第22話 子豚の名前


「この子なんて名前なの?」


 わたしが膝の上で子豚を撫でると、はる先輩が優しく微笑んだ。


「名前なんてないのよ。名前をつけると辛くなるだけだから」


「その冗談は笑えないからもういいです」


 わたしが苦笑いで返すと、陽先輩はキョトンと首を傾けた。


「うん?」


「え? その反応怖いんですけど」


 わたしが周りを見回すと、音々ねおんさんと光姫みつきさんは目をそらした。


「え? みんなどうし――」


 わたしの後ろの壁から、まな板に包丁を叩きつけたような音がした。振り向くと壁にフォークが刺さっていて、ハエのような虫が磔になっている。


「暖かくなってくると虫が出るようになるから嫌ね」


 陽先輩のお皿にあったフォークがなくなっていた。


 音々さんと光姫さんのそらされた目から『わたし達では陽先輩を止められないの』と聞こえた気がした。




(※この作品はフィクションです。このあとちゃんと冗談だとわかりました)

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