第18話 予防線


「というわけで、ブッシュ・ド・ノエルを準備したわけだ」


 音々ねおんさんが紙の小箱を丸テーブルに置いた。丁寧に赤いリボンで飾り付けられている。


「四月にクリスマスケーキを用意できるなんて、音々先輩流石です!」


 光姫みつきさんが一人で手を叩いて音々さんを称える。確かにクリスマス以外の時期にブッシュ・ド・ノエルを見ることなんてほとんどない。


 いや、でもそれはブッシュ・ド・ノエルを春に探すことがないからだ。クリスマスケーキを春に探す人を見かけたら正気を疑う。


 色々思うところはあるけれど、そのせいでケーキを食べれなくなるのは困るから何も言わない。


「たべ子さんは悩ましい表情をしているが、これはクリスマス以外にクリスマスケーキを食べたらその日はクリスマスたり得るのかという、文化的実験だよ。イベントと食文化は切って離せない関係があってだね。食がイベントという文化を作り出しているのではないかという――」


「いや、なんで何も言ってないのにぐだぐた説明し始めた?」


 何も言わないと決めていたのに、思わず音々さんを止めてしまった。


 音々さんは咳払いをする。


「失礼した。いや、別にたべ子さんを信用していないというわけではないのだがね。さすがにケーキを投げられたらたまらないというか……」


「あ、うん。ごめん」


 いきなりブッシュ・ド・ノエルを出されていたら確かに投げてたわ。




(※この作品はフィクションです。値段に関係なく食べ物は大切に食べましょう)

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