第13話 約束


「はっくしょーん!」


 わざとらしい大きなくしゃみが教室に響いた。一瞬にして教室が静まりかえる。


「わたしの噂話をしていたようだね」


 芝居じみた話し方だけで音々ねおんさんだとわかった。教室の扉から真っ直ぐこっちに向かってくる黒縁メガネにクラスメイトの視線が集まっている。別のクラスに堂々と入ってこれる精神力だけは尊敬に値する。


「音々さんの噂話はとっくに終わったから戻っていいよ」


 そう言って引き下がる音々さんじゃない。机の真横まで来た。


「つれないじゃあないか。では何の話をしていたんだい?」


「たべ子は有名人だよって話をしてたの。音々さんも知ってるよね?」


 帆乃ほのが勝手に答えた。それなのに音々さんが顔はわたしの方を向く。


「おや、たべ子さんは有名人だったのかい? でも最初に目をつけたのはわたしだろう?」


「残念。最初に目をつけたのはわたしです。幼稚園からの付き合いだからね」


 帆乃が両手の人差し指を自分の頬に向けた。音々さんは右手を額に当てて天井を仰ぐ。


「こいつは参った。ぜひたべ子さんのことをご教授願いたい。たべ子さんを迎えに上がったのだが、一緒にどうだい?」


「うーん。どうしよう。そもそもたべ子は行くの?」


「行くよ」


 帆乃がニヤニヤと嫌らしい笑みを見せた。


「なんだかんだ気に入ってるんじゃん」


「ううん。でも今日はちゃんとお菓子を貰える約束したからね」


「その食い意地の張り方は尊敬に値するよね」


 帆乃はよく笑う子だ。




(※この作品はフィクションです。簡単にお菓子に釣られてはいけません)

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