第38話 穴埋め——side聖女デリラ

 フィーグが追放されてから二週間。

 勇者パーティの一員、聖女デリラは同じパーティの魔術師サラに喚き散らす。



「だからさあ、なんでフィーグより下手なのよ。

 アンタら、女のくせに!」



 聖女デリラは魔法使いサラを明らかに下に見ていた。

 フィーグと同じように。



「聖女デリラ、私たちは冒険者としてずっとやってきたので洗濯のスキルなど無いんですよ。

 質を求めるなら、洗濯屋に持っていくのがよろしいかと」


「じゃあ、フィーグはどうやってあんなに綺麗に洗濯できていたのよ?」


「フィーグさんは洗濯職人の店に行っていましたが?」


「だからって、私が洗濯屋に行けと?

 言い訳ばかりで……こんな役立たずがどうして残っているのよ!」



 フィーグは洗濯や掃除など、あらゆる雑用をこなしていた。 

 とはいえ職人に頼むなどしてお金を使っていた様子もない。


 魔術師サラは、フィーグが職人のスキル整備メンテをして代わりに作業を代行してもらっていたことを知っていた。

 前に勇者アクファや聖女デリラに伝えたことはあったのだが、彼らは一笑に付していたのだ。



「はあぁ……フィーグさん——。どうして?

 私も勇者アクファたちのイジメを止められなかったから?


 うう、ごめんなさい……フィーグさん。

 でも……いなくなってやっと分かるなんて、もう遅いわね」



 溜息をつき、洗濯を続ける魔術師サラ。

 次に掃除や食事を作る仕事が待っていた。


 勇者パーティ専用宿舎には、元々掃除をしたり洗濯をする専属のメイドがいたのだが、フィーグ来た頃にはいなくなっていた。

 雑用はフィーグが行うようになり一旦はそれで回るようになったのだが、今はフィーグすらいない。


 再募集するのだけど、割と高い報酬にもかかわらず誰も応募をしない。

 宿舎管理人も首をかしげるだけだ。



「私も、辞めたくなってきたな……」



 そう魔術師サラはぼやくのだった。



 ☆☆☆☆☆☆



「ああ……ッ。また洋服がシワになっているわ。

 アイツ、どこに行ったのかしら」



 聖女デリラは、フィーグの居場所が分かれば、そこに行って連れ戻そうと考えていた。

 高圧的に言えば、あるいは、身体を使って誘惑をすればフィーグは従うだろうと思っている。

 以前、こんなことがあった——。



「フィーグ、これとこれ、洗濯お願い」


「聖女デリラ……他のメンバーよりどうして量が多いのです?

 汚れていないのに洗濯に出していませんか?」


「あら……ウチのお願いを聞いて貰えないの?」



 聖女デリラはそう言って、フィーグに触れようとする。

 しかし、フィーグはサッと避ける。



「……どうして避けるの? お願いを聞いてくれたら、いいことだってしてあげたっていいのよ?」


「はぁ、聖女デリラ……あなたには婚約者がいるでしょう?」


「真面目ねえ。

 じゃあ、勇者アクファにフィーグの処遇について話し合わなければね。

 つべこべ言わずに、とっとと言うとおりにしてればいいのよ」


「……はあ、分かりました」 



 自分の美貌があれば、フィーグも従うと思っていた聖女デリラはこんな男もいるのだと驚く。


 何度か誘惑したのだがフィーグはまったくなびかなかった。

 そのため、高圧的に圧力をかけて従わせてきた。


 フィーグはすぐにパーティをやめるわけにいかない。

 彼は魔法学院に通う妹の学費を稼ぐ必要があることを知っていたので、ちょっとパーティ構成の決定権がある勇者アクファの名を出せば怯むことを利用していた。



 ☆☆☆☆☆☆



 そんなフィーグがまさか出ていってしまうとは。

 聖女デリラは連れ戻そうとしない勇者アクファに抗議しに行ったのだが——。



「アクファ、どうしてフィーグを追放したの?

 雑用係がいなくなって困るのだけど」


「ああ、それは……楽しいからだ。

 それに文句も多くてアイツを置いていても面倒だったからな」


「アクファ、あなた……知ってるわよ。

 雇われた雑用係の女に迫って無理矢理したり、夜の街で無理矢理働かせたり……」


「それがどうした?

 雑用係なら男より女の方が良い。

 どうせまた応募があるだろう」


「……せめて次の雑用係が見つかってからでも良かったのに」


「ああ、それはこのままだと正式メンバーになってしまうから、時期的な問題もあった。

 クッ。希望を断たれたフィーグの顔……傑作だったぞ?

 アハハハハハハ!」



 聖女デリラは違和感を抱く。

 性格はともかく、この計画性の無さは何だろう?


 欲望に身をうずめ、快楽だけを求めている。

 得体の知れない不安に、聖女デリラはこれ以上突っ込めなかったのだった。




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