第8話 忘れられた城にて
アーシェラが旅の仲間に加わった。
ならば、よりしっかりと準備をしたほうが良いだろう。
しかし、
「あとは、これをどうするか……」
そう
アーシェラを閉じ込めていた方は粉々に砕け散って跡形もないが、こちらは、大小無数の
「…………」
ここから〝マザー〟が復活する事はないと思う。だが、それでも放置してはおけない。それでは安心して旅に出る事ができない。
黙考するアーシェラ。その
「武器や防具を作る素材として使えるんじゃないか?」
もらって良いか
そして、今
「俺の
一瞬で変形する様子を初めて見て目を
「どうだ相棒? なんかに使えそうか?」
一見すると左右対称なだけの巨大な銀の腕、その右掌をコアの欠片に向けつつ龍慈が問い掛けると、それに
そんな事もできたのか、と目を丸くする使い手をよそに、全て吸い込むなりまた音を立てて変形し、巨大な右腕に戻る〔神秘銀の機巧腕〕。
「ん? あっち?」
その右手の人差し指が、自分の意思とは無関係にとある方向を指差した。
どうやらそちらに欲しいものがあるらしい――そう察して龍慈が歩き出すと、その後にアーシェラが続き、封印の部屋を出ると、そこで中の様子を見守っていたヴァルヴィディエルもついてくる。
そんな一行が
「ここにある武器って、もらって良いんだよな?」
「〝それだけではない〟〝宝も、この城も、全て星獣の女王を倒した
ヴァルヴィディエルの言う『宝』とは、宝物庫に納められた金銀財宝の事で、〝マザー〟を倒した者に与えられる褒賞であり、実は、己が身を犠牲にして
「――待って」
そう声を上げたのはアーシェラで、
「これは、まだ必要だから」
そう言いつつ歩み寄り、手に取ったのは、彼女が使っていたという
龍慈は、笑って承諾し、構わねぇだろ? と左手で
果たして、これから何が起きて、何が出来上がるのか?
龍慈が、アーシェラが、ヴァルヴィディエルが、
「…………ん? ――ふぉおおおおおおおぉッ!!!?」
それきり何も起きないので、ひょっとして何かが出来上がるのではなく取り込む事でパワーアップするパターンか――と思った直後、突然、右の巨腕が、ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……、と猛烈な勢いで
びっくりし過ぎて奇声を上げる龍慈。それに驚いて、ビクッ、と躰を強張らせるアーシェラとヴァルヴィディエル。
〔神秘銀の機巧腕〕が高速振動していたのは、10秒ほど。始まりと同じぐらい唐突に、ピタッ、と止まり、銀腕の内側から響いてきたのは、チーンッ、という電子レンジやトースターのようなベルの音。
「…………」
いったい〔
そんな事を考えていたのもあって、好奇心から中を
「――ぷぉオッ!?」
まさに間一髪。直感に
「
開口部が音を立てて閉じ、何事もなかったかのような〔
それは、八角形の
長さは1メートルほどで、先端に向かって太くなっており、表面は鏡のように磨き上げられていて
「〝あれほどの宝具を潰して出来たのがそれか?〟」
どうやら期待外れだったらしい。それを見て、
アーシェラは何も言わないが、微妙な表情の変化から察するに、気持ちは同じようだ。
それに対して、龍慈は、満足げに笑いながら、
「俺には、こういうのが良いんだよ」
昔、勇仁に誘われて合気道を始めた。そして、居合いにも誘われたのだが、そちらはやらなかった。
それは、合気道の稽古で
しかし、元の世界には存在しない
戦闘になれば、左腕に〔
「ただなぁ~……。持ち歩くには良いんだが、
そんな風に内心を
「おぉ~……。なるほど、そういう
にんまりと笑う龍慈。
一方で、アーシェラは、その様子を見ていて何か思いついたらしい。
「形状を意のままに変化させる事ができるのは、〝マザー〟の
何事かブツブツ
その様子に気付いた龍慈は、矛に何かするのだと思ったが、変化が生じたのは、身に付けた装甲のほう。だが、完全に予想が間違っていたという訳ではなく、液体金属のように形を失った装甲が躰から離れ、空中を移動して矛を
小さく頷いているのを見るに、
その説明を聞いた龍慈は、なるほど、と頷いて、
「じゃあ、とりあえずこれ着ておきな」
そう言って、アーシェラに、また自分のチュニックを差し出した。
――何はともあれ。
「まずは準備。移動はそれから。……できるようになったからには、旅立つ前にやっとかねぇとなぁ~」
新たな【
龍慈は、心底嫌そうに深々とため息をついた。
――一週間では
そう期限を思い付きで適当に決めて、〝マザー〟の封印を守るために
この期間中に成すべき事は、主に二つ。
一つは、龍慈が、一つ使えるようになるたびに、意識を保っていられないほどの頭痛に襲われる【仙人掌】を、最低限必要な数、安全なこの場所で会得して使いこなせるようになる事。『にせんしゅるいくらいある』そうだが、冗談じゃない、とは龍慈の弁。
もう一つは、アーシェラが、期せず〝マザー〟から
そのために滞在するのは、忘れられた城の上層に存在する宮殿。
この城は、最下層に発着デッキがあり、下層の五階と中層の四階は、様々な罠や無数の仕掛け、要所に封印されているモンスターや警備用のゴーレムが待ち受ける迷宮で、上層に宮殿が存在する。
そのどこもかしこもが
それは、計9階層の迷宮だけでなく、上層に存在する宮殿もまた、人がいない状態で一定の時間が経過すると自動的に復元され、建造された当時の状態に戻るから。
起動した
それ
そんな忘れられた城には、観賞するための庭園はあっても、
それが、『アムリタ』。宮殿の一室、その中央に備え付けられている
ただ、アムリタと言っても、インド神話に登場する有名な神酒のように、飲んだだけで不死になったり、強大な力を得られたりといった効果はない。
だが、一口飲めば、腹は満ち足り、疲労は
そんなアムリタは、真珠のような光沢ととろみがある乳白色の液体で、ヨーグルトに蜂蜜と数種のハーブと微量のスパイスを加えたような味わいの酒っぽくない飲み物で、なかなか
そんな訳で、躰に
そして、特に武道場のような場所はないが、元封印の部屋や、城の仕掛けを遠隔操作できるヴァルヴィディエルに頼んで下の迷宮に
龍慈とアーシェラは、そんな
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます