クリーンな気持ちで

一色 サラ

・・・・

 「いらっしゃいませ」

 仕事の休みのお昼前の土曜日に、井河澤いかさわ 絵里えりは、アパートから5分くらい歩いた先のクリーニング店に入店すると、カウンターに益川ますかわ 健斗けんとが立っていた。      

 いつも対応してくる大学の時からの友人である亜美じゃなくて、健斗だったことに、動揺してしまった。健斗とは高校の同級生で、3年前にこの店に入店した際に4年ぶりに会った。

「亜美は?」

動揺を隠すように言った。

「亜美ちゃん、今日はお休み」

 いつも、土曜日の午前中に店先にいる亜美に会うことも楽しみにもしていたので、少し残念だった。

 絵里は、健斗に会うことは少し気まずい気持ちがあった。高校生の時、健斗に交際を申し込んだことあった。その時、交際を断れた。絵里からしたら気まずさがあるのに、健斗は何も気にしていない様子で、3年前も久しぶりの一言だった。もしかしたら忘れるのかもしれないけど、絵里からしたら気まずいのだ。健斗はその時、たぶん学年関係なく、不特定多数の交際を申し込まれたと噂になっていた。その1人に数えられる絵里のことなど覚えていないのだろう。それに、すべて断ったとも聞いていた。ただ、健斗に他校に恋人がいると噂は広がってもいた。

「絵里ちゃん、今日はどうしたの?」

「どうしたのって、クリーニングだしに来ただけだよ」

「だよね~。じゃあ、洗ってほしいものを、ここに置いてください」

紙袋を置くと、益川が中身を確認していく。のほほんとマイペースな益川のリズムに巻き込まれていく。

 「いらっしゃい。」

 奥から、店を経営する松永まつなが 栄治えいじが、奥から顔を出してきた。

「健斗くん、ちょっと指しってくるわ」

そう言って、店を出て行った。たぶん、向かいにある店に行くのだろう。

「将棋?」

「うん、いつものことだよ」

クリーニングの前にある喫茶店で、よく将棋がしている人が集まっている。

「全部で5,000円ね。」

 絵里は、財布から1万円出して、支払った。おつりの5,000円を受け取った。

「じゃあ、月曜日の17時以降に仕上がるから取りに来て。」

「分かった」

「じゃあ、こちらにサインして。」

領収書の控えにサインをした。

「ただいま」

 店に誰が入ってきた。松永 友香ともか先生だった。高校の英語教師だった人だ。

「ああ、井河澤さん、こんばんは。」

 少し慣れていた気まずさが、また倍増してきた。松永先生は大きなお腹をしていた。妊娠8か月と聞いている。2人は2年前に結婚した。素直に絵里は祝福できなかった。

 健斗は、高校を卒業して、松永先生と付き合っていらしい。亜美から聞いた話だ。

「じゃあ、私はこれで」

絵里は気まずさと共に、松永先生に会釈をして、店を出た。心も洗濯してクリーンな気持ちで健斗と再会したかった。


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