二人を乗せたボードが発着デッキの床から離れ、
「〝其方らの旅の無事を祈る〟」
ヴァルヴィディエルに見送られて、龍慈とアーシェラは、忘れられた城から旅立った。
別れの寂しさ、知らない場所へ
「……あれ?」
龍慈は、眼下に広がる光景に違和感を
「…………?」
どうしたの? と声に出さず目で訊いてくるアーシェラ。
龍慈は、
「…………そうだ。――森はどこ行ったッ!?」
しかし、眼下に望めるのは、砂漠と岩山と
アーシェラに訊いてみると、
「そんな事はないと思う」
「ですよねー」
ではどういう事なのか?
「…………まさか、――あの城移動してたのかッ!?」
思いついたのは、ここが別の大陸だという可能性。
知らなかっただけでこの一ヶ月の間移動し続けていたのだとすると、十分あり得る話だが……
「でたらめにかっ飛んだ
それこそ、運命の女神様のお
「まぁいいか」
気にしても仕方がない。
「――リュージッ!」
アーシェラが、唐突に鋭い声を発した。
その目が向けられているのは、自分の背後。
龍慈は、90度旋回し、顔を横に、目をアーシェラが指差すその先に向けて――
「アーシェラは
身体強化が常態化してから勝手に視力が上がって行き、今では広大な原野で生きるアフリカの部族並みによく見える――そんな龍慈の目が
龍慈は、当然のようにそちらへ進路を変更し、高度を下げながらガンガン速度を上げて行く――が、二人の目の前で、最後尾の車輌がクリーチャーの群れに追い付かれ、取り付かれた。
横転する最後尾の車輌。数匹がそこへ
二重反転式回転翼の飛行速度では間に合わない。このままでは到着する前に全滅してしまう。
そこからの行動は、頭で考えてした訳ではなく――
「――しっかり
龍慈が、向かおうとしている現場に背を向け、右手でしっかりアーシェラの腰を
その直後、ドゴォオンッ、という砲声が晴れた青空に響き渡り、二人は砲撃の反動で砲弾の
――『
それは、『
しかし、慎重に進んではいたものの、行程の
そして、警戒任務中だった攻撃班の活躍で、車列から引き離す事に成功し、全速力で逃走を
「――クソがッ!
後ろから数えて2番目を走行するワイルドスチームに牽引された観光バスほどの大きさの
「早くしろッ!! グズグズするなッ!!」
「行け行け行け行けぇッ!!
今度は、備え付けの
「
上甲板は、グルリと落下防止用の
上甲板に一人残っていた攻撃班・班長は、
「――構えッ!!」
防衛班は、後方に戦力を集中させる形で配置に
その目に映るのは、一台
それは、
大きさは、軽乗用車ほど。前進する事ができるタイプの
昼夜を問わず群れで行動し、空腹で動けなくなる前に、生きたまま輸送したり
それ故に、探査系の魔法でも発見するのは非常に困難で、今回はそれに加えて、事前に得ていた情報で油断していた事もあって、発見が遅れてしまった。
「――まだだッ!! ギリギリまで引き付けろッ!!」
その威力が最も発揮されるのは近距離。しかし、クリーチャーを撃破するほどの威力はない。――だが、霊力があれば誰にでも使用する事ができ、攻撃範囲が広いため正確に狙いをつける必要がなく、連射が可能な上、大きく吹っ飛ばす事はできる。
『…………~ッ!!』
舗装されていない道を高速で走行する付随車の激しく揺れる上甲板で、命綱があっても
攻撃班・班長が、撃てッ!! と合図する――その直前、ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……ッ、と集中豪雨のような密度で降り注いだ光の弾丸の群れが、左側、次いで右側のクリーチャーの群れを先頭から後続へと
「ぃいいいいいぃ…よぉいしょぉおおおおおぉッッッ!!!!」
そんな威勢のいい掛け声と共に落ちてきた巨漢が、天をも震わせるほどの
「隕石ッ!?」
「いやッ、人だったぞッ!!」
騒然となる付随車の上甲板――そこに響く、トンッ、という軽やかな音。
不意に背後から聞こえてきた物音に、班長を始めとするその場の全員が一斉に、バッ、と振り返った。
すると、そこには――
『…………』
この世のものとは思えないほどの美貌に、悪路を走行中の振動をものともしない凛とした
時と場所を忘れて思わず
そんな視線を
〝マザー〟から
それ故に、余人の目には、長さ約2メートルの両端が鋭く
そして、
『…………』
唖然呆然とする団員達。そこへ――
「――
「――――ッ!?
牽引車側から掛けられた車長の声で、はっ、と我に返った攻撃班・班長が、自分もその場で片膝立ちの低い姿勢になりつつ防衛班の団員達に指示し、全員が我に返ってその場で伏せるのとほぼ同時に、7号車は
「――6、7号車は戦闘準備のまま待機ッ!! 俺達が出たら閉めろッ!!」
直後、ガコンッ、と
そのように、仲間達がやるべき事をやっていた時、7号車の上甲板にいる団員達は、先程の出来事が、現実だったのか、それとも極限状態で錯乱した結果の幻覚だったのか判然とせず、へたり込んだまま茫然としていた。
ちょうどその頃――
――ヴヴヴヴヴヴッ、ヴヴヴヴヴッ、ヴヴヴヴヴヴヴヴッ、ヴヴヴヴヴッ!!
左から来るクリーチャーは、バルカン砲に変形した〔
「――リュージっ!」
後ろから呼び掛けられて、はっ、と我に返った時、動くクリーチャーは1体も残っていなかった。
「大丈夫?」
「おうっ。そっちは
結構な数を通してしまったと思ったが、ここにいるという事はその
「リュージも、……凄い」
古代王国最強の戦士は、周囲を見回して目を
加勢しなければと急いだにもかかわらず、着いてみれば既に終わっていた。しかも、そのほとんどが真上からの一撃で、
尋常な
「なぁに、みんなが協力してくれたからな」
〔
「おかげで確信できた。――俺は戦える」
〝マザー〟の時は頭に血が上っていてその実感がなかったので、龍慈の中では今回が
そして、クリーチャーと対峙してみて、
奴らは、積極的に人を襲う。だが、それは、機械的に処理している訳でも、殺しを楽しんでいる訳でもない。――食らうために、生きるために、襲い掛かって来る。
それを知って、龍慈は、
クリーチャーを作り出し、地上に落しているのがエルフだとしても、今ここにいない奴らは関係ない。
今、
生きるか、死ぬか、二つに一つ。
そうと分かった今、奴らをぶち殺す事に、
「リュージ。敵はまだ残ってる」
「ん? ……おぉっ、そうだった!」
二人は、クリーチャーの死骸を乗り越えて駆け出し、奴らに追い付かれて横転させられた車輌の
しかし、結果から言ってしまうと、生存者は0。
例え
龍慈は、アーシェラと共にそいつらを
「~~~~ッッッ!!!?」
――思い知った。
今、
横転した
そして、一目見てそうと分かるほどに破壊された人体を、血が、内臓が、
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